19話「ツルノ芋と初コラボ」
次の日、俺は市場へ向かった。
目当ては――ビール(仮)に合う“相棒”だ。
市場の奥まった場所、乾物屋の軒先で、やけに香ばしい匂いに足が止まる。
籠の中には、黄褐色のごつごつした塊。
「お、あんちゃん目が高いねえ」
店主が笑いながら手に取る。
「これが“ツルノ芋”さ。焼くと外はカリっと、中はホロホロで、チーズみたいな風味になるんだ」
チーズ……! まさにビールの相棒じゃないか。
俺はその場で数個買い込み、店主から調理法を聞きながら帰路についた。
作業小屋に戻り、まずは薄く切って炙ってみる。
香りが立ち上がった瞬間、鼻腔をくすぐる濃厚な匂いに思わずニヤけた。
ひと口かじると、外はサクッ、中はねっとり、そしてほのかな塩気とコク――これは確実に酒を呼ぶ味だ。
ネリィの居酒屋へ駆け込み、厨房を借りて皿に盛りつける。
「ちょっとこれ、試してくれ」
俺は例のヤミシラ+ヒレツナ麦酒を注いだジョッキと、ツルノ芋の炙りをカウンターに並べた。
ネリィは芋を一切れ口に入れ、すぐに麦酒をぐいっとあおる。
次の瞬間――にやりと笑った。
「……うん、これ、危ないわね」
「だろ?」
「ツルノ芋の濃厚さと、この酒のキレ……無限ループよ」
試しに居酒屋の常連数人にも出してみる。
全員が同じように、食べては飲み、飲んでは食べ――気づけば皿もジョッキも空になっていた。
「……やべえ、売れる」
俺は胸の奥でガッツポーズを決めた。
ビール(仮)とツマミの最初の組み合わせが、確かな手応えをくれたのだ。
数日後、ツルノ芋の相性の良さに味を占めた俺は、次なるツマミの構想を練っていた。
――やっぱりビールといえば、フランクフルトだろ。
頭の中で、パリッとした皮が弾け、肉汁がほとばしる映像が流れる。くぅ、想像だけで飲めそうだ。
俺は肉を求めて市場へ向かった。
精肉屋の前では、朝から客が並んでいる。大きな肉塊をぶら下げた親父が、手早く包丁を入れていく。
「ソーセージ用の挽き肉? ああ、作れなくはないが……香辛料と腸詰めの皮は自分で用意しなきゃだめだぜ」
親父の言葉を聞きながら、俺の中で工程が組み上がっていく。
あとは香りづけのハーブと、腸の代わりになる何かがあれば――いける。
市場を歩き回って必要な材料を揃え、作業小屋に戻る頃には、脳内で“理想のフランク”がほぼ完成していた。
一方その頃、ネリィの居酒屋は客足が急激に伸びていた。
ヤミシラ+ヒレツナ麦酒とツルノ芋の噂は、商人から職人、冒険者まで、あっという間に広まっていたのだ。
カウンターもテーブル席も埋まり、笑い声とジョッキの音がひっきりなしに響く。
だが、そんな活気の中で、妙な変化があった。
数日前から、フードを深くかぶった人物たちが複数で来店するようになったのだ。
彼らは決して騒がず、ただ静かに酒を飲み、何かを観察するように店内を見回している。
ネリィは俺に直接は言わなかったが、その目つきがどこか落ち着かないのを、俺は見逃さなかった。
――なんだ、あいつら。
心の片隅に不穏な影を感じながらも、俺はフランクフルト作りに没頭することにした。
今はまだ、ビールとツマミの夢を追うときだ。




