第17話「ハーブと試作と、六つの可能性」
朝。
朝靄の中、薪を割る音が響く中で、俺は農家の三人に頭を下げていた。
「本当に、お世話になりました!」
「次は飲ませてもらうぞ、苦いヤツをな」
じいさんが太い腕で肩を叩いてくる。骨が軋んだ。
ミーシャはやや困ったような、それでも優しい笑みで言った。
「……くれぐれも、気をつけて」
そして寝たきりの祖母――レアばあちゃんは、俺の手をゆっくりと握った。
言葉はなかったが、その手の温もりは何かを訴えているようだった。
俺は何度も頭を下げ、森を抜けて、作業小屋へと戻った。
「さて……実験タイム、開始!」
俺はまず、あらかじめ仕込んでいた麦酒もどきの樽を開けた。
レアト麦を糖化させて作った液体。茶色くて甘く、香ばしい……だけど、ビールではない。
冷静に考えると、これはただの「メープル風麦シロップ」だ。酒とは言い難い。
「でも、こいつに“何か”を加えたら……ビールっぽくなる、かもしれない!」
俺は小鍋にこの液体を移して、火にかける。
「煮立たせることで雑菌も飛ぶし、ハーブの成分も抽出しやすくなるはず……!」
慎重に火加減を調整しながら、液体をくつくつと煮立たせる。
ぐらぐらにしすぎるとアルコールが飛ぶので、弱火でコトコト。
「そして……この中に、選び抜かれしハーブたちを……!」
用意したのは、農家から分けてもらった三種類のハーブ:
《ヤミシラの葉》:舌の奥に渋みを残す葉
《ヒレツナ草》:スパイシーでピリつく刺激系
《フラミン根》:苦みと香ばしさを併せ持つ根
これらを組み合わせ、まずは6通りの試作を作ることにした。
ヤミシラ単体
ヒレツナ単体
フラミン単体
ヤミシラ+ヒレツナ
ヒレツナ+フラミン
ヤミシラ+フラミン
「なんか……理科の自由研究みたいだな……」
少しワクワクしながら、6つの小鍋に小分けし、それぞれに刻んだハーブを投入。
漂う香りは、なかなか個性的だ。
ヤミシラ系は草っぽい、抹茶に近いような苦みのある匂い。
ヒレツナ系は刺激的で、鼻の奥にツンとくる。
フラミン系は、ほうじ茶を濃くしたような、香ばしく焦げた香りだ。
「これは……期待できそうだぞ……!」
それぞれを瓶に詰め、冷まして発酵を待つ。
完全なビールになるには炭酸と熟成も必要だが、今回はあくまで苦みと風味の確認が目的。
それでも、今までで一番“それっぽい”気がした。
「よし……数日後の試飲が楽しみだな!」
俺は小屋の奥で、瓶のラベルにナンバーを書きながら、思わずニヤついてしまった。
ほんの少しずつだが、この異世界で本物の酒に近づいている。
――その夜、ネリィに報告しに行ったら、
「ようやく前に進んだ感じですね。……ふふ、頑張ってください」
と笑ってくれた。
その笑顔が、妙に眩しかった。




