第11話「麦と汗と、はじめての失敗」
カイルが旅立って、二日目の朝。
俺は一人、作業小屋にいた。
……静かだ。
昨日までいた“ツッコミ役”がいなくなると、ちょっと寂しい。
だが、今の俺にはやることがある。
そう、いよいよ――
「麦酒の仕込み、始めるぜ!!」
今回使うのは、異世界産の穀物――レアト麦。
見た目は大麦に似ているが、殻が非常に固く、噛むとポキンと折れる。
香りは、ほんのり甘く、どことなく焦がし砂糖のような匂いがある。
「……うん、こいつぁ間違いなくビール向きだな」
ただし、ひとつ問題がある。
「水、吸わねぇ!!?」
通常の麦なら、数時間でふやけるはずが、レアト麦は丸一晩漬けても芯が硬い。
ネリィさん曰く、“魔力障壁みたいな殻”らしい。
──チュートリアルから無言でハードモードなのやめてもらえません?
◆試行錯誤その1:ただ煮てみる
鍋でガンガンに煮てみた。
→結果:殻がはじけて鍋が爆発した。
→副産物:小屋が焦げた。泣いた。
◆試行錯誤その2:石臼で挽いてから煮る
固いけど、粉にしちゃえば吸水するのでは?と考えた。
→結果:粉が粘ついて“麦もち”みたいになる。
→副産物:手にめちゃくちゃくっつく。泣いた。
◆試行錯誤その3:ネリィに泣きつく
「お願い、助けてネリィさん……」
「もう。アンタ、何やったの……ああ、これは“グルテン精霊”が怒るやつね」
「精霊のせいなの!?」
そして教えてもらった。
●レアト麦の特徴(豆知識)
殻に微弱な魔力を帯びており、常温水ではほとんど吸水しない
“浸魔水”という、少量の魔力を帯びた水でゆっくり吸わせると柔らかくなる
砕いて使うなら、「乾燥粉砕→水和→休ませ→再加熱」の手順が必要
ようするに、「急がば回れ」ってことだ。
仕込みには丸2日くらいかかる。焦ってはいけない。
「……わかったよ異世界。
こっちじゃ“努力”がスキルだってことなんだな」
それからの俺は、もう真剣そのものだった。
朝から水を魔力水に変える作業。ネリィから借りた魔導石を使い、少しずつ麦を浸す。
昼は、乾燥→粉砕→ふるい分け。
夜は、小屋にこもって試験発酵。毎回、泡が出るたびにニヤニヤする自分がいた。
だが、失敗は続く。
温度が高すぎて発酵が止まり。
香りが飛んでしまったり。
麦が腐って、スライムを呼んだり(※リアルに)。
それでも――俺は、やめなかった。
カイルの言葉が、どこかで支えてくれていた。
「いつか、それを運ぶ。世界中に届けてやる」
「だったら……まずはこの一杯を、世界に届けられる味にしなきゃな」
汗だくになりながら、俺は今日も麦と格闘している。
まだ成功じゃない。でも、手応えはある。
夜、小屋の外に出て、空を見上げる。
いつか、こいつで“乾杯”できる日が来るだろうか。
「よし。明日は“ホップっぽいやつ”を探しに行くか」
まだまだ、やることは山積みだ。




