5話「美」
ここにいる人は全員超のつく犯罪者らしい。ガリレオはその中でも群を抜いており、この『世界』全ての犯罪者が崇めるほどの完璧超人だ。犯罪者コミュニティの核、ガリレオとハップルとケプラーとコペルニクス。それぞれ名乗り、礼儀正しく頭を下げた。ああ、違う。ガリレオは態度がでかくて頭は下げてない。コペルニクスは名乗ってもいないし頭も下げなかったな。笑いながら踊って絵を描いてたし彼はそういう人なのか。後から名前を聞いた。挨拶はこれぐらいにして、
さて、本題だ。
「外に行きたい」
「馬鹿か?」
「それでもいい」
ガリレオは鼻で笑う。
「タダって訳にはいかねぇな」
「お金ですか」
「いいぜ。それでも」
「いくらですか」
「20000ドミネ」
馬鹿げた数値を言われた。20000だなんて、良い建物を丸ごと買える値段だ。
「その情報は本当か?」
その言葉に対してケプラーが物凄い剣幕で迫る。
「貴様、ガリレオさんに失礼だぞ。死にたいのか」
ガリレオは片手でケプラーを制する。
「ああ。勿論。俺は取引でズルはしない」
「証拠は?」
「あるさ。行けば分かる。ダメだったら金も返すし何ならお詫びに俺の自慢の奴隷をやるよ」
奴隷ってこの椅子にしてる人間の事か? 上流階級は奴隷を所有してると聞いた事はあるが、まさかこんな事をしているとは。
「奴隷はいりません。情報が本当であれば、それで良いんです」
「つれねぇぜ全く。……本当だよ。俺の美しい面を賭けて保証する」
確かに顔立ちは整っているが、人間に座っている絵面がきつい。
「20000ドミネ、用意します」
「見た限り庶民だな。手には錆が、右膝には石膏が付いてる。ズボンの裾がほつれてる。そのほつれは破けに近い。普通じゃ、付かない。機械修理の仕事かと思ったが、腕の筋肉の付き方からして力仕事メインだな。動き回る仕事だ。手の平の横に線が入ったような跡、リアカーを押してできた跡だ」
突然饒舌に喋り始めた。しかもその推理は、全て合っている。
「お前、屑売りか」
見事に職業を言い当てられた。ガリレオ、正直ここまで凄い人だとは思わなかった。
「本当に用意できるのかよ」
当たりだと確信してにやけるガリレオ。俺は金に関しては自信がある。何も丸腰で取引するつもりはない。
「できます。私の父の遺産と貯蔵していた美術品で、いかがでしょう」
ガリレオの眉間にシワが寄る。
「お前の父はこんな事の為に遺産残した訳じゃねぇだろ?」
「それは分かりません。排除されたんで」
「そうかよ。なら好きにして構わねぇぜ。美術品は俺が買い取る形で取引額から差し引かせてもらう。それで良いか?」
「品は明日」
「査定に関しては安心しろ。それにも俺の面の皮が保証でかかってるんでね」
ハップルが笑う。きつい冗談だ。
「明日、必ずここに持ってこい。保安官に見つかったら即刻この話は無しだ。尾行もされるな。良いな?」
「ああ」
緊張感が凄い。これが犯罪者の風格か。
「話は終わりだ。帰れ」
俺はその集いの場から去り、品を用意した。遺産を全て、外の為につぎ込んだ。ごめん。父さん。俺は馬鹿だ。今じゃこんなにも惨めだ。ここは、金も権力も何の意味も持たないよ。確かに真の自由さ。自由過ぎて何もできやしない。住処に帰ると、君が出迎えてくれる。
「ただいま」
「おかえり」
ムッとした君の顔。その表情で俺の緊張が解けた。
「また酔ってるでしょ? ダメだよきちんとしなきゃ」
「ごめん」
「こら!」
君のげんこつ。力が無く、間抜けな音を鳴らしそうな打撃だ。今になって効いてくるよ。本当にごめん。俺は馬鹿だ。
「俺がここを出てる間、退屈だよね?」
「ううん。冒険できて、とっても楽しいよ!」
笑顔。俺の面の皮を賭けて君の美しさを保証するよ。冗談だよ。笑ってくれ。
「ねぇ」
俺はふと君に聞いてみたくなった。
「君にとっての美って何?」
「えー……難しいなー」
考え込む君。首を傾げて口を軽く尖らせる。髪を指で巻いて遊ばせながら、しばらく沈黙していた。
「そうだな、私にとってはお花だけど。それだけではないとは思うの」
「聞かせて?」
「命の輝き、じゃあダメ?」
「格好いいね。命の輝き」
「ちょっとやめて。改めて言わないでよ」
「恥ずかしい?」
「ちょっと……いや、そうじゃなくて。だから、私は、お花のいつかは枯れてしまう儚さとか蕾の状態から開きそうになる希望に溢れた姿とか、そういうのがとても好きなの」
「ふーん」
「人間の魅力もそれに近いかなって」
「命は綺麗だものね」
「きっと誰しも花を咲かせる時があるの。一生の中で最も輝いて、自分が主役だぞって感じ」
「うん」
「やっぱりそういう時が一番美しいと思うな。花も人も」
「ありがとう」
「……参考になった?」
「とても」
「そう? 良かったー。どうしようかと思ったよー」
「いきなりだったからね」
そうか。誰しも花を咲かせる時。満開の瞬間が、誰しもある。俺は、いつだ?君も疲れてるみたいだ。寝息が聞こえる。か細くて優しい声。君の寝顔は見ずに布を掛ける。俺は自室に向かい日記を書いた。また日にちを跨いでしまった。
最近、俺は何かに焦りを感じている。何が迫っているんだ?君の笑顔に眩しさを感じたあの頃を取り戻したい。叶わぬ願いだな。現に俺は、君を突き放したんだから。俺にとっての美は、君だよ。君の姿、君の生きる場所すら美しくあるように俺は力を尽くしたい。
「人間は、美しさを求める獣さ。」
ガリレオが呟いた言葉にどんな意味があるのだろうか。
情報が手に入る道が拓けた。長かった。法外者や犯罪者達は保安官達にとって不利な情報を持ってる。彼らに要求された金はとんでもない額だったが、信用できる。
最近保安官達に目をつけられている。目立った行動はもうできない。
今日も君は何も言わずに俺の側にいた。どうすればいい。俺は君をどうしたいのか、分からなくなっている。なんで君はそんなに笑えるんだ。




