10話「ラベンダーを」
俺は完璧じゃない。俺は外に出た事で、孤独になった。生きながら、死んだ。自分の意思で忘れる事が出来ないこの頭を呪った。外に行ったところで、何も良い事なんかない。俺は親友と、お前と一緒にこの『世界』にやって来た。ニュートンと、菊。
広い海を渡り、俺たちが出たはずのシェルターと同じシェルターを見た時には驚いた。道をいつの間にか引き返したのかとニュートンは疑ってたよ。俺は『未知』が嫌いだ。知らないというものが愚かだと思っているからだ。その考えが、一番愚かである事に気付くのはその『世界』の中に入ってしまった後の話になる。
『世界』の仕組みを知ってるか? 積み木の家。どうやら外の世界の海と呼ばれるものの高さが徐々に上がって来ているようだ。いずれは『世界』も水没する。しかしそいつは積み上がるんだ。上に同じものが重ねて作られ、海から逃げてる。上の『世界』への大移動を経験した事がある。これは俺以外誰も知り得ない情報だ。何故か? 移動したという記憶を保安官が消すからだ。俺が覚えているのは、辛うじて記憶補強剤、まあ覚えておく為の薬を打ったからだ。ニュートンにも打ったが、やつは遅かった。俺の事は覚えているが、今までの仲間の事を忘れちまった。
この『世界』を全て知ってるのは俺だけだ。面白いよな。ニュートンなら奴隷市場で情報屋をやってるよ。情報を受け取るぐらいでほとんど会ってないがな。
排除されたやつはどうなるか知ってるか? 上の『世界』を作る為に強制労働させられるんだ。体の自由を奪われ、死ぬまで働かされる。建設中の上の『世界』はな、街の全ての電柱に首を吊った人がいくつもいるぐらい残酷だ。俺にとって、美しいものはもうない。何も美しくない。俺の頭脳は明晰だろう。自分でも分かる。だが、その頭で非合理的な理由で外に出た事が愚かでならない。お前に、菊に、外を見せたかった。ただ、それだけなんだ。莉桜斗、お前と同じ理由だよ。お前の事を笑ったが、それは悲しくて笑ってんだ。自嘲の意味が強い。今は叶わないんだ。菊は、そこにいるけど、もういない。
「菊。外に出よう」
「またそれ? ......いいの。私はこの幸せで、いいの。あなたとこの家で過ごす。それでいいじゃない」
「お前は、目の前の美しさで満足するのか?」
「……外に出ちゃダメなんでしょ?」
「散々家の外に出てるんだ。壁の外に出るくらいどうって事はない」
「きっと止められるわ」
「外の世界は、保安官如きに止められる程の魅力じゃない」
「ねぇ、外の世界って何?」
「綺麗な世界なんだ。俺たちの理解の及ばない、汚れのない、でもどこか寂しい。この世の全てを詰め込んだ、幸せな地獄さ」
「どうせ本の知識でしょ? あるかどうか分からないわ!」
「お前と行きたい」
「私は、あなたと家にいられるだけでいいの。あなた、この家に名前つけたでしょ? マリア・チェレステ。気に入ってるのよ?」
「お前は自由を知らないだけだ!」
自由を知った結果がこれだ。
暁菊。お前を愛している。今もさ。だから思い出してくれ。俺を。あの家は、マリア・チェレステは、俺たちの家族なんだ。俺たちがいた『世界』に戻ろう。お前が俺の目を見る度に、俺は期待をしてしまう。お前は消えたんだ。もう戻らないお前にラベンダーを。お前はどこだ。お前は緩衣菊じゃないだろ?その髪は、その瞳は、その声は、お前じゃないか。そんな顔で笑わないでくれ。お前の笑顔は美し過ぎる。俺はこの『世界』が大嫌いだ。
「いらっしゃい」
俺はお前の姿を久し振りに見たんだ。お前は大移動の際に保安官に排除されたはずだから、もう見られないと思っていた。あの時の俺は、お前が保安官に連れ去られる光景を見て、動けなかったんだ。今の俺は違う。
「久し振りだな。どこにいた?」
「あんた、一体何の事だ?」
顔が凍りつく。と同時に俺は自分の推理に戦慄した。
「……どうも、ガリレオです。」
嘘だと言ってくれ。
「緩衣菊だ。どうぞよろしく。」
人違い?そんなはずはない。容姿声仕草まるっきり同じ別人がいてたまるか。
「ガリレオなんて変わった名前だね。」
「そうですね。」
「由来は?」
ああ、何て事だ。笑えるな。俺の推理は、正しかったようだ。懐から『お前』に渡すはずだった酒をお前に渡す。
「……これ、差し上げます。お酒です」
俺がお前の為に作ったんだ。マリア・チェレステ。あの家に咲いてる青い薔薇のドライフラワーだ。それが瓶の中に入ってて透明な酒が満ちている。
「綺麗だ……でも、こんな高いもの、いいのかい?」
当たり前だ。お前の為なんだ。お前はここにいる。俺は自分の推理を受け入れられない。信じてる。
「ええ。名前は、マリア・チェレステって言うんです。花酒の一つです。……見た事あります?」
「青い薔薇なんて初めて見たよ」
俺たちの家族は、目に見えず果てた。
「立派なコルクだ。それに、瓶は角ばってて素敵だ。絶対いい酒だ! 大切にするよ」
俺は滅多に泣かない。生産性がないからだ。だが、この笑顔が俺の理論を無価値に変えた。理屈で武装した心は、見事に更地と化した。頬を伝う液体に俺は気付けなかった。
「いつも傍にいてくれて、ありがとう」
俺はお前を抱きしめた。理由なんてものはない。必要ない。俺はお前を、2度失った。
「ちょっと……どうしたの?」
「いえ。すいません。初対面でいきなり……」
自分で言って辛くなる。
「平気だ。……何か辛い事が?」
笑わせるなよ。辛い事なんて何もないさ。どんな事があろうとも解決すればいい。俺は完璧だ。
「大丈夫です。……すいません。今日はそれを渡しに来たんです」
「じゃあ今度は飲みに来な。このガイガーに、帰ってきなよ」
「……はい。必ず、帰ります」
今じゃ地下に居座ってるけどな。懐かしい話だ。最初は俺、敬語だったんだぜ?おかしいよな。性に合ってねぇのによ。あいつは外に出られただろうか。俺は完璧だ。でもこれだけは分からない。あいつは誰だ?俺の家族を貶すあいつは、何故現れた?
俺はガリレオほど完璧じゃない。それでもいいさ。完璧じゃないから、自由を求めるんだ。人は、殻に閉ざされている。未知という恐怖、理屈という盾、美という多様な光、愛という不確かかつ確かな力。それらに覆われていて、常に自由を求めようと、殻を破ろうと足掻く。俺は、沢山の人の助けを借りて、その想いを背負い、君を背負い、空に向かっていた。保安官の姿はその想いを打ち砕く大きな壁に思えた。しかし、保安官は俺に語りかけた。
「外に、出るんだな?」
今更言い訳などしない。
「そうだ」
「私は、『ドミネーション』。保安官を統べる者。『世界』を統べる者」
「初耳だな。俺にどんな用だ」
「私には、あなたたちを外に見送る役目がある」
おかしい。保安官はあんなにも外を隠したがっていたじゃないか。
「どういう事だ。お前は俺を止めないのか」
保安官から処理を行うような電子音がする。
「俺は、目の前の美術品より、思い描く夢の方が美しいと思います」
保安官から聞こえたのは録音された俺の声だった。この言葉は、どこで言った?確かガイガーで言ったはずだ。なぜこいつは知っているんだ。
「きっと誰しも花を咲かせる時があるの。一生の中で最も輝いて、自分が主役だぞって感じ」
今度は君の声だ。廃病院で話した時の言葉だ。なぜだ。なぜ知ってる。
「待て。なぜその音声を持ってる。周りにはお前のようなやつはいなかったはずだ」
「言っただろう。『世界』を統べる者。世界の全てを知っている」
「全て……?」
「この『世界』全てに盗聴器、監視カメラが仕込んである。あなたたちの行動、延いてはこの中の人々全員の言動は私に筒抜けだ」
そんな。全て知っていたというのか。尚更、訳が分からなかった。
「質問に答えろ。知っていたなら尚更、お前は俺を止めるんじゃないのか?」
「いえ。あなたの自由を求める姿は美しい。その女性の、美の価値観は素晴らしい。私は、見送る役目を果たす。あなたがいずれ、外からここに帰ってきた時に歓迎しよう」
なるほど。これは最後の忠告。最後の良心という訳か。今までの支配的な保安官とは違う。対話するような、相手は全て知っての上でだ。
「俺は帰って来ない。この子もだ。外に行き、美しい世界を共に見にやってきた」
「スノードロップ」
どういう事だ?
「花言葉は、希望。そして、死を象徴する花だ」
「それは激励か? それとも嫌味か?」
「あなたに渡しましょう」
「必要ない」
「いずれ必要になるでしょう」
「花は、この子からしか貰わない」
俺には、強い覚悟があるんだ。
「外はこちらです」
ドミネーションに案内され、エスカレーターに乗った。結局、何がしたいんだ?
「私は、作られた」
ドミネーションは人間の温かみがある喋り方をする。
「人間にか?」
「ええ。突然出来た訳じゃない。それぞれ役目があって作られた。私はあなたを見送る役目」
「他の保安官は?」
「いずれ分かります」
沈黙。エスカレーターの鈍いモーター音が響く。
「私は、美とは何かが知りたいのだ」
この保安官、敬語で話すのか話さないのか、距離感が微妙だ。
「美? それは、素敵だね? 人間らしい悩みだ」
「皮肉を検知」
「いや、そういうつもりで言った訳じゃなくて。その、なんていうか、保安官らしくないね?」
「私はプログラムの中、自身の存在に疑問を持っている」
「どういう事だ?」
「やはり、私の役目は他の保安官の役目に反しているように思える。他に、この役目の真意があると考えているのだ」
「なるほど。つまり、美を求める人を送り出す事で、美とは何かを解明したいと」
「これは私の役目ではなく、意思です」
「立派だよ」
沈黙。出口の様な扉が見えてきた。
「私たちは本当に必要なのか」
「おいおい。それをお前が言うか?」
「美しさとは、人の死か。はたまた生か」
「随分と哲学的で。理論でぶつかる保安官からその言葉を聞きたかったね。そしたら揉めずに済むのにさ」
「私には、人の愛が分からない。それが美と言うのは浅はかだが、分からなければ判定できない」
「冷酷かも知れないが、お前は機械だからな」
「私は機械です。皆様の生活に全てを捧げます。それがあなた達の生きる事の美しさになるのなら、私はこのバグを削除します」
「あー……まぁ、考えるのも分かるよ?役目をなぜ、しなくちゃいけないか」
「あなたにも人の愛はあるでしょう。あなたにも愛している人はいるでしょう?」
「どうかな。分からないよ」
今なら分かる。お前は、人の愛が美しいものだと気付き始めていた。俺たちが、幸せになる為にこの『世界』に残って欲しかったんじゃないのか?
「あの人にもう一度会わせて。もう一度、あの人に会いたいの」
菊さんの声がドミネーションからした。あの人とは誰だ?その事について聞いてもドミネーションは何も答えなかった。
ドミネーションと共にエスカレーターを降りた。謎の巨大空間を抜け、通路に出た。工事中なのか天井には配管が張り巡らされている。
「この先です。さようなら」
ドミネーションは手を振った。俺は振らなかった。だって、君をおぶってるし。いってらっしゃいと聞こえた気がした。
見知らぬ通路を歩く。疲れたな。歩みが重い。落ちてきた君の体をもう一度おぶり直す。その振動で君が目覚めた。
「ここは……?」
「出口だよ」
「着いたの?」
「ああ」
「楽しみだな」
「俺もだ」
徐々に意識が戻ってきたのか、君は自分の状況に気付いた。
「ちょっと、降ろして!」
「ああ、ごめん。眠っていたからさ」
「……恥ずかしいよ」
「う、うん。ごめん」
君と並んで扉に向かった。ドミネーションは保安官を統べる者としてはあまりに厚情だ。それよりも、迷いの方が強いか。君と共に外に出て、ああなった。もう、昔話も終わりだな。
出来た。居場所の扉を建てつける。俺の不器用さが要所に見えるが、でも、よく出来た。償いなんだ。君にもう一度会いたい。荷物として持ってきたペンを持ち、壁として使っている明るめの色の資材に書き込む。
君に贈る。俺は、君を愛している。芽亜莉桜斗
俺は外の世界にあった古びた家屋の中でボイスレコーダーを見つけた。俺の記憶が確かなら、この声はガリレオと菊さんの声だ。もう一人は、ニュートンと呼ばれている。
[ボイスレコーダーの記録]
データ破損
データ破損
(菊の声)
ガリレオ。良い家ね。ここは。私気に入ってる。外には青い薔薇が咲いててとても綺麗。でも、青い薔薇って花の中でも一番高いって聞いたわ。珍しいから買ったの? それとも......私のために買ったの? もしそうなら、家計を守らないあんたにはお仕置きをしなくてはなりません。......嘘よ。それでも嬉しいわ。薔薇もそうだけれど、あんたと一緒にいられるもの。この家の名前、マリア・チェレステ。家に名前を付けるなんて、あんたらしくないわね
データ破損
(菊の声)
ガリレオ。私はさ、あんたが外に出るって言うの聞いて、ちょっと笑っちゃったよ。ここはいい所じゃないか。「なんでわざわざ出る必要があるんだ?」ってね。言ったらあんた、それは自由を知らないだけだって怒ったわね。喧嘩になっちゃって、何日かして、あんた、図鑑で見せてくれたわね。月を。星空を。綺麗だって純粋に思えたわ。ガリレオは、この家を自由だとは思っていなかったのね
(菊の声)
あんた、本当にやる気なのね。何たってニュートンと一緒に出るそうじゃないか。相変わらず馬鹿だねぇ。あんた達は幼い頃から馬鹿やってたよ。けど今回はその度合いが違う。保安官は許してくれないわ。そんな事。ニュートン、あいつあんたの事心配してたわ。あいつがいなくなったら、誰も俺と知恵比べは出来やしない。その時は、俺も一緒に死んでやるってね。いい奴じゃない。私はさ、あんたが手を引いて連れ出してくれた時、嬉しかったよ? だから、あんたが行くところについていくよ。信じてるから。
(菊の声)
今日、決行。私は寝られないよ。だから、さ、暇つぶし。この世界で最後の。ガリレオ、あいつぐっすり寝てるわ。明日危険な外に出るって言うのに。凄い奴ね。皆から尊敬されるのもよく分かるわ。それを全て裏切る形になるけど。
行ってきます。ここにいる人達、お元気で
データ破損
(菊の声)
ドミネーション。あんたは最低よ。人間を培養するなんて信じられない。しかも全ての建物自体に盗聴器を仕込んでいたなんて。『世界』内の会話が丸ごと全て聴かれていたなんて考えられないわ。こんなの正気じゃない。いえ、機械に正気も何もないものね。でも何故、全部知ってる上で、あんたは私達を外へ見送ったの? これじゃ私達、まるで生かされてるみたいじゃない
データ破損
データ破損
(ガリレオの声)
おい見ろよニュートン! 何だあの白い鳥は!
(ニュートンの声)
かもめか? 分からん。お前が分からなきゃ誰にも分からない
(ガリレオの声)
まぁそうだな。それは間違いじゃねぇ
(ニュートンの声)
調子に乗るなド変態筋肉ダルマが。頭まで筋肉なのか?
(ガリレオの声)
言ってくれるじゃねぇかへなちょこ!
(菊の声)
はいはい! 船の上で暴れないの! ただでさえ壊れやすいんだからやめてよね!
(ニュートンの声)
ほら、お前の嫁からの命令だ。ここは手を引きな。へなちょこ!
(菊の声)
嫁だなんて・・・そんな
(ガリレオの声)
そういう所がへなちょこなんだよ! ニュートン!
(ニュートンの声)
あーやっぱあれはかもめだよ! ガリレオ!
(ガリレオの声)
......かもめかぁ。あんな風に動くんだな
(菊の声)
綺麗ね......
(ガリレオの声)
あぁ......
(菊の声)
ねぇ見て! あれ! でかいよ!
(ニュートンの声)
俺達がいたシェルターじゃねぇか? あれ。いつのまにか戻ってきちまったか......
(ガリレオの声)
いや違う。俺達だけじゃなかったんだ。シェルターはいくつもあって、これは別のひとつ
(ニュートンの声)
そんな......じゃあ中は?
(ガリレオの声)
俺達がいた場所と同じように保安官に支配されているかもしれない。何なら、外すら知らない可能性も
(ニュートンの声)
どうするんだよ?
(ガリレオの声)
中に入る
(菊の声)
何で!? わざわざ出てきたのに、何でまた入らなくちゃいけないの? こんなに綺麗なのに、それでいいじゃない!
(ニュートンの声)
俺は、ガリレオの意見には賛成だ。食糧もそうだが、いつ天気が変わって雨が降るか分からない。毒を浴びるのはごめんだね
(ガリレオの声)
菊、俺が外に出たい理由は珍しいものを見たかったわけじゃない。俺が知らない事を知りたいんだ
(菊の声)
でもっ! ......私は嫌だよ
(ニュートンの声)
菊......
(ガリレオの声)
いかなきゃいけないんだ。そんな気がする
(ニュートンの声)
ほら、笑って笑って!
(ガリレオの声)
そのカメラ動くのか?
(ニュートンの声)
平気平気! さっき空撮って確認したからさ! 現像もばっちり!
(ガリレオの声)
そうか
(ニュートンの声)
じゃあ、撮るよ?
(菊の声)
ねぇ......手、繋いで良い?
(ガリレオの声)
え?別に必要ないだろ
(菊の声)
いいから
(ガリレオの声)
嫌だよ
(菊の声)
私も繋いでくれなきゃ嫌だ
(ニュートンの声)
あのー......早くしてくれません?
(ガリレオの声)
あー分かったよ。これでいいか?
(菊の声)
うん
(ニュートンの声)
ヒューッ!
(ガリレオの声)
黙れ
(ニュートンの声)
おっ! 良い笑顔! はい、ポーズ!
(菊の声)
この家にこのレコード、置いていきます。何か、この家あそこにちょっと似てるし。いつか、ガリレオと、ニュートンと一緒にここに戻ってきた時に思い出として、笑って聴ければいいかなって。もし聴けなくても、誰かが、私達が居た事、覚えていて欲しいの。理由は......ないけどさ。何か、忘れていくんじゃないかな。こういうものって。大切だとしても、そうじゃなくても。あんたは......ずっと、私の手を引いてくれるのかな? なーんて......ちょっとやだな今の。消そうかな
(ガリレオの声)
菊、気付かなかったよ。お前がこれを持って来ているなんて。......全部聞いたよ。ちゃんと
(ニュートンの声)
行くぞ! ガリレオ! この扉、外からでも開くみたいだ
(ガリレオの声)
どうせ鍵開けしたんだろ? 鍵がかかってなかったみたいに言うなよ
(ニュートンの声)
自慢したらしたで怒られるからな
(ガリレオの声)
はいはい。分かった。今いくよ。......菊、俺は傍にいるよ。たとえお前が俺を忘れようとも、お前が傍にいようとしなくても、俺は、傍にいるから
(ニュートンの声)
ガリレオ! 早くしろ!
(ガリレオの声)
あの家に咲いてた薔薇、実は持って来ているんだ。喜んで、くれるかな?
(菊の声)
ガリレオー! 行くよー!
(ガリレオの声)
あの家は、俺にとってお前との家族みたいなもんなんだよ。だから......一緒に帰ろう。絶対に。愛してる。マリア・チェレステと共に
このボイスレコーダーの隣には写真があった。だいぶ色褪せて劣化が激しいが、ガリレオと菊さんが手を繋いでいる事が分かる。ここで撮った写真機が最初に撮ったものは、俺達が待ち望んだ蒼い空だった。次に撮られたものが、二人の確かな愛だった。
今の俺は、どちらも持っていない。




