第二十四話 ifエンド ハーレムルート? ~こんなこともあるかもしれない~ 前編
アルバラード王国を出てから、半年が経過した。
俺は今、アルバラードとは大陸の反対側にある、アルタゴニアという国の迷宮都市『フェス』という都市に滞在している。
『フェス』は都市の中心に巨大なダンジョンがあり、そのダンジョンから発掘される素材などを求めて、都市が形成されていった経緯がある都市だ。そのため、迷宮都市とよばれている。
しかし、『フェス』は世界にいくつかある迷宮都市の中でも1番巨大なダンジョンを保有している。そのため、この大陸では、迷宮都市といえば『フェス』のことを指すようになったのだ。
帰る方法を探して、旅をして来たが、そう簡単には見つかるはずもなかった。召喚の秘儀らしきものはあったのだが、送還することが出来ない一方通行な秘儀はだった。
この『フェス』に来たのは、「ダンジョンが巨大すぎて深層部は異界と繋がっている」という噂を聞いたからだ。
ひょっとしたら異世界と繋がってるかもしれない。帰れなくとも、ヒントぐらいはあるかもしれないと思い、この都市に来たのだ。
そして、今は仲間と共にダンジョンを攻略しているところだ。
そう、仲間たちと、だ。
カミラ、ドロテア、エウフェミアの三人に加えて、アラセリス姫、バルバラさんとニルダさんもいる。
俺が国を出ようとしたところ、国境付近で待ち伏せされていたのだ。
カミラ、ドロテア、エウフェミアは、俺の元仲間として指名手配されるまでは行かなくとも、王家に目をつけられるので、国にいられないそうだ。アラセリス姫にしてもほとぼりが冷めるまで国外で過ごすことにするらしい。
姫様曰く「カレルオン家の者にはよくある」ことらしい。
とりわけ、ドロテアが一番必死に同行をせがんだ。
翔流の「そろそろヤれるかな?」という獲物を狙うケダモノの視線にさらされ続け、相当ストレスを感じていたらしい。そのストレスのせいで頭に十円ハゲが出来たそうだ。
その十円ハゲを見せながら、「治るまで面倒みれ」だの「姫様の命令で仕方なかったんや」だの騒ぎまくるのだ。
俺としても、彼女たちが同行してくれることは、ありがたい。何しろスキルがないので日常生活で困ることが多いのだ。
せめて料理ぐらいは出来るようになりたいのに、どうしても無理なのだ。
その点、ニルダさんという凄腕メイドさんがいると、一気に生活水準が跳ね上がる。
あと、意外とカミラとバルバラさんの家事スキルが高い。
ドロテアとエウフェミアの二人にしたって俺よりはマシなのだ。あの二人より下とか屈辱以外の何ものでもないんだが。
『フェス』のことを教えてくれたのは、姫様だ。ダンジョンのことも教えてくれた。ここにはカレルオンの別邸があるらしい。
俺では手始めにどこから探索すればいいかわからなかっただろう。
その6人と旅をして『フェス』にたどり着いた。
そして、カレルオンの別邸に滞在している。
今、日が沈み、夜の帳が下りたころになる。町中には街灯が灯り、家々の窓から光が漏れて、夜の街をキラキラと瞬かせる。
夜空は澄み、月と星が冴えわたっていた。
俺はテラスに出て、『フェス』の夜景を眺める。
奇麗な光景に心打たれるものがある。と同時に、日本とは違う光景に、どうしようもない寂寥感が浮かんでくる。
「またぁ、ホームシックぅ?」
ふいに聞こえたジットリと湿った声に、俺はびっくりした。
気配を察知するスキルがない俺には、人の気配を感じることができない。このセキュリティが甘々の世界では、こうして不意を突かれることが多いのだ。
「カミ、ひぃいい!」
振り向いて、カミラを見た俺は恐怖のあまり悲鳴が口から漏れた。
そこには、風呂に入ったままの濡れた髪をダラリとたらし、大きめの真っ白なワンピースを着たカミラが立っていた。
まんま貞子だよ……
「寂しがることはないのよぅ。お姉ちゃんがいるからねぇ。ヒヒヒ」
ダラリと垂れた髪のすき間から爛々と見開いた目が覗いている。青白い顔の中、真っ赤な口がニタリと亀裂のように笑みを作った。
「カ、カミラか……ビックリさせるなよ……」
「あら、ごめんなさいねぇ」
そう言って、俺ににじり寄ると、ベットリとへばり憑くように寄り添ってきた。
「え……? 何……?」
不意の急接近に俺は戸惑った。
「そろそろこの街にも慣れてきたし、生活も落ち着いてきたから、そろそろいいかと思ってぇ」
「ん? 何が?」
「結婚よぉ」
んん? 結婚?
「誰と誰が結婚するんだ?」
俺は全く話が見えなくて首を捻った。誰か結婚する人いたっけ?
すると、カミラは陰鬱な美貌に狂気じみた笑みを浮かべ、ずいっと俺に迫りながら、真下からのぞき込んでくる。その瞳は深淵の如く光がない。
「ふふふ、私とぉ、あなたのぉ、結婚式よぅ」
・・・・・・
「はぁっ!?」
「クロードが手足を失ってた間、私がお世話してたじゃないぃ」
「その節はお世話になったけどもっ! 何がどうやったら結婚することになるの!」
「クロードがトイレをするのをぉ、私が支えてお世話してあげてたときに思ったのぉ。『この子はぁ、私がいないとダメなのねぇ』ってぇ」
「典型的な共依存思考!」
「そのときクロードが私の胸の中でプルプル震えたのぉ」
「生理現象! オシッコしたら体温下がるから!」
「そしたらぁ、胸の中に暖かいものが湧いてきたのぉ。それで悟ったのよぅ。『これが愛なのねぇ』ってぇ」
「母性! それきっと母性愛だから! 男女のそれとは!」
「どちらでもいいのよぅ。ちゃんと私がぁ産み直してあげるからぁ」
「ただでさえヤンデレ顔なのに、さらに病んだこと言わないでくれる!?」
カミラの目からますますハイライトが消えていき、だんだん病んだ目になっていく。
「そういう訳でぇ、トイレのお世話をしてて思ったのぉ! 『もうこの人のお嫁に行くしかない』ってぇ!」
「トイレの世話させたのは申し訳なかったけども、そこまで思いつめなくても!」
「ヒヒヒ、もう切っ掛けはどうでもいいのよぅ」
背の低いカミラが下から迫ってくる。大きめの白いワンピースの襟から、身長のわりに大き目な胸が見えた。こいつ、ブラしてやがらねぇ……
背筋に冷や汗が浮かぶ。
「さあダーリン覚悟を決めてぇ、結婚よぉ」
「待つナーっ!」
ドアがドバーンと勢いよく開いて、ドロテアが部屋に飛び込んできた。
「ちょっとぉ」
ドロテアの突然の登場に、カミラが抗議する。
ドロテアは可愛らしいフリル付のノースリーブとブルマみたいなパンツを履いていた。ドロテアらしい可愛らしい格好なのだが、すらりとした健康的な手足は肌も露にしている。男の部屋に来るには、なかなか大胆な格好だ。
「クロードを見る目が尋常じゃないと思っていたら、案の定だナ! ノーパンノーブラで誘惑とは、とんだサセコなんだナ!」
「いいじゃないぃ。どうせ脱ぐんだからぁ」
「処女を焦げ付かせたような誘惑はやめろナ!」
「焦げ付いてないわよぉ」
「うるさいナ! これを見るナ!」
そう言って、ドロテアは頭頂部の十円ハゲを見せてきた。そこは見事に頭皮が丸見えであった。
「あれ? この前、ちょっと生えてきたって、言ってなかったっけ?」
確か、チョロとした産毛みたいなのが生えてたような……。
「抜けたナ! 最近ずっとカミラが呪い殺しそうな血走った目でクロードを睨んでいたから! そのプレッシャーで抜けたナ! あたしの髪はそういう『そろそろヤるわぁ』的な殺気に敏感なのナ!」
「その程度で抜けるなんてぇ、弱い毛ねぇ」
「その言葉、マジもんのハゲの前でも言ってみろだナ。殺されるナ」
「そんなことしないわよぉ。アナタなにしに来たのよぅ?」
「今度はあたしがクロードの面倒見るナ」
カミラがそう聞くと、ドロテアは胸を張りながら偉そうに言った。
「俺はもう健康なんですが……」
「そうはいかないナ。クロードを裏切ってたとき、後ろめたさがあったナ。きっとそれも抜け毛の原因ナ。今もクロードがカミラに狙われてるのがわかったとき『放っておいたら、またクロードが苦労するのかナ』とちょっと罪悪感が湧いたナ。そしたら抜けたナ!」
「その程度で抜けるなんてぇ、弱い毛ねぇ」
「うるさいナ。折角生えてきたのに、抜けたナ。これで分かったナ。クロードの世話をしないと髪が生えないナ!」
ちょっと何言ってるかわかんない。
錯乱しているとしか思えないが、ドロテアはどこまでも必死だった。
ドロテアは俺のベッドに上がると、手に持っていた枕を俺の枕の隣に置くと、ベッドに大の字に横たわった。
「さあ! 裏切者のメスネコをお仕置きするナ! クロードが受けた苦しみと屈辱を、このメスネコにも味わわせてやるナ! ハァハァ。お前の手でいけないメスネコを躾けるんだナ!」
「随分遠慮のないマゾだな!」
「クロードが虐めるほど髪が生えてくるんだナ、ハァハァ」
「変な性癖に目覚めちゃったのかしらぁ?」
「ノーパン露出に目覚めた女に言われたくないナ!」
ドロテアはガバっと起き上がると、カミラとは反対側の俺の体に抱きついた。
「クロード! 覚悟決めて、あたしを虐めるナ」
「おっと、取込中だったか? 失礼したな」
ドアが開いて、エウフェミアが入ってきた。
「ちょっとぉ」「なにャァ」
エウフェミアの突然の登場に、カミラとドロテアが抗議する。
まさかエウフェミアまで変なことを言いだすのか?
俺は戦々恐々と尋ねた。
「あー? エウフェミアはどんな用事で来たの?」
「うむ」
エウフェミアは神妙な表情で頷いた。
「実はカミラとドロテアのことで相談しようと思ってな」
「あらぁ?」
「あたしらのことか?」
「うむ、そうだ」
カミラとドロテアに頷き返す。
「カミラとドロテアがクロードの命を狙っているようだと、相談しようと思っていたところだったのだが、違ったようだな」
「なんでよぉ!」「なんでそうなるナ!」
二人は俺にしがみつきつつ、エウフェミアに抗議する。
「お前たちの目つきが尋常じゃなかったからな。『タマ取ったらぁ!』みたいな顔してたぞ。特にドロテアは悲愴感に満ちていて壮絶だった。」
「別のものを狙われてたみたいで……」
俺はほとほと困り果てた顔でため息をこぼした。
「うむ。そのようで安心した。ここは一つ私が見届け人役をやろう!」
「見届け人? 何を見届けるつもり?」
「人間は初めて交尾する際、見届け人をつけて上手く交尾出来たか確認する風習があるのだろう? 私は異世界人であるクロードの監視を命じられている。見届け人としては、うってつけではないか」
「どこの蛮族の風習だよ!」
「ところがぁ、この大陸の貴族が結婚するときのぉ、初夜の風習なのよねぇ」
俺のツッコミに、カミラが苦笑しながら返してきた。
「あくまで貴族の話ナ。今はあんまり行われてないナ。でも、男を喰い漁ったサセ令嬢がいざ結婚した時に初夜を乗り切るため色んな策略を巡らす、なんてのはよくある逸話だナ」
「ヤッたことをいちいち確認するだなんて、不思議な風習だ。だが、大貴族ほどこの風習を大事にしていると聞く。ならば、我々もそれに則ってみるのも良いのではないか」
エウフェミアは感心したような表情で頷いている。
「幸い、二人ともその気のようだ。私もこの大役、勤め上げてみせよう」
見物されながらのプレイとか、童貞にはハードル高いんだけど!
「えっと……」
「さあ、覚悟を決めて、ヤれ!」
「あら? 皆さん、お揃いのようで」
アラセリス姫の透明感溢れる奇麗な声が聞こえてきた。




