第二十三話 凱旋
その日、アルバラードの王都は沸き上がっていた。
王都だけでなく、近隣の街からも人々が集まり、大通りは人で埋め尽くされるほどであった。
路地には露店が立ち並び、国挙げての祭典が行われていた。
王都の道という道を埋め尽くしている人々の顔は笑顔にあふれ、一様に希望に満ちた顔つきをしている。見知らぬ者同士が肩を組み、国歌を歌いながらジョッキを酌み交わしている光景がそこここに見られる。
街に立ち並ぶ建物は飾り立てられ、一層華やかな都となって、王都全体が輝いているかのようであった。
勇者の勝利が王都に伝わってから2か月、オーグレーン島にて戦後処理を終えた魔王討伐軍が帰国し、この王都に凱旋するのだ。
そこでパレードを行い、魔王討伐軍の雄姿を国民に披露するのである。
魔王を討伐し世界を救った勇者、魔王軍に立ち向かい活躍した英雄たちを一目見ようと、パレードが行われる大通りには大勢の人が詰めかけていた。
その日、王都の少年、アロンソは知り合いのおじさんに肩車してもらって、通りの沿道からパレードを見ることが出来た。
「どうだ、ボウズ? 見えたか?」
気のいいおじさんは笑顔でアロンソに尋ねたが、アロンソはパレードに見入っていて、答えることが出来なかった。
少年の目に映っているのは、まさにおとぎ話に出てくる英雄そのものであった。
煌びやかな鎧を身に纏い、整然と更新する騎士。
その中を特別豪奢な馬車に乗って、輝くような美貌に笑顔を浮かべて、群衆に手を振る勇者。
その隣には、国で最も美しいと評判の王女が侍り、さらには、勇者の従者といわれる美女が二人も囲んでいる。
いずれを笑顔を浮かべて、勇者と同様に群衆の声援に応えていた。
それは、まるで光に満ちた輝かしいものをこの世から全て集めたかのような、眩しいばかりの光景であった。
アロンソは呆然として声もなく、その光景に見入っていた。
ふと、勇者と目が合い、その視線に体を射抜かれるような衝撃を受けた。
「あっ!」
「どうした、ボウズ?」
「目があった! 今、勇者様が僕を見て笑いかけてきた!」
「おお、そうかぁ、良かったなぁ」
やや苦笑気味におじさんは笑った。
その後も、アロンソは声もなくただただ見入っていた。
しかし、やがてパレードはアロンソの前を通り過ぎて行く。通り過ぎてもまだアロンソは呆けた顔をしたまま、パレードが通った道から目を離せないでいた。
パレードは群衆に見守られながら、王城へと向かっていた。王城前の広場で一般国民向けの戦勝式典が行われるためだ。
広場の客席には、貴族などの身分の高い者の他にも、抽選に受かった一般国民も着席していた。
王城前広場に到着したパレードの一向は、広場の中に隊列を組んで整然と並んで行く。
広場は歓声が渦巻いていた。
王城前広場のバルコニーに式典を執り行う者たちが登場し始める。大臣に将軍、王族などだ。そして勇者が登場した時にもっとも大きな歓声が沸き起こった。それは、そのあとに登場した国王よりも大きな歓声であった。
式典は異様な熱狂を孕んだまま、滞りなく進んでいく。
大臣による開会宣言の後、将軍による戦勝報告などが行われた。報告を受けた国王が将兵に労いの言葉を掛けたのち、演説を行った。
広場の群衆からは、国王の言葉一つ一つに歓声が沸き起こり、凄まじい熱気が立ち昇っていく。
そして、いよいよ、今回の勝利の立役者である勇者が前に出てきた。
その姿の凛々しさ美しさに、神懸かった雰囲気を感じ取り、群衆は静まり返る。固唾を飲んで、勇者の一挙手一投足に目を奪われていた。
勇者、草薙翔流は鞘から聖魔剣グリザ・エアを抜き放つ。
『おぉ……』
群衆からくぐもった驚嘆の声が漏れる。
グリザ・エアの刀身に映る光が、凄絶な力を乗せて、広場を照らした。
翔流は群衆に
「我々は魔王を討伐し、魔王軍を退けた! 勝利と栄光がこの国にもたらされたのだ! この勝利はこの国の国民一人一人の力が結集した結果だ! つまり、我々は魔族すら凌駕しうる力を持っている! 諸君らの力がさらに強大に発揮できるよう、私も手助けしよう!
さらなる勝利と繁栄を、この国にもたらさんことを、私はこの剣に誓おう!」
翔流が高々とグリザ・エアを掲げた。
グリザ・エアが神々しく輝いた。
翔流の演説とグリザ・エアの輝きに、群衆の熱気が沸騰した。
その場にいた全ての人が今まさに拳を振り上げて歓声を挙げようとした、その瞬間。
ガギイイイィィィンッ!
掲げられていたグリザ・エアが粉々に砕け散った。
グリザ・エアを砕いた衝撃は凄まじく、刀身を砕いただけでは飽き足らずにグリザ・エアを握っていた翔流の右腕を肩の付け根から引きちぎる。
さらに、その弾丸は王城を易々と貫通し、広場とは反対側の堀に大きな穴を開け、着弾の衝撃で堀の土と水の多くを吹き飛ばした。
歓喜の絶頂からの急転、希望に満ちた光景が一瞬にして、絶望へと転じた衝撃に、群衆は言葉もなく、ただただ呆然とするしかなかった。
バラバラになったグリザ・エアの破片と翔流の右腕が地面に落ちたとき、広場は群衆が挙げた大きな絶望の悲鳴で満ち溢れるのだった。
◆◆◆◆◆
グリザ・エアが砕けたことをスコープ越しに確認した瞬間、発砲の反動で、俺の体は50メートル以上吹っ飛ばされた。狙撃ポイントにした高い塔の屋上から投げ出され、俺の体はグルングルン回転しながら空中を舞い、地面に激突する。落下ダメージ無効のスキルがなければ、下手すると死んでいたかも。
「ぐへぇ!」
地面に叩きつけられ、大の字に横たわる俺の上に、さらに銃身3メートル以上のライフルが落ちてきた。
「おごぉ!」
15キロ先のグリザ・エアを砕き、翔流の右腕を引きちぎり、王城を貫通した弾丸を発射したライフルだ。
東亜重工製脳波弾体加速装置『4000XL』
俺が自作したMODの武器だ。
漫画に登場する架空の武器なのだが、原作ファンがMMDで、大陸間弾道ミサイルを撃ち落とすシーンを再現していたのだ。そこから公開されているモデルを拝借した。あとはアンチ・マテリアル・ガウスライフルのスクリプトを改修し、マグニチュードを極限まで上げてMODに仕上げている。
威力は御覧の通りなのだが、威力強すぎ・射程長すぎ・反動強すぎの三重苦のため、ゲーム内では全く使い物にならなかった。
俺は立ち上がると、4000XLをホルスターに仕舞った。
セラエル平原を吹く風に押されて、トボトボと歩き出す。
魔王城で生き返った直後は、酷い状態だった。四肢欠損の芋虫状態の上に、パンイチにされてるとは思わなかった。
ただ、そのおかげで翔流たちにあまり情も湧かなくなったのは確かだ。
四肢は欠損しているが、傷は塞がっており、出血もない。
スニーキングLv10のおかげで、魔王が討伐された直後の混乱状態の城から脱出するのは難しくなかった。しかし、手足がないので、尺取り虫のように這うか、転がるかのどちらかで移動するしかない。そこが難儀したな。
魔王城を脱出して、仲間たちが待機している場所まで辿り着くと、あとは、仲間におんぶしてもらって、オーグレーン島を脱した。
そのあと、ドロテアに手引きして貰って、翔流のところから、スマホポーチを一時拝借した。翔流たちはスマホとホルスターのほうを厳重に管理しているようだったが、本当に重要なのはポーチの方なのだ。
ポーチさえあれば、スマホなんかいくらでも取り出せる。
スマホを取り出したら、ポーチはまた元に戻した。
スマホを義手で操作し、CCCを使って、refreshコマンドを入力する。
全ての状態変化をリセットして正常状態に戻すコマンドだ。俺の状態が全て元に戻った。当然、欠損した四肢も元通りになる。
それまでの2週間程の手足の無い生活は本当に大変だった。
姫様から魔法道具の高性能義肢を借りたのだが、魔力がないため、上手く操ることが出来ないのだ。ぎこちなく歩くことやモノを持ち上げることは出来ても、日常生活ですら人に介助してもらわないとなにも出来なかった。
その間、カミラやエウフェミア、姫様とそのお付の二人には非常にお世話になってしまった。ありがたいこと感謝しきれない。
そんな訳なので、2週間ぶりのちゃんと手足のある状態に戻れて、俺は感動のあまり両手を突き上げてしまった。
俺が元に戻ったことに一番安堵したのはドロテアだったようで、泣きながら「しかたなかったんや~! 堪忍や~!」と喚き出した。
涙と鼻水と涎を垂れ流してドロドロになった顔で縋りついてきた挙句、俺の服で鼻をかみやがった。
ドロテアは、姫様に命令され、俺たちのパーティーを抜けたと見せかけてスパイをやっていたのだ。おかげで翔流たちの動向は逐一把握できていた。
どこに行って何をするのか、王女が誰と会っていたなど、いろんな情報が知らされてきた。あの人懐っこさを姫様に利用されたというところだ。
ただ、ドロテアにしても俺が殺されたのは想定していなかったみたいで、自分のせいで死んだのではないかとかなり不安になっていたらしい。
さんざん泣きわめき、俺の服を涙と鼻水と涎でグシャグシャにしたあと、スマホポーチを戻しに帰っていった。
元に戻った後は、王都付近に潜伏した。
王女と姫様の間で密約が交わされる。復讐するならば、一回だけということになった。王女側はそれを全力で防衛する。成功しようが失敗しようが、その一回ならば恨みっこなしだ。もし殺した場合は生き返らせてほしいとのこと。
俺としては、そこまで復讐したかった訳ではないのだが、姫様が勝手に約束してきて、事後報告の形で聞かされた。
ニルダさんの「姫の決めた話にアヤつけよういうんか?」「姫の顔に泥塗ることになったら、おんどれただじゃ済まんけえのぉ……」と言いたげな視線と圧に負けて、俺も話に乗らざるを得なくなった。
そして、パレードの話を聞き付け、一番いいタイミングで狙撃したわけだ。
どうやら、上手くいったようだ。
「終わった、のかな・・・?」
寂寥感に苛まれながら呟いた言葉は、平原に吹く風に流されて行った。
ガレージMODを起動し、KANEDAを出現させる。
俺はまたセラエノ平原に目を向けた。
ここから始まり、ここで終わるのもいいだろう。
KANEDAに跨り、俺は平原を後にした。
俺はこの国から出ていくことにする。
帰る方法だが、この国にはなかったが、他の国にはひょっとしたらあるかもしれない。
それを探して、世界を旅するのも、悪くはないだろう。




