第二十二話 決着
魔王とは話すことがないし、面倒くさいので、CCCでコマンドを打って黙らせることにした。
character_a.setAI 0
すると、魔王の顔から表情が無くなり、デスマスクとなる。さらに、一本の樹になったかのように直立の姿勢になると、ピクリとも動かなくなった。
「一体、何をしたんだ・・・?」
「AIを切ったんだよ」
翔流の問いに答えた。
「生き返るか試したかっただけだからな。おしゃべりしたい訳じゃない。面倒だからAIを切って、動かないようにしたんだよ」
「AIを切った? 動かない?」
「NPCにはそれぞれAIが設定されていて、そのAIがいろいろ判断して、キャラを動かすんだけど。そのAIを止めると、この通りキャラ自体が止まる。この世界では、生きた屍みたいな感じになるのかな」
「何なんだ・・・その力は・・・」
「生き返るのはわかった。じゃあ、もう殺しとくか」
kill character_a
コマンドを打つと、魔王は倒れ伏し、死亡する。
いわゆる即死チートというヤツだな。キャラの挙動やAIの判断がおかしくなった時に、キルコマンドやディセイブルして、一旦キャラをリセットするのに使うことがある。
「死んだ・・・?」
あれだけ苦労して倒した魔王のあっけない最後に、ただただ愕然とするばかりなのだろう。
「何なんだ・・・その力は・・・。何なんだ、お前はっ!?」
「知らねーよ。ただ、俺だけゲームが違うんだよ」
「ゲームが・・・違う・・・」
「前から言ってたろ。俺は『クリムゾン・ロード』なんてゲームは知らない。俺がやってたのは、『クリムゾン・ロウ』っていう名前が似てるだけの別ゲーだ。そもそもVRMMOですらない、ただのオフラインゲームだし。チートだ、なんだと言っているが、オフゲーにチートもくそもない。元々MODが認められているゲームだしな」
翔流だけでなく、葛葉や美琥斗も絶望感の浮かんだ表情をしている。他のメンバーは、俺と翔流の会話の内容が理解できていないようだが、翔流たちがどうあがいても俺を越えるものをもっていないことは理解したようだ。
「そろそろ、一回死ぬか。大丈夫、ちゃんと生き返らせてやるよ」
俺はデザートイーグルを構えなおした。
「くっ・・・」
「いや・・・」
「やめて・・・」
翔流、葛葉、美琥斗の表情が恐怖にゆがむ。
俺はゆっくりとトリガーに力を加えていった。
「やめろナ!!」
デザートイーグルの銃口の前に、ドロテアが飛び出してきた。
皆をかばうように両腕を広げを広げている。
「もういいだろ!? もうお前の勝ちだナ!」
ドロテアは形振り構ない必死の表情を浮かべながら、懇願する。その瞳には涙が溜まっていた。
「魔王を倒して調子に乗ってたナ! 悪かったナ! お前の方が凄いのはわかった! まいったナ! こちらの負けだナ! だから、もういいだろう。これくらいで勘弁して欲しいナ! これ以上、あたしらがいがみ合う必要ないのナ!」
「ドロテア……てめぇ……」
「裏切って、悪かったナ! でも、魔王も倒したし、もういいだろ! あたしが憎いなら、それで殺せばいいナ! でも、クロードがしたいことは、こんな事じゃないだろ! なんでこんなことしたナ!? 何がしたいんだナ!?」
必死に泣き叫んでいるドロテアの迫力に俺は圧された。
「……ちっ」
泣きじゃくりながら、必死に訴えかけてくるドロテアを見て、デザートイーグルを持つ手から少しだけ力が抜ける。
戦闘での高揚がしぼみ、気分が萎えてきた。
「ごめんナ! 本当にごめんナ!」
俺の気分が萎えたのを見計らい、ドロテアはダガーを抜くと、俺の影に打ち込んだ。
途端に、俺の体が金縛りにあい、指一本動かせなくなる。
「ごめんナ! 『不動影縛り・絶』だナ! しばらく動けないナ!」
「くっ……このっ!」
俺は動こうと、全身に力を籠めるが、一歩も動けなかった。デザートイーグルを構えたまま、彫像のように身体が固まっている。
「今のうちだナ! 逃げるナ!」
ドロテアが身を翻し、その場から離れる。他のメンバーに早く逃げるよう促した。
「早く! 早く! 逃げるナ!」
俺から距離を取り、広間の出口に向かいながら、皆を急き立てる。
「いつまでも、動きを止めていられないナ! 早くここから離れるナ!」
「効いてる?……ひょっとして、状態異常耐性がない……?」
美琥斗が呟いた。
「あっ……ということはっ!」
その呟きを葛葉が聞き付けた。
葛葉が俺の方を向き、呪文を詠唱しだした。
「あっ……余計なことを」
ドロテアが気づいたが、詠唱は進んでいたため、止めることが出来なかった。
「死になさい! ファイナル・ディスティネイション!」
葛葉が杖を掲げ、魔術を放つ。
その瞬間、俺の足元が禍々しい赤黒い光を発し、魔法陣が出現した。
何が起きたか認識する前に、俺の意識は消し飛んだ。
◆◆◆◆◆
「効いたみたいね……」
倒れ伏した斎藤蔵人の死体を前に、葛葉が苦虫を噛み潰したよう顔を歪めながら呟いた。
「大口叩いていた割には、即死耐性がないとはね」
翔流が肩を竦めて揶揄するが、それまでに感じた絶望感を完全には拭い去れておらず、余裕のなさを取り繕いきれてはいなかった。
それがまた、翔流を苛立たせた。
「何やってるナ! 折角、丸く収めようとしたのに! 何を余計なことしてくれたナ!」
「余計な事ですって!」
ドロテアの叱責に、葛葉が苛立ちを露にする。しかし、ドロテアは葛葉の棘のある言葉など気にしている場合ではないかのように焦っていた。
「魔王を生き返らせたヤツだナ! どうせすぐに生き返るナ! 金縛り程度なら、クロードも見逃してくれた。クロードはちょっとステップで動いただけで、どんな攻撃でもすり抜けられるワザを持ってるナ。アタシだから金縛りに掛ってくれた。でも、即死魔法は見逃してくれるかわからないナ! きっと、生き返ることが出来るから、わざわざ避ける必要がなかっただけナ!」
ドロテアの言葉を聞いて、全員の顔色が変わる。
「金縛りで、動くことが出来なかったから、避けれなかったんだ」
翔流が取り繕うように言い訳するが、その言葉は自分ですら納得させることは出来ていなかった。
「そうだといいけど。アタシとしては、今のうちに一刻も早くここから離れることを勧めるナ」
ドロテアは一人だけさっさと広間の出口へと歩いて行く。
「ドロテア……」
王女は疲弊した体に鞭打ってドロテアの後を追うように歩き出した。
確かにドロテアの言う通りかもしれない。あのままいけば、痛み分けとして手打ちに出来たかも知れないのだ。アラセリスと交渉し、魔王との闘いでの功績に対してなんらかの報奨を渡せば、クロードを抑えることが出来ただろう。
いや、今からでも遅くない。
むしろ、王女にとってこの敗北は良い結果だったかもしれない。この敗北でさらなる強さを求めるように仕向ければいいのだ。
あの女にかなり譲歩しなければならないのは癪だが、交渉次第ではまだ何とかこの失態を取り返すことが出来る。
王女は次の一手を考え始めた。
魔王は討伐できたのだ。これからどう動くか。
この先のことを思案することに夢中になっていった。心身の疲弊が体を蝕んでいるが、徐々に四肢に力が戻っているようであった。
王女にグロリアが続く。彼女は王女の護衛であるため、そのそばに立ち続けるのだ。王女の瞳に野心の炎が灯っていることに安堵を感じながら、王女の傍を歩み続ける。
そして、王女を追うように、一人また一人と広間から出ていった。
あとに残されたのは、翔流、葛葉、美琥斗の三人だけとなる。
三人は、感情の抜け落ちた、仄暗い表情で、蔵人の死体を見下ろしていた。
やがて、翔流がグリザ・エアを抜いて、大きく振りかぶる。
他の2人も止める様子はない。
翔流は刃を振り下ろし、蔵人の死体に叩きつけた。
翔流、葛葉、美琥斗の三人が広間を出ていく。
そのあとに残されたのは、
四肢を切断され、身包みを剥がされた蔵人の死体だった。




