第十四話 魔将
光の爆発の後には、キメラの姿はなくなっていた。
キメラが立っていた場所には、一人の魔族の少年が立っていた。
「私にこの姿を取らせるとはな。なかなかやるではないか。褒めてやろう」
少年は端正な顔に、見た目の歳には似つかわしくない、残虐な傲慢さを滲ませた笑みを浮べていた。
「なんだ? どういうこと?」
キメラが魔人に変身した?
「魔将だ」
翔流が俺の疑問に答えた。
「魔将は魔族軍の将軍。魔王の腹心だよ。その強さは魔人なんか比較にならない」
何だって、魔人より強いのか!
って、魔人とまともに戦ったことないから、強さがわからない。
皆、魔将の放つオーラに飲まれているようだ。それだけ強いのだろう。MMOでもかなり高レベルのボスなんだろうな。
しかし、魔力を感じることもなく、相手の強さを測るスキルもなく、この世界の基準に属していない俺では、全く敵の強さがわからない。
ただの肌が青黒い少年にしか見えない。
俺はP90を少年に向け、連射した。
しかし、少年の前に見えない壁でもあるかのように弾き返される。
「くそ」
なおも連射するが、その全ては少年の張る障壁の前にすべて無効化された。
マジかよ。ひょっとして間接物理攻撃は無効化されるのか?
「貴様には、チクチクとやられたからな。まず貴様を殺す」
そう言って、少年はこちらに向ってきた。
速い!
油断していたわけじゃないが、見た目に騙された。
俺はまんまと少年の右ストレートを頬に受ける。さらに、返す刀の左フックが腹に突き刺さる。そこからまた右が顔面に炸裂し、また、右フックが腹に。そして最後に足刀を体に受けて、俺は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぐはっ」
電光石火の連撃だが、一撃一撃に重い衝撃を受けた。
殴り攻撃だけは、無効化できないんだよ……
視界の片隅にHPバーが映る。今の5連撃でHPが5分の1も減ってしまった。こんなにダメージを食らったのは初めてだ。
HPが自動回復するまで蹲っていたかったが、そうもいかない。他のみんなが体勢を立て直すまで、時間を稼がないと。
俺はすぐに立ち上がり、コキコキと首をならして、ことさらダメージをなさをアピールした。
「さすが魔将だな。今のはちょっと痛かったぞ」
「貴様!」
「俺にここまでのダメージを与えたやつは初めてだ。褒めてやる。なんて言うと思ったか。これから死ぬお前を褒めても意味ないからな」
俺に注意を向けさせようと挑発を繰り返す。ヤツのプライドに障ったのか、かなり効果があったみたいだ。
攻撃を見てから回避しては遅い。もっと早くローリングに入る必要がある。
俺は、すぐにローリングとステップを織り交ぜた動きで、魔将の周りを回る。
魔将は攻撃してくるが、何とか交わすことが出来た。
俺がステップで距離を取ろうとすると、魔将は爆速の踏み込みで俺についてくる。俺の後ろ足が地面に付いた瞬間、魔将の拳が眼前に迫った。
俺はそのストレートをブリッジ間際まで上体を反らし、避ける。しかしそこに魔将の切り裂くような蹴りが放たれた。俺は地面を蹴り、バク宙で避ける。だが、無理な体勢からのバク宙なので、地面に這い蹲るように着地。さらにそこへ逆の足が俺の首を刈り取るように蹴りこまれる。その蹴りを床を転がってかわした。
床を転がりながら片手を付き、それを軸に回転しながら立ち上がる。
立ち上がった俺の目の前に魔将が迫っていた。なぎ払うようなフック。俺はそれをあえて受けた。魔将のフックが顔面にめり込んだ瞬間、翔流の剣が魔将を斬りつけた。
「なに?」
魔将は多少のダメージを受けたのか、翔流のほうへ向き直った。
そこには、体勢を立て直し、戦闘に復帰した皆の姿があった。
「ちっ! 構いすぎたか」
「己の迂闊が自覚できたか? その反省はあの世で役に立つかもしれんよ」
「おのれ!」
俺の挑発に、魔将はまたも殴りかかってきた。そして、俺はそれをあえて受ける。魔将の攻撃が俺に当たった瞬間、翔流の剣、葛葉の魔術が魔将に叩き込まれる。
「くっ」
魔将の顔に屈辱の表情が浮かぶ。
「いい顔だ。あえて言おう『ザマァ』であると」
俺はより一層煽ろうとする。しかし、魔将は改めて翔流達に向き直った。
気付かれたか。俺の言葉での挑発は本当にただの言葉で、挑発スキルによる強制的な力はない。気にしなければ、効果がないのだ。
「ちっ」
俺はP90を撃つが障壁に阻まれて魔将に届かない。ダメージによるヘイトが稼げないと、こちらに注意を引くことが出来ない。
魔将が俺を振り返る。
「貴様の相手は最後にしてやる。そこで仲間が死んでいく姿を眺めているがいい」
その言葉にP90の弾丸で応えるが、魔将には効かなかった。
魔将と翔流たちが戦っている。女重騎士、女戦士が前に立ち、ヘイト稼ぎスキルを使って何とかタンク役をやろうとしている。そこに翔流、ドロテアが横に立ち、魔将へ攻撃を繰り返している。
4人を相手に一歩も引かない戦いだ。女重騎士の大盾に重い一撃を食らわせよろめかせ、蹴りの一撃で女戦士を吹っ飛ばす。翔流とドロテアの剣は手甲で受け流す。唯一ダメージを与えている魔術は、しかし障壁によって威力がかなり減衰していた。
このままでは、ジリ貧だ。女重騎士と女戦士のダメージが受けきれていない。今は辛うじて戦線を維持しているが、すぐにでも決壊してしまいそうだ。
どうにかしないと……!
銃器は効かないし、今の混戦模様だとフレンドリーファイアが怖い。
人型になって的が小さくなったのも痛いな。
近接武器は、今装備しているのが、サバイバルナイフだからなぁ。城壁を登るのに使用するつもりで装備して、それから変えなかったのが仇になった。野球バットかライトセイバーを装備していれば何とかなったのに!
ん? 人型?
ということは、アレが使えるかも……
俺はスニーキングしながらゆっくりと魔将の背後から近付く。
魔将は翔流達と激闘を繰り広げている。俺に気付いた様子はない。翔流たちが押され気味だ。もう少し持ってくれ。
俺は魔将のすぐ背後に立つ。
今だ!
俺は隙をみて背後から、魔将の両手を取り、後ろ手に捻り上げる。そして、左手で捻り上げた両手を固定したら、右腕で抱え込むように魔将の首を絞める。不意を付けたから、簡単にこの体勢に持ち込めた。
『ヒューマンシールドLv10』
人間を盾にして敵の攻撃を受けるスキルだ。Lv10なら人型をして、背丈が極端に違わないなら、どんな敵でも肉の盾に出来る。さらに、この状態ではどんな攻撃も俺にダメージは通らず、全て盾にした敵が受ける。その上、盾になった敵は逃げることが出来なくなるのだ。人を盾にする中々の外道業だ。
「フハハハハハ、どうした勇者? 人質がどうなってもいいのか?」
俺は外道業を繰り出したせいで、悪役気分に浸っていた。
「何してるの?」
翔流は乗らずに、首を傾げながら、冷静に訊いた。
「ヒューマンシールド」
「くっ……貴様……はなさんか! なぜだっ? 動けん……!」
魔将が逃れようとしているが、『ヒューマンシールドLv10』にガッツリかかっているのでびくともしない。
「効果はこの通り。人間を盾にして、受けるダメージを無効化する。盾にした人が死ぬまで効果が続く」
「盾にした人が死ぬまで?」
「そう。死ぬまで」
そのとき、雷が連続で振ってきた。
「グハッ」
魔将が呻くが俺にダメージはない。
「人質を取るなんて、なんて卑怯なヤツなの!」
葛葉が乗ってきた。しかし、いきなりだねぇ、君は。
「グハハハハ、効かん。効かんなぁ! 勇者一行の力とはそんなものか! もっと来い! ドンドン掛かって来いやぁ! ヒャーハハハハ!」
「くっ、なんてヤツなの……!」
「君たち何やってんの?」
翔流の冷静なツッコミが冴え渡る。
「とは言え、斉藤君の言いたいことはわかった」
翔流は剣を構える。
「覚悟はいいね?」
俺に向って言わないで欲しい。
その途端、一斉に魔法や剣技が俺に向って土砂降りのように降りかかってきた。
ちょ、待って。
ダメージ受けないからって。攻撃されても怖くないわけじゃないんだからね。
魔核を砕かれた魔将の肉体がぐずぐずと崩れていく。床に横たわった死体が、腐汁のように溶けていくまで数秒も掛からなかった。
皆、勝利に喜んでいる。
死闘を制したのが、本当に嬉しかったのだろう。皆、抱き合いながら喜びを分かち合っていた。
「助かったよ、本当に」
翔流が手を掲げる。
俺は照れを感じながら、翔流とハイタッチをした。




