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第十二話 共闘

 更に3ヶ月が過ぎ、異世界に来てから半年が経った。

 翔流かけるの活躍が目立ってきた。人々は徐々に翔流を勇者と認め、口々にその活躍を噂している。

 魔竜に襲われた村を救い、魔族の襲撃を撃退している。

 魔王を倒すための武器をどうにかやって手に入れるための探索をしつつ、王様や王女様の要請で魔族との戦いも行っているようだ。

 翔流のイケメンっぷりも噂になっている。そして、その傍らには、王女様と葛葉くずは美琥斗みことの美女・美少女が付き添い、その上更にパーティーには3人もメンバー追加があったそうだ。しかも、その3人も粒ぞろいの美女らしい。

 勇者とそのパーティーメンバーの美女たちが織り成す、冒険と友情と愛情が盛り込まれた物語が、吟遊詩人によって歌われ始めている。

 頑張っているようで、俺も嬉しくなって来る。

 陰ながら、応援しているぞ。


 そして、その間も、俺は姫様からの依頼に振り回されていた。

 なになにを取って来いだの、この化け物を倒して来いだの、散々に便利に付き合われている。この頃は、やってることが翔流とほぼ変わらないんじゃないかとすら思えてきた。

 でも、あの姫様には逆らえない。領主の娘だし、しかもイカレている。この3ヶ月の間にも、犯罪者への容赦ない処刑はたくさん行われているのだ。

 その処刑の様子を語る姫様の楽しそうなこと。まるで、デビューに成功した夜会がどれほど素晴らしかったかを語る深窓の令嬢のようであった。

 その上、この姫様は、人を従えさせてしまうような、言うことに従ってしまいたくなる様な、オーラというかカリスマというか、そういった雰囲気を持っているのだ。

 たちが悪いこと、この上ない。


 そのカリスマ性に、城の人たちはとっくに姫様のためなら魔王城に特攻しそうなぐらい心酔している。特に、ニルダさんの目つきが尋常じゃない。

 バルバラさんも冷静ではあるが、心底から忠誠を誓っているようだ。その気持ちはわからなくもない。

 ただ、悪いことに、冒険者パーティー「アラセリス親衛隊」、不本意ながらそういうパーティー名にされてしまった、の他もメンバーも姫様に感化されてきている。


 カミラは魔術一直線なところがあるので、エサをちらつかせれば、ホイホイと付いて行ってしまうところがあるし、聡明な姫様は魔術にも詳しく、カミラの自尊心を上手いこと擽っていくのだ。その時点でカミラは姫様の魅力に捕らえられ始めてる。

 ドロテアは、もう最初から懐いてしまった、あのネコめ。姫様とじゃれあう姿は飼い主と飼いネコがじゃれる姿そのままだ。もうすっかり姫様のお気に入りだ。

 エウフェミアは政治や権力に対する警戒心が俺よりも少し薄い。その人の人となりを正直に判断しようとする。裏を読むということが苦手だ。それ故、姫様の高貴で教養が深いところに一目置いている。

 そういった心の隙を言葉巧みに入り込み、人心を掌握していく様は傍で見ていて戦慄ものだ。しかも、計算だけでやっているなら兎も角、本人の生まれ持った資質と性質も加わっているため、本人も意識しないところでやっているところがあるようだ。

 姫様に、色々と依頼されて振り回されるが、バルバラさんを含めて四人ともなんだかんだと姫様に頼りにされて嬉しそうだ。

 そして、嫉妬するニルダさんの目つきがドンドン怖くなっていく。




「皆様、よくいらっしゃいました」

 転移陣で、転移した先に姫様が待っていた。

 そこは物々しい陣中だった。甲冑を着た兵士たちが行きかい、緊迫した空気が重く覆いかぶさっている。

「ナ~。ここはどこだナ、姫様?」

「あぁ、ここは戦場ねぇ」

「ここは、魔族に占領された街の一つ、アベラルドの近郊です。これから、アベラルドの奪還作戦が遂行されるところなのですよ」

「は、はあ、そうですか……」

 そんなところに呼び出されるなんて、嫌な予感しかしない。

 姫様が歩き出したので、それに付いて行く。姫様の足取りは、周りの物騒な喧騒を心地良く吹く風のように感じているかのように、軽やかだった。

 案内されたのは、一際大きく豪奢なテントだった。テントの入口には、重武装の騎士が二人立ち、ジロリと睨みつけてくる。


「さあ、皆様、こちらへお入りください」

 姫様は見張りの騎士に構わず、テントの中に入っていく。騎士たちは俺たちを一瞥すると何事もなかったかのように、見張りを再開した。

「嫌な予感だナ~。また、ムチャ言われるんだナ~」

「希少なグリモアがぁ高くついたわぁ」

「鋼と炎が風の臭いに混じっている。禍々しい」

 俺もそうだが、他の3人の顔色も優れない。皆、経験則で察しているようだ。ろくなことを頼まれないと。

 でも、その頼みを、皆はすでに受ける態でいる。だが、俺は違う。嫌なことは、頑としてNOと言ってやる。そろそろ、一回くらいは断ってもいいよね? 手打ちとかされないよね?

 俺たちは意を決して、テントの垂れ幕を上げ、入口を潜った。

「あれ? 斉藤君?」


 そこには、草薙翔流がいた。翔流だけでなく、道楽院葛葉と妃咲美琥斗もいる。

「あ、斉藤君? ひさしぶり。元気だった?」

「お久しぶりです~、斉藤さん」

「あれ? 何で皆いるの? 久しぶり~。いや、こっちも元気でやってるよ」

 一緒にいた時間は短かったが、元の世界が同じであり、同じ日本人同士がもつ空気に、俺は嬉しくなった。本当に久しぶりの居心地のよさだ。

「そっちは頑張ってるじゃないか。こっちでも噂になってるよ。街を救ったとか、魔族と戦ったとか」

「いや。少し大げさになってるよ」

「そんな、謙遜しなさんな。でも、無理はすんなよ。皆で無事に日本に帰ろう」

「そうだね」

「そっちの皆が頑張ってくれているのに、待ってるだけの俺が言うのもなんだけど、何とかして日本に帰りたいね。この世界だと、俺、本当に何も出来なくて……」

「ああ、スキル習得できないのか?」

「そうなんだよ。でも、日本に帰っても、時間の流れって、どうなってんのかね? ここと同じぐらいの時間が流れてたら、俺、留年だよ」

「それは嫌だなぁ」


「ねぇ。それより、そっちはどうなの? 元気そうなのは良かったけど、何か困ってたりしないの」

 葛葉が言葉を差し込んできた。

「そうです~。こっちでも気にしてたんですよ~。クリムゾン・ロードやってなかったんですよね~?」

 美琥斗も俺のほうを心配そうに見ている。

「ああ、俺は元気にやってるよ。ただ、困ったことがあるのは確かだ」

 そう言って、俺は内緒話をするように顔を寄せた。すると、他の三人も顔を寄せてくる。そして、俺はチラリと姫様のほうに目を向けた。姫様は、テント内で一番偉そうな人と王女様と話している。

「ああ」

 翔流が納得したように頷く。

「カレルオンだったわね、確か」

「よりにもよって、なんでカレルオンに~」

「いい狩場を探してたら、カレルオンまで行っちゃったんだよ。侯爵家にさえ目をつけられなかったら、いいところなんだよ」

「しかし、目を付けられてしまったと」

 翔流が哀れむような目で俺を見る。

「仕方なかったんや」


「久しぶりの再開で、お話が弾んでいらっしゃるようですね」

 姫様と王女様がこちらにやってきた。

「ええ、まあ……」

「申し訳ありません。折角、戦いから遠ざかってもらったのですが、また巻き込んでしまう形になってしまいました」

 王女様が俺に頭を下げて謝罪する。どうやら俺は切り捨てられたのではなく、王女様の温情により魔族との戦いを免れさせてもらったらしい。

 いや、それはいい。

「え? 巻き込むというのは……?」

「うふ。クロード様にもアベラルドの奪還作戦を手伝っていただきたいのです」

 姫様が嬉しそうに言う。




 アベラルドは四方を城壁に囲まれた、城砦都市だ。王都や領都と比べれば格段に小さいものの国内では中規模の都市らしい。魔族の侵攻により占領された都市のひとつで、対魔族戦線の最前線となってる。この都市を奪還できれば、反攻作戦への足がかりとなるそうだ。魔族もそれがわかっているようで、守りを厚くした上で、篭城を決め込んでいる。

 アベラルドは城壁も厚いため、攻めあぐねている。

 ただ、何時までも膠着状態ではいられない。敵から増援が来るからだ。その前に落とさなければならない。

 そこで俺が呼ばれたわけだ。


 アベラルドに単身進入し、城門を開ける。


 それが、今回の俺のミッションだ。

 ただ、城門なんて一人で空けられるものじゃない。と言ったら、城門のうち、一つだけ魔術式で作成されていて、一人でもすぐに開けられるようになっているらしい。頼りなく感じるが、追撃や増援、逃走を素早く行えるため、あえて一門だけ一人でも空けられるようにしているそうだ。

 決行は夜明け前。俺が城壁を登って内部に侵入し、城門を開ける。

 その間、正門前に翔流達が率いる1万5000の大部隊を付けておき、敵の目を正門に向けておくのだ。

 俺が開ける城門の前に兵士を1000人伏せておき、城門が開くと同時に突入する。俺は突撃部隊が城門を潜り終わるまで開閉装置を守り、その後、突撃部隊と合流する。突撃部隊にはアラセリス親衛隊のメンバーも入っている。

 突撃部隊は正門を目指し、正門を開けて、大部隊をアベラルド内部に入れる事を作戦目標としている。その後、1万5000の大部隊と合流し、そのまま敵将がいるアベラルドの中心部に存在する城を目指して突撃する事になる。


 夜明け前。太陽も出ていない時分なので、周囲は薄暗い。

 城門よりやや離れたところに1000人の突撃部隊がいる。皆、魔族戦争で活躍した一騎当千のつわもの達だ。普段だったらビビりまくるであろうそのコワモテの面構えが今は非常に頼もしく感じる。

 正門のほうから鬨の声と戦太鼓の音が大音量で響いてきた。

「さて、そろそろ行ってくる」

 俺は暗闇の中で立ち上がった。

「気を付けるナ~」

「しっかりやるのよぉ」

「周りの気配によく注意するんだぞ」

「御武運を」

 仲間達に見送られながら、俺は城壁に向った。




 城壁は四角に切り出した石を積み上げて作っている。作った当初は隙間なく積み上げられていたのだろうが、今では角が欠けたりしていて、指を掛ける隙間がたくさんある。クライマーの人が見たら、きっと涎を垂らして見上げるに違いない。

 俺はクライマーではないが、フリーランニングLv10がある。某アサシンのごとく、石の間に指を掛けて上っていく。

 薄暗いので、少し上の窪みを見つけるのが少し難しいが、それ以外の障害はない。

 スルスルとあっという間に城壁の半分まで登ることが出来た。

 残り半分も登るのは簡単であった。

 しかし、某アサシンでもそうだが、登りきった後が問題だ。

 城壁の上には見張りがおり、歩哨をしている。

 歩哨が通り過ぎたタイミングで、城壁の上に登り、そのままイーグルダイブで城壁の内側へ降りる、といきたいがそうもいかない。

 そもそもイーグルダイブが出来ない。

 歩哨のタイミングを見て俺は城壁の上に上がった。歩哨は気付いていない。歩哨はゴブリンだった。良かった。それほど感知範囲が広いモンスターじゃない。城壁をスニーキングLv10で歩き、角のほうへ移動すると、そこから城壁の内側の壁を降りることにした。


 登るよりも降りるほうが格段に難しい。加えて夜明け前のため薄暗く、さらに角の影になっているためかなり視界が悪い。

 慎重に降りていく。登るときの倍以上の時間が掛かっている。

 壁を降り切ると、すぐに物陰に隠れた。

 徐々に日が昇ってきている。空は赤く朝焼けが掛かっている。

 スマホを取り出すと、事前に撮っておいたアベラルドの見取り図を映し出し、位置を確認する。

 少し離れているので、急がないと。街中では、正門での攻防が遠くから響いてくる。しかし、それ以外では静かだ。

 街の人たちは被害を受けないよう息を潜めている。静かだが、どこか緊迫感をはらんだ空気をしていた。


 俺はスニーキングLv10を駆使して、物陰から物陰に移り渡るように移動する。

 時折、街中を魔族たちが忙しそうに行き来しているのを見かけたが、魔族たちが俺に気付くことはなかった。スニーキングしている上に陽動までしているのだ。

 城門のすぐ下まで、順調に移動できた。

 ここから門と併設されている見張り塔の中に入り、最上階まで行かなければならない。その見張り塔の入り口に、二匹の警備兵がいた。ゴブリンよりも二周りほど体が大きい。ホブゴブリンというやつだろう。

 俺はホルスターからハンドガン系統の武器、テイザーガンを抜いた。プラスチックのオモチャみたいな質感の銃だ。スニーキングミッションということもあって、ホルスターに入れておいたのだ。

『クリムゾン・ロウ』にはサイレンサーというものがない。つまり、銃声を抑えることが出来ないんだ。しかし、テイザーガンだけは銃声というものがない。発射音はほぼないため、こういうスニーキングミッションで重宝する。


 俺はテイザーガンの狙いを定め、2発撃つ。パシュパシュと気の抜けるような音と共に電極が発射され、ホブゴブリンたちに命中。バチバチとホブゴブリンの体を電流が駆け巡り、体を痙攣させると、二匹とも気絶した。

 ドサリと地面に倒れる音のほうが大きい。

 周りを警戒したが、誰にも気付かれなかったようだ。

 俺はそのまま気絶した二匹を越えて、見張り塔の中へ入ることに成功した。

 見張り塔の中には、喘ぎ声とも嗚咽とも付かない呻き声が響いていた。

 血の気が引くのがわかった。

 3回深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

 見張り塔の中は螺旋階段と下層中層上層にフロアがある。その上層に、城門の開閉装置が設置されている。

 慎重に階段を昇る。下層フロアは物置になっているようだ。積み重なった木箱と樽。ここには生き物の気配はない。

 悲壮な呻き声は今も響いている。


 中層も通り抜け、上層へ顔だけをそろりと出す。

 すると、その情景が目に飛び込んできた。

 青黒い魔族の男が人間の女性を組み敷いて、激しく犯している情景。魔族の男が動くたびに女性の口から呻き声が漏れている。床にはもう一人、身を投げ出すように横たわっている女性がいる。

 俺は急いで頭を引っ込め、中層まで戻った。

 物陰に隠れ、膝を抱えて座る。

 カッと血が滾り荒れ狂うような激情が体中を駆け巡る。頭の中が真っ赤に染まったような感覚。胸の動悸は激しく、息が乱れる。

 これではダメだ。

 このままでは気付かれるし、撃っても当たらない。

 手を見るとかすかに震えている。

 冷静になれ。銃の一部になれ。引き金を引くだけの機械になれ。

 息を整えろ。機械だ。機械は息を乱さない。震えない。

 深呼吸を繰り返す。

 しばらくすると、頭の中が冷たく切り替わるのがわかった。手の震えはもうない。

 激しく前後する間抜けな頭の脳天に銃弾を打ち込むだけの簡単な作業をしに行こう。

 テイザーガンからワルサーWA2000へ装備を変えた。


 上層へわずかに顔を出す。

 魔族の男は気付かない。間抜けな前後運動を続けている。

 スコープを覗く。魔族の頭しか映っていない。

 コトリと置くように引き金を引く。

 銃声と同時に男の頭が爆発四散した。

 頭部をなくした首から血が噴水のように噴出す。


 俺はすぐさま上層へ駆け上り、開閉装置のレバーを足で蹴る。開閉装置が起動し、大きなカラクリが動く音が響き始めた。

 その後、女性に覆いかぶさるように倒れている魔族の男の体を蹴って、女性から退けた。首の肉が蠢き、再生が始まっている。この男、やはり魔人か。

 ワルサーWA2000からレミントンM870のショットガンに持ち換え、ショットガンで魔人の四肢を切り離す。そのほか、丹田、心臓、鳩尾にショットガンをぶち込んだが、どうやらそこには魔核はないようだ。


 ジャラジャラジャラと大きな鎖が巻き上がる音がし、城門が開く。突撃部隊が突入を掛けている音が外から響いてきた。突撃の鬨の声は上げていないようだ。それでも1000人が走り来るのがわかる。圧力があるようだ。


 もうすぐだ。もうすぐで、作戦の第一段階完了だ。



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