第十一話 親衛隊
「良くいらっしゃいましたわ」
姫様がテラスで客人たちを歓迎なさっています。
その美しい顔<<かんばせ>>に花の綻ぶ様な笑みを浮べました。この笑顔を向けられれば、そのありがたさと美しさに這いつくばって平伏すべきところなのに、客人たちときたら、ヘコヘコと頭をたれるばかり。無礼に過ぎます。
しかし、姫様は大変寛容なお方。嬉しそうに客人たちに座るよう、席を勧めました。
私はニルダ・デ・オルネラス。カレルオン侯爵の令嬢であるアラセリス・フォン・カルレオン様に仕える者で御座います。
美しく、聡明で、お優しく、慈悲深く、あまりにも高貴で、儚げな上に、神秘的で、情熱的な主に仕えることが出来ることに、日々、悦びと感動と感謝を感じております。
今日の客人たちは、クロード・サイトウ様、カミラ・ガオナ様、ドロテア・エナン様、エウフェミア・イニエスタ様の四名。そして、歓待する側は、姫様、姫様の護衛のバルバラ、それに私の三名。このテラスにいる人は計七名となります。
私は、姫様にお茶を入れた後、客人たちの前にお茶を出していきました。
まずは、クロード様の前にお茶をお出しします。
姫様のお気に入りの冒険者です。しかし、姫様と並んで様になるほどの容姿ではありません。平凡にして凡庸な顔立ち。中肉中背で体格も平均的。身にまとう雰囲気は庶民そのもの。しかし、中身は反して、化け物でした。
上位魔物を容易く葬るスキルと特殊な武器の数々。無限ではないかと思えるほどのスタミナ。攻撃を受けても平然としているほどの耐久力。
何より、この領都に攻めてきた魔人をこの上なく惨たらしく殺した性根です。
クロード様が泣きながらも、魔人に火を噴く筒を撃ち続ける間、その決断的な行動に、見つめる姫様の瞳が妖しく輝いていたことを、私は気付いていました。
姫様は、この化け物を飼いならそうとするのが楽しくて仕方がない様子。
次に、カミラ様にお茶をお出しします。
女性の魔術師にして、魔術の研究者でもあります。暗く陰鬱な雰囲気の持ち主なのですが、容貌は優れていらっしゃいます。しっとりとした黒髪に、切れ長で大きめな瞳。堀が深く陰影がはっきりしている顔立ち。だからこそ、余計におどろおどろしい雰囲気を助長しているのでしょうが。やや小柄なところが、唯一暗さを感じさせないところです。
魔術に傾注しており、魔術やその研究に関することとなると周りが見えなくなってしまいますが、それ以外のこととなると意外とまともです。
見た目に反して、意外と世話焼きであり、今もクロード様に姉のごとく世話を焼いておられます。
次に、ドロテア様にお茶をお出しします。
ネコの獣人にして、獣戦士の女性です。軽装と片手剣で、素早さを身上とした戦い方をするそうです。主に牽制役です。
可愛らしい顔立ちをしており、つぶらな瞳には無邪気な輝きがあります。髪は明るい赤色をしており、彼女の明るさを強調しているように見えます。その仕草もどこか可愛らしく、女である私でも見ていてホッコリさせられるものがあります。
しかし、得てして、この手の無邪気な女性は、無自覚に打算的な面があることも確かです。さらに見た目に反して、ドロドロしている場合があります。逆に、ドロドロしていそうなカミラ様はサッパリした性格をしております。
最後に、エウフェミア様にお茶をお出しします。
エルフの精霊使いの女性です。涼やかで凛とした美貌に、鮮やかに輝く金色の髪が良く似合っています。超然とした雰囲気を持ち、孤高な空気を漂わせていますが、このような方は意外と一般的な感覚とずれている方が多く、天然ボケに似た発言をすることが多々あります。迷いの森で隠遁に似た生活をしてこられたので、世間ずれしていない、悪い言い方をすれば、相当な田舎者でもあります。そのような方ですから、凛とした容貌に反して、純情で、初心なところがあります。その部分が垣間見えたときは、私でもクスリとさせられてしまいます。
皆様、クロード様を除いて、中々に好ましく、姫様が御気に召すお友達として、相応しい方々ばかりです。
「お招きに応じていただき、有難う存じます」
姫様が可憐な微笑を浮べて、お礼を申し上げました。
「いえ、そんな、こちらこそお招きいただき、有難う御座います」
クロード様が慌てて、姫様に頭を下げます。
「姫様からお呼びがあれば、いつでも来ますナー」
ドロテア様が調子よくおっしゃいます。
「こちらこそぉ、ありがとう御座いますぅ」
カミラ様がボソボソと間延びした声でおっしゃいます。
「構わない。姫には世話になっているから」
エウフェミア様が涼やかながら若干上からおっしゃいました。ここは我慢です。この人は世間知らずなのですから。
「どうぞ、お菓子なども召し上がってください。厨房の料理人たちが腕によりを掛けて焼き上げたものですよ」
テーブルに広げられたお菓子類を姫様が勧めます。確かに、腕によりを掛けていました。厨房を覗いたとき、キッチンメイドの一人が、クッキーの生地をこねながら、「私がこの手でこねている生地が。この手でこねている、こここ、これが、姫様の体内に……。ああぁぁ、いいぃ……。そう考えただけで、い、イっちゃいますぅ! ひ、姫様ぁぁぁぁ!!」そう言って、絶頂を迎えていましたもの。中々の忠誠心で大変結構なことです。
「いただきます……。いや、大変おいしゅう御座います」
「ほんとぅ。美味しいですぅ。ほら、こぼさないのぉ」
「ごめんナー。美味しいから、がついちゃったナー」
「うむ。遠慮なく頂く」
ドロドロとした女の妄想と性癖がこね合わせられたクッキーを四人の客人方は美味しそうに食べていらっしゃいます。
「これ、本当に美味しいですナー」
「有難う御座います」
褒められて、姫様が嬉しそうに破顔する。
それから、話はシドナ鉱山での冒険のお話になりました。
「こぉーんな大きいベヒモスだったナー。山かと思ったナー」
「山ほどは大きくない」
「でも、そんくらい、大きかったんだナー」
「エクストラベヒモスよぉ。全長34メートル。中々の大物だわぁ」
ドロテア様が大げさに語り、エウフェミア様が冷静にツッコミ、カミラ様がボソボソと補足しております。
クロード様は女性に囲まれて、凄く肩身が狭そうにしておられ、時折相槌を打つ程度で、中々会話に参加できませんでした。だから、モテないのです。
「でナ。グワーって来たところを、ヒラって避けたんだナー」
「ヒラっはクロードのほう。あなたはギャーって逃げてた。あの泣き声はいい牽制になってた」
「泣いてないナ! 泣いてないヨナ?」
「あたしは魔術でずっとトランス状態だったからぁ、良く覚えていないわぁ」
「泣いてはいなかった、と思う。ギャーギャー騒いでいたのは確かだけど……」
「まあ、大変だったのですね」
姫様が楽しそうに笑っておられる。いつも消えてしまいそうな儚さを湛える姫様がこのようにお楽しそうに。この笑みを浮かべさせたのが、私ではないと思うと、胸の奥からドス黒い感情が湧き起こりそうです。
「そうそう。今日は皆様に、贈り物がありますのよ」
そう言って、姫様はテーブルの上の鈴を鳴らしました。
かねてより、用意していた品を使いの者達がテラスに運び込みます。
その品々を見た、クロード様以外の方の目が驚きに見開かれます。
ブリトラの皮と鱗で作られたプロテクタージャケット。
迷いの森の邪精霊の霊糸で編まれた漆黒のウィッチガーブ。
エクストラベヒモスの皮と甲殻で作られたブレストプレート。
レッグガーダー、ブーツ、ブレイサーなどの防具一式に加え、
ブリトラの牙を削りだしたダガー。
神樹の枝とブリトラの角、ベヒモスの胆石を組み合わせた杖。
などなど。
厳選された素材をふんだんに使い、一流の職人達が作り上げた逸品の数々。
これに、目を奪われない者などおりません。
「これは凄いナー。丈夫なのに、軽いナー。動き易いのナー」
「この杖はぁ、持ってるだけで漲って来るわぁ」
「このブレストプレート、かわいい」
皆様、手にとって、騒いでおられます。
冒険者ともなれば、装備が命。気持ちはさせられます。
それが、このような逸品であれば、なおのことです。
その上、デザインも素晴らしく。
ドロテア様用であれば、可愛らしく。カミラ様はシックに。エウフェミア様のものは華麗なものとなっております。
「お気に召していただけたようで、何よりです」
「気に入ったんですけどナ?」
「ここまでの品はぁ……」
「お高いんでしょう?」
エウフェミア様がズバリとおっしゃいました。
確かに、金額としてはかなり高額となります。明確な金額は出しておりませんが、この品々で、貴族の邸宅が3軒は建つでしょう。
「まあ、お気になさらないで。皆様に取っていただいた素材のごく一部を使用したに過ぎません。利益に比べれば、大したものではありませんのよ」
「何を企んでいます?」
出し抜けに、クロード様が姫様に訝しげな視線を向けながら、問いました。庶民の分際でなんと無礼なのでしょう。
「ふふふ、どういう意味でしょう?」
姫様は楽しそうです。
「こんな高そうな品をポンポンと送って……」
「べ、別に姫様には大した額じゃないんだナー」
「そうです。これまで皆様が上げてこられた功績に比べれば、微々たる物ですよ」
「姫様にとってはそうでも、俺たちにとっては高額ですよ」
「まぁまぁ、くれると言われてるのだからぁ、貰っておけばいいのだわぁ」
カミラ様は杖とガーブに目を奪われております。この手の一つのことに傾注しすぎている人はエサさえ与えておけば、操りやすいものです。
ですが、庶民は高額の贈り物にかえって警戒心を抱くものです。
「わたくし、皆様のスポンサーですもの」
「スポンサーなのは、わかります。でも、スポンサーになって、俺たちを抱え込んで、一体、俺たちに何をさせようっと言うんですか?」
そう問いかけるクロード様に向って、姫様は今日一番の笑顔を浮けべて、こうおっしゃいました。
「ヒ・ミ・ツ☆ です」
流石、姫様です。私は何処までもお供いたします。




