第28話 新たな共生システム
重苦しい沈黙が広場を支配する中、パンピーナは腕を組み、絶望に暮れる大人たちをぐるりと見回した。
「あんたたち、エリート勇者のくせに本当に頭が固いわね。人間同士で限られた『感謝の機会』を奪い合うから、こんな馬鹿げた暴動が起きるのよ」
「な、なんだと小娘……!」
巨漢の勇者がムッと苛立つが、パンピーナは全く動じずに言葉を続けた。
「ゴーレムが完璧なインフラを整えちゃうから、あんたたちの仕事がなくなるんでしょ? だったら、あんたたちが絶対にやりたがらない仕事を、ゴーレムに任せればいいじゃない」
「俺たちが、やりたがらない仕事……?」
「そう。例えば、誰も寄り付かない暗くて汚い下水道の掃除。それから、他種族との交易よ」
その二つの提案を聞いた瞬間、エリート勇者たちの顔色が変わった。
この世界の勇者にとって、下水道の清掃や危険な魔境の開拓といった「人目に付かない裏方の仕事」は、いくら街のためになるとはいえ、誰からもその苦労を見てもらえないため「感謝のパッシブ効果」が極めて得にくいハズレ仕事とされていた。
さらに「他種族との交易」に至っては、人間のような承認欲求のシステムを持たない獣人やエルフたちから、薄っぺらいビジネス感謝でいいように労働力を搾取されるという、勇者にとって最も屈辱的で精神をすり減らす業務である。
「下水道……! 確かにあそこは、誰も見ていないから感謝される機会がゼロだ……!」
「他種族との交易もそうだ。奴らは俺たちの承認欲求を利用して、安い言葉でタダ働きさせようとする。だが、機械であるゴーレムなら……!」
土木勇者がハッと息を呑むと、錬金術勇者の目にもかつての知的な光が戻ってきた。
「ゴーレムには承認欲求がない。だから、他種族からどれだけ薄っぺらい感謝を浴びせられても、決して搾取されることはない……! 人間の勇者が消耗するだけの仕事を全てゴーレムに一任し、人目に触れる街のインフラ整備やサービスを人間の勇者が担当すれば……」
錬金術勇者の言葉に、広場の大人たちの顔がパァッと明るく輝き始めた。
「それなら、俺たちの仕事(存在意義)は奪われない!」
「ゴーレムのおかげで、俺たちは嫌な仕事から解放されて、街ももっと豊かになるってことか!」
パンピーナの持ち前の旅の知識と、冷静な現状分析から導き出された完璧な折衷案。
それは、人間の勇者たちが抱えるプライドと承認欲求に一切干渉することなく、ゴーレムという存在を社会システムに完璧に組み込むための、まさに待ち望んでいた解決案であった。
「な、中々いい案だ、旅の少女……! 君のおかげで、俺の発明と、こいつらの本当の居場所が見つかった!」
錬金術勇者は涙ぐみながらパンピーナの手を取り、深く、深く頭を横に傾けた。
「べ、別に……。せっかくの便利な発明がもったいないって思っただけよ」
パンピーナは少し頬を赤らめ、照れ隠しのようにフードを目深に被り直した。
そのやり取りを傍で見ていたボンタの胸に、かつてないほどの熱い感動が押し寄せていた。
(すごい……! パンピーナ、本当にすごいよ!)
サクション村での出来事を思い出す。あの時、薄っぺらい感謝で人間を搾取していた獣人たちのシステムを、ボンタは自らの「無垢なる感謝」の暴力的な力で強引にぶち壊してしまった。しかし、それは根本的な解決ではなく、種族間の溝を深める結果にもなりかねなかった。
だが、パンピーナの出した答えは違う。
人間の『承認欲求』という弱点と、他種族の『打算』。そのいびつな溝を、感情を持たないゴーレムという存在が橋渡しすることで、誰も傷つかずに共生できる道を示したのだ。
「僕の『ありがとう』だけじゃ、みんなを本当の意味で救うことはできない……。でも、こうやって工夫すれば、狂った世界でもみんなが笑顔になれる方法があるんだ!」
ボンタは両手をギュッと握りしめ、自分たちの旅の目的に新たな深みと、確かな希望の光を見出していた。
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それから数日後。ウゴンザークの街の郊外へと続く街道。
ボンタ、パンピーナ、そしてファルサーの一行は、次なる目的地へ向けて歩みを進めていた。
彼らとすれ違うように、数体のゴーレムが重たい交易品の荷車を引いて、獣人たちの住む街へと向かっていく。彼らの任務は、他種族との交易である。どれだけ獣人たちが大げさな身振り手振りで「素晴らしい!ありがとう!」とおだてようとも、ゴーレムは「ドウイタシマシテ」と機械的に返すだけで、決して搾取されることはない。
また、街の地下深くでは、ゴーレムたちが文句一つ言わずに下水道の清掃を行い、そのおかげで地上では人間の勇者たちが、生き生きとした真顔でインフラ整備に汗を流し、互いに微感謝を交わし合っていた。
「ふん。薄っぺらい言葉で人間を操ろうとしていた他種族どもが、感情のない機械を相手にどんな間抜けな顔をするか、見物だな」
ファルサーが、錬金術師勇者から献上された『極上厚揚げの特製パック』から一つを器用に咥え、サクサクと咀嚼しながら皮肉げに鼻を鳴らした。
「もう、ファルサーったら性格悪いんだから」
パンピーナが呆れたようにツッコミを入れる。
「でも、本当によかった! お兄さんのゴーレムさんたち、新しいお仕事をもらって、とっても誇らしげに歩いてたね!」
相変わらずゴーレムに感情があるかのような、ボンタのハッピーで無邪気な勘違いが炸裂する。
「だから、機械に感情はないって言ってるでしょ! アンタのそのめでたい頭、どうにか直らないの?」
「あはは、パンピーナはぼやいてばっかだなぁ」
ギスギスした世界のシステムに、凡人の知恵と優しさが小さな風穴を開けた。
果てしなく続く青空の下、毒舌な聖獣と二人の凡人の賑やかな笑い声が、どこまでも響き渡っていく。彼らのデトックス行脚は、新たな共生のヒントを胸に刻み、次なる限界勇者を求めて続いていくのであった。




