第13話 職能の共鳴
数分後。
深い絶頂の底から這い上がってきた建築勇者と芸術勇者は、荒い息を吐きながらゆっくりと身を起こした。
その顔からは、先ほどまでの子供に依存するような下心や、承認欲求に狂った悲哀がすっかり消え去っていた。憑き物が落ちたように穏やかで、本来の勇者としての研ぎ澄まされた気配を取り戻している。極上の感謝によって魂の底まで完璧に浄化された証だった。
「あ、あの……俺たちは一体……」
「なんだか、すごく大切なものを思い出したような……」
二人が呆然と顔を見合わせていると、彼らの前にボンタが無邪気な笑顔でしゃがみ込んだ。
「お兄さん、お姉さん。目が覚めた?働きすぎで疲れちゃったんだね。でも、とってもいい仕事だと思うよ!」
相変わらず激しい勘違いをしたままのボンタは、ニコニコと笑いながら、街の奥にある屋根の抜け落ちた廃墟のような建物を指差した。
「ねえ、もし少し元気になったなら、あそこにある『つぶれかけの教会』の建築をお願いできないかな?あんなに立派な遊具や綺麗な絵を作れるお二人なら、きっとすごく素敵な教会に直せると思うんだ!」
それは、邪心など微塵もない、あまりにもピュアな提案だった。
正気を取り戻し、自分たちの本来の職能と向き合う準備ができた二人のエリート勇者の心に、その無邪気なお願いが静かに、しかし確かな熱を持って響き渡った。
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つぶれかけの教会の前に立った二人のエリート勇者は、完全に本来の鋭い眼差しを取り戻していた。しかし、長年独身で己の腕一本で生きてきた強烈なプライドが、彼らを素直にさせない。
「フン。あんなボロ屋、俺の建築スキルにかかれば一瞬で直せる。だがな、女。俺の完璧な構造計算と無駄のない建築に、お前の余計な装飾で口出しするんじゃないぞ」
建築勇者が腕を組んで凄むと、芸術勇者も負けじと美しい髪をかき上げ、鼻で笑った。
「ふふっ、笑わせるわね。ただの頑丈な箱なんて、芸術の欠片もないわ。私の崇高な芸術センスについてこれるかしら、無骨な大工さん?」
二人はバチバチと火花を散らして互いを睨みつける。しかし、ひとたび作業に取り掛かると、その空気は一変した。
「『剛健なる創造』!」
建築勇者が地面に手をつくと、凄まじい速度で石材と木材が組み上がり、抜け落ちていた屋根や崩れた壁が完璧な強度で再構築されていく。
「『美の息吹』!」
芸術勇者が巨大な筆とノミを振るうと、ただの石壁だった表面に神々しいレリーフが彫り込まれ、ステンドグラスには光を計算し尽くした色彩が宿っていく。
最初は互いの作業を邪魔しないよう意地を張っていた二人だったが、作業を進めるうちに、二人は互いの卓越した技術とアイデアに惹かれ合い、見事な共闘関係を築き始めた。
(この男……!私がフレスコ画を描きやすいように、壁の材質と曲面をミリ単位で調整している……!?ただの力任せじゃない、完璧な下地作り!)
芸術勇者が目を見張れば、建築勇者もまた、彼女の仕事に舌を巻いていた。
(なんて色彩感覚だ……。俺が組んだ無骨な柱の直線を、絵画と彫刻でここまで立体的に、かつ荘厳に引き立てるとは。俺の建築の意図を、完全に理解していやがる!)
言葉は交わさない。だが、彼らの技術とアイデアは完璧な相乗効果を生み出していた。彼らは信頼し合って作業を進めていった。
数時間後。夕陽に照らされた広場の奥に、かつてないほど美しく、そして堅牢な教会が完成していた。強固なインフラとしての機能美と、人々の心を打つ圧倒的な芸術性が、一つの建造物として奇跡的な融合を果たしている。
そこへ、完成した立派な教会を見て、街の「神官勇者」が現れた。彼は首を素早く傾けて微感謝をした。大人の勇者として本気で感謝を述べることは敗北宣言となるため、限界まで張り詰めた「真顔」を作り上げながらの、最大級の表現である。
少しの至福を得た建築勇者と芸術勇者は、共に教会を見上げ、お互いを「背中を預け合える相棒」として強く認識した。
「……悪くない仕事だったな」
「ええ。あなたの無骨な骨組みがあってこその、私の芸術よ」
言葉は刺々しいが、その声には確かな熱がこもっていた。
彼らは互いの技術と魂に触れ、強く認識したのだ。この孤独でギスギスした真顔の世界において、己の全力を預け、共に高みを目指せる唯一無二の存在を見つけたと。沈みゆく夕陽の中、並んで立つ二人の影は、強く結びついているように見えた。
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見事に修繕された美しい教会の前で、建築勇者の男と芸術勇者の女は並んで立ち尽くしていた。
共に汗を流し、互いの卓越した技術をぶつけ合ったことで、二人の間にはかつてないほどの強い引力が生じていた。惹かれ合っていることは、もはや火を見るよりも明らかである。
しかし、彼らは一国を支えるほどのエリート勇者だ。強烈なプライドが壁となり、「愛」や「甘え」といった感情を素直に認めることがどうしてもできない。相手に依存していると口にすることは、勇者としての敗北を意味してしまうからだ。
長い沈黙の後、建築勇者の男が、限界まで表情筋を固定した冷ややかな「真顔」のまま、ゆっくりと口を開いた。
「……お前の芸術センス、俺が一番形にできる。……生涯、お前の芸術を俺に作らせて、いつまでも共にインフラ工事してくれないだろうか」
それは、どう聞いても一生を添い遂げるプロポーズであったが、男はあくまで「仕事の契約」を装って結婚を申し込んだのだ。ロマンチックな雰囲気など微塵もない、極限の真顔での業務提携の打診である。
対する芸術勇者の女もまた、腕を組み、冷徹な真顔を一切崩さずに鼻で笑ってみせた。
「フン、私以上の芸術家はいないものね。いいわ、契約成立よ」
彼女もまた、あくまで「最強の絆を結んだ」という建前を盾にして、結婚に踏み切る返答をした。お互いに一切のデレを見せないまま、二人は正式に夫婦となる契約を交わしたのである。




