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Orb Of Infinity—百面相さんの『オブオブ』プレイ日記—  作者: 藤乃リュー
第一章・NPC救出編『彼と少女とその狂気』
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第十一話『尋問』

 部屋の中が、しんと静まり返った。


 ほんの少しだけ振り返り、視線をやれば、ミオは気まずそうに腕を組み、俯いていた。いずれは知られる事実だったが、まだ心の準備ができていなかったんだろうか。



 俺としては……予想的中、といったところだが。



 プレイヤーがゲーム開始時に選ぶことができる、通称三大国。ガルドラ、セルセリカ、バーレンのうち、ガルドラだけは所謂『王政』の国である。アギニスが『王都』とされていることからも分かるだろう。


 そんな王政の国で、国家転覆を目論む犯罪者たちが狙いを付ける人間……まず真っ先に思い付くのは、『王族』だろう。


 王本人、或いはその親族や時期国王など、王族を狙えば国家の転覆を狙うことも可能だ。逆に言えば、それを確実に狙って誘拐をするなら、王族以外には考えづらい。



 ミオは言っていた。犯人は国家転覆を狙って姉を攫ったのだ、と。それはつまり、ミオの姉は王族に連なるもの。その妹であるミオも同じだということに他ならない。




 もう一つ、ミオたち姉妹が王族だろうという予想ができるものがあった。


 俺は初めてミオに会った時、会ったことはないはずなのに何故か既視感を覚えた。その謎が、今確証を得た。


 それは、『オブオブ』のゲーム紹介PVだ。そのPVには、ゲームの大まかな背景を紹介するために、三大国の紹介も行われていた。各国を代表するNPCたちも映像には出ていた、と記憶している。


 ならば、王女であるミオの姉やミオが、その紹介PVに登場していても、何ら不思議なことではない。俺はミオの顔を知っていたような気がしていたが、それは間違いではない。ゲームの紹介PVで、恐らくはミオの顔を見ていたのだ。


 それ自体を見たのが随分前だったことと、そこまで注目していたわけでもなかったから、見た瞬間にミオが王族であるとは気付けなかった。今見返せば、ガルドラを紹介する場面では登場しているはずだ。




 とまあ……俺としては、以上の理由で、ミオの姉が王女だったことに、さほど驚きはない。だと言うのにそこまで気にされると、こちらとしても少々やりづらい。別に責め立てる気も無いんだが。



「お、おい……合ってるよな? 王女のことだろっ?」

「ん、ああ。そうだ、俺が聞きたいのは、その王女のことだ」



 俺たちが長い沈黙を守っていたからか、男が狼狽えてそう聞いてきた。向こうからすれば、王女の名前を出した瞬間に、俺たちが深刻な表情で黙りこくったものだから、何か間違ったのかと不安になったんだろう。



「アルゼイム王女、だったか。彼女はまだ生きてるのか?」

「い、生きてる……殺したら、人質として役に立たないって……」

「まあ、そうだろうな」


 予想通りだ。彼女に個人的な恨みがあるのならともかく、国家転覆を狙っているなら、今ここで殺してしまっては意味がない。


「王女はここにいるのか? とても、人がいそうな雰囲気じゃないが」

「こ、ここにはいないっ……」

「なら、どこにいる? 別の家か? それとも、地下にアジトでもあるのか?」


 男にそう問いかけるが、男は目を逸らし、答えようとしない。


 ふむ……扱いやすい男だと思ったが、存外、口が硬い。いや、情報を漏らして殺されたくないから、嫌でも口を閉ざさねばならないだけか。仲間のことを思っている様子ではないな。


「もう一度だけ聞く。王女はどこだ?」

「ぐっ……こ、答えたら殺されちまうっ……」

「だろうな。よくある話だ」


 男の服の端を引き裂き、その口へ詰め込んだ。これで多少叫んでも、音は吸収してくれるだろう。


 何をするのか。やめてくれ。そう言いたげに目を大きくしてこちらを見つめる男をよそに、俺はナイフの刃を、男の右耳に下から添えるように触れさせた。ほんの少し力を込めて切り上げれば、ナイフはいとも容易く右耳を切り飛ばしてしまうだろう。


 外の男たちの首をはねた時点で説得力はないが、正直、あまりグロい表現は勘弁してほしいものである。苦手というほどではないが、別に好きでもない。部位欠損はポリゴンが散って消滅するくらいの、ゲーム的な表現でいいのに、このゲームは、何故かリアルさを求めて、血が噴き出して欠損してしまう。



 だが、これも情報のため、か。致し方ない。



「もがっ、がっ!」

「同情するよ。同情だけだけどな」



 そして、ナイフを振り上げる。男の右耳は綺麗に切れて飛び、傷口からは真っ赤な血が噴き出し始めた。妙なところリアルに作るんだよ、このゲーム。


 男の絶叫は、口に詰め込まれた布で吸収され、ある程度は抑えられる。だが、それでもうるさいものはうるさい。あまり騒がれても面倒だな。



「……しー」



 布の上から手を当て、男の口に蓋をする。そして、人差し指をその上から当て、少しあざとく声をかけた。あまりにも狂気じみたその所業に、男は涙を流しながら、首振り人形のように縦に首を振った。


 せめてもの情けと、今度は袖を千切って頭に巻いてやる。この程度じゃ血は止まらないか……まあ、気休め程度にはなるだろう。俺が怪我をしたわけではないから、これで構わない。



 男が静かになったタイミングで、口から手を離し、口の中の布を引き抜いてやる。男は何度か嗚咽を繰り返し、よだれと涙、それから血と汗の混じった液体を、ポタポタと地面に落とした。



「素直に話すなら、せめて苦しまないように殺す。話さないなら、次は左耳を飛ばす」



 ナイフの先を残った左耳に添える。俺も鬼ではない。戦力を削ぐために、そして復讐を避けるために殺しはするが、質問に答えてくれるというのなら、苦しまないように首をはねて殺すのだ。


 なに……どうせ生き残っても、話してしまえば、後でボスなり頭領なりに甚ぶられて殺されるのだろう。なら、今俺に殺された方が楽に死ねるはずだ。



 男はやけに怯えた様子で、ガクガクと口を震わせている。この様子なら、そろそろ話してくれそうだ。


「今度は答えてくれよ。王女はどこにいる?」


 問いかけると、男は口を震わせたまま、焦点の合わない目でどこかを見つめている。……ダメか。


 ため息をこぼしながら、今度は左耳を飛ばそうかとナイフを添えた時……慌てて、男が口を開いた。



「ち、地下だっ……地下に隠れ家があるっ……!」

「……へえ?」



 添えていたナイフを、そっと離した。素直に答えるなら苦しませない、という約束だ。俺は、約束は守るタイプの人間なのだ。



「その隠れ家へはどうやって行く? 隠し階段でもあるのか?」

「ろ、廊下に扉があるんだ……そこから下りられるっ……」


 ふむ。ここへ来るときにはなかったはずだから、隠し扉ということか。この家に地下への通路があるなら、あまり長居もしていられない。何かの拍子で地下の仲間が上がってきては、こちらが一気に不利になる。


「お前たちの戦力は? 個々の実力はどれくらいだ?」

「今、こ、ここにいるのは30人くらいだ……お頭ともう1人以外は、外の3人と同じくらいの強さのはずだっ……!」


 男は抵抗することもなく、素直に全て話してくれる。


 『ここに』いるのは30人で、脅威となるのは2人。この組織の頭領と、どうやらもう1人。


「お頭ともう1人、っていうのが気になるな。どんなやつだ?」

「そ、それはだな——」



 それからも、できるだけ必要な情報を選んで男から聞き出した。



 男の所属する組織の名は『スカルズ』。安直な名前だが、だから手に『ドクロ』のタトゥーが入っていたのだろう。


 組織の頭領はジェイクという男。かなりの手練れらしく、武器は鍛えられたその拳。メリケンサックのようなものを付け、そこから放たれる一撃は岩をも砕くらしい。多少の誇張表現は含まれているだろうが、確かに今の俺では倒すことが難しい相手だ。


 そしてもう1人。頭領の他に厄介だと話していたのが、『旅人』と呼ばれる存在。どうやら組織の正確なメンバーではないらしく、常に仮面をかぶっていて誰もその素顔を、そして本当の名前すら知らないらしい。


 話を聞く限り、怪しさ満点の男だが……旅人は、組織の理念とやり方に同調し、そしてアルゼイム王女誘拐を実行、成功させたことからジェイクに気に入られた、とのことだ。



(……ある意味、頭領よりも厄介になり得る相手だな)



 作戦において、一番厄介となるのは『正体不明の相手』だ。頭領であるジェイクの情報は得た。実際に勝てる勝てないは別として、ある程度の対策は練れるだろう。


 だが、旅人とやらの情報はあまりにも少なすぎる。一ヶ月ほど前にふらっと現れ、顔も名前も明かさぬまま王女誘拐を実行。武器は投擲ナイフのようなものを使用していたらしいが、ここまでくるとそれさえ怪しくなってくる。



……プレイヤーか? いや一ヶ月前に現れたというなら、プレイヤーである可能性はゼロだ。何せ、俺たちは昨日初めて、この世界に来たんだ。旅人は確実にNPCであるはず。


 まさか、ストーリーを用意していないにもかかわらず、そんな謎に満ちたキャラクターを登場させるとは……いやはや、中々運営の悪戯心が見えてくるぞ。




(さて……これで、情報は出揃った)



 敵の戦力のことも、室内図も、王女の居場所も、組織の目的も、知りたかった情報は全て引き出せた……と、思う。後になって『あの情報も引き出しておけば』みたいな状況にならなければ、これで十分だろう。


 あとは、この男をどうするか、だが。



「あ、あとは何が聞きたいっ……この際だ、何でも話すぞっ!?」

「いや、情報はもう十分だ」


 質問が終わる。男にとって、それはすなわち自身の『死』を意味する。何が何でも質問を終わらせたくないのだ。だから、今になって意欲的に話そうとしてくる。


 だが、聞きたいことはもう無い。これ以上話を長引かせて仲間に駆け付けられては、こちらとしても都合が悪い。


「た、頼むよっ……命だけは助けてくれっ!」

「そう言われてもな……あとで裏切られても困るんだ。用が済んだ敵を殺すのは、とても合理的だと思わないか?」


 まあ、強いて言うなら、俺個人にこの連中を殺すほどの恨みがない、ということか。俺がミオの立場にいるなら、何も言わずに迷わず殺している。


「裏切らねえ! 裏切らねえから助けてくれっ! 頼むっ!」


 男は足と膝、それに両手を縛られているのに、身をよじって横に倒れ、そして額を地面に擦りながら懇願した。


……ここまでやられると、殺すのも後味が悪くて気が引けてくるな……。




 そうだ。俺がミオの立場にいるのなら間違いなく殺している。ならば、そのミオに意見を聞いてみればいい。


「……ミオ、どうする?」


 振り返ってそう聞くと、まさか自分に飛んでくるとは思っていなかったのか、素っ頓狂な顔をした。


「……私に聞くの?」

「俺はこいつらに直接の恨みはないからな」


 ミオは姉を攫われたという恨みがある。最終的に殺すか殺さないかは、ミオの判断に委ねよう。少し酷かもしれないが。



 ミオは酷く困った顔をしながら、組んでいた腕を解いてこちらへやってきた。そして、男の目線に合わせて屈むと、慈愛溢れる柔らかな笑みを投げかけた。


「頼む……絶対に裏切らねえから……」

「……うん、分かった」


 ミオの言葉に、男ははっと顔を上げ、期待に満ちたキラキラとした瞳を向けた。


 生かすのか。意外だと、そう思った。ミオは立ち上がると、何故だか短剣を引き抜いた。






 そして……短剣を男の額に向けて、投げつけた。



「ァッ……」



 短剣はすとんと額に突き刺さり、男の目がぐるんと回転して白目を剥き、そのまま溢れ出た赤い血の池に、派手な音を響かせながら落ちた。



……殺した、か。一度は期待を抱かせて殺すとは、えらく惨いことをするものだ。



「……こんな乱暴な王女は、嫌?」



 ミオは男の額から短剣を抜き、男の服で血を拭いながら、振り返りもせずにそう聞いてきた。


「いや? 殺す理由はあるが、『殺さない理由』はないだろ」


 俺としては、仮にミオが殺さずとも、そのあとで殺すつもりでいたのだが……だって、生かしておく理由が何もないのだから。


 まあ、たった1つ殺さない理由があるとすれば、俺の中にある倫理観だが。いくらNPCが高度な知能を持っていて、人間よりも人間らしいと言っても……相手は『犯罪者』で、危険があり、ここは『ゲームの中』だ。罪もない人を殺すのは躊躇われるが、相手が敵であるなら、殺すのに躊躇いは必要ない。


 そうだ。ここはゲームの中だ。『誰を生かして誰を殺すか』……それを選ぶのは、俺たちプレイヤーだ。自由度の高い『オブオブ』でのプレイヤーは、一種の『神』的立場にあるとも言える。それが嫌なら、このゲームをやめればいい。ゲームというのは……そういうものだ。



 俺がミオを否定しなかったことが意外だったのか、彼女は振り返って少し驚いた顔をしたが、やがて拭き終わった短剣を鞘に納め、微笑んだ。


「……そう言ってくれて助かる。ありがとう、カイン」

「礼はお姉さんを助けてから頼む。やることはまだ山ほど残ってるんだ」


 そう言って、男を縛っていたロープを回収する。流石にNPCの死体をアイテムとして回収することは無理だった。仕方ない、死体はリビングの端に隠しておこう。



……よし。これで準備は整った。作戦もある程度は頭の中で構築している。これからすべきことはただ1つ。



「……お姉さんを助けるぞ、ミオ」



 力強く頷いたミオと共に、俺たちは部屋を後にした。

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