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千夜の魔宮の物語  作者: 黒崎江治
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第六十九夜 エル -6-  

 あたりは暗がり。


 浮遊感がやむや否や、タルナールは頬を刃で撫でられたような気がして、思わず身を竦めました。しかしすぐ、肌に触れたのは鋼でなく冷たい風だということに気づきます。両腕で身体を掻きいだきながらその場でしゃがみこむと、足元はどうやら凍てついた岩塊。


「寒い!」


 時間帯を考えなかったのはこちらの落ち度ですが、ドゥーザンニャードはあろうことか、タルナールたちをエイブヤードの高峰に放り出したのです! 


 現在地はほとんど山頂近くでしょうか。かつてひと晩を過ごしたカルガの集落よりもさらに高く、眼下には月明りに照らされた雲海が広がっています。


 早く麓におろしてくれと頼もうにも、すでにドゥーザンニャードの姿はありません。


「みんな、いるか! 散らばるなよ!」と、近くでラーシュの声が聞こえました。


 タルナールは風に飛ばされないよう姿勢を低くしながら、途中ではぐれそうになっていたルアフを捕まえ、なんとか仲間たちと合流しました。そのうちエルとネイネイが灯した光によって、ひとりも欠けのないことが確認できました。


「私が弱っていなければ、みなを麓まで運べるのですが」と、エルが言いました。


「このままだと全員凍え死ぬぞ」と、エトゥが白い息を吐きながら言いました。「とにかく下におりよう。足元に気をつけろ。滑り落ちたら助けられない」


「下、行くか?」と、声をあげたのはルアフです。彼ときょうだいたちは全身の羽毛を膨らませて、互いに身を寄せあっておりました。震えるくちばしがかちかちと音を立て、いかにも寒そうです。


「そうだ。下に行けば、多少はましになる」


 タルナールが言うと、ルアフはきょうだいたちとなにやら囁きあってから、やおら翼を広げました。いつかも見た光景です。たしかあのときは……。


「待て、ルアフ。前も言おうと思ったけど、僕にも心の準備が――」


 次の瞬間、覆いかぶさるように飛んできたルアフが、大きなかぎづめでタルナールの肩を掴みました。きょうだいたちも次々に飛び立ち、ラーシュを、エトゥを、エルとネイネイを上空へと攫いました。いくつかあがった人間たちの悲鳴は、すぐさま強風に吹き散らされていきました。


 はじめトゥーキーたちはふらふらと危なっかしく飛んでいましたが、やがてコツを掴んだようで、次第に姿勢を安定させました。しばらく生きた心地がしなかったタルナールも、そのうち浮遊感に馴れ、愉快とは程遠い状態ながらも、以前のように気を失ってしまうことはありませんでした。


 石彫都市の暮らしでは決して味わうことのできなかった大空。ルアフときょうだいたちはしきりに歓呼の声をあげ、興奮したように翼をはためかせます。もはや身を切るような寒さも忘れて、ひたすらに飛行の喜びを味わっているようでした。


 やがて彼らはひときわ強く羽ばたいたかと思うと、眼下に見える雲の中へ、勢いよく突っ込んでいきました。細かな水滴が肌を濡らすのを感じつつ、タルナールは為すがまま。


 そのうち分厚い雲を抜けた一行は、山肌に沿って高度を落としていきます。タルナールは岩に足先をぶつけるのを恐れ、膝をぐっと腹の方に引き寄せたまま、早く平地におりられることを祈りました。


 結果として、麓のあたりまで到着するのにかかった時間は、四半刻のそのまた半分といったところでしょうか。


 トゥーキーたちにとっては夢のような、あっという間の体験だったでしょう。しかしエルを除いたふつうの人間たちにとっては、永遠にも思える過酷な時間でした。ようやく地面に降り立ったとき、上下左右に振られて頭はふらふら、かぎづめで掴まれた場所には内出血ができ、手先足先は死人よりも冷たくなっておりました。


 気を利かせたエルが素早く呪文を唱えると、小さな炎が三つ四つと地面に踊ります。それを種として本格的な焚火を起こし、あちこち揉んだりさすったりしていると、タルナールの身体にも少しずつまともな感覚が戻ってきました。


「ルアフ。次に人を掴んで飛ぶときは、ちゃんと前もって言ってくれ」


 とにかく、疲れました。今日のところはもう休むのが賢明でしょう。石彫都市の訪問からエイブヤード下山まで、短期間に色々なことがあり過ぎて、頭の整理も追いつきません。


 トゥーキーたちはまだ少し余力を残しているようですが、さすがにウシャルファまで飛んでいけるほどの元気はなさそうです。あたりを夜の獣が徘徊している可能性を考えても無理は禁物。あまりゆっくりしている暇がないのは確かですが、それで危険な目に遭っては元も子もありません。


 ラーシュがこの場での野営を提案すると、孤児院が心配なエトゥも含め、全員がそれに賛成しました。


「みなさんは眠ってください。私が見張っていますから」


「君は平気なのか」と、ラーシュが気遣います。


「ええ。これまで何百年も眠ってきたようなものですから、ひと晩ぐらいどうということはありません」


 エルはそう言って、焚火の傍に腰をおろします。


 結局、タルナールたちは彼女の厚意を受けることにしました。寝具にくるまって、あるいは羽毛を寄せあって寒さを防ぎながら、忙しなかった今日の疲労を癒します。


 ルアフときょうだいたちはしばらく興奮冷めやらぬ様子で――おそらく先ほどの大飛行のことを――互いに囁いておりましたが、やがてはそれも収まり、吹き抜ける風と焚火のはぜる音だけが、タルナールに聞こえるすべてとなりました。


 どれほど眠ったでしょう。


 ふと、タルナールはまどろみから覚めました。身体は疲れきっていますが、思考は妙に冴えています。おもむろに首を傾けると、焚火に照らされた儚げなエルの横顔が目に入りました。


 彼女はあたりを眺めたり、わずかな気配に耳を澄ませたり、特に意味もなく小枝の先を燃やしたりしながら、見張りを続けておりました。仕草はごくなにげない風でしたが、細かく揺れる琥珀色の瞳は、彼女の深い葛藤と懊悩を示しておりました。


 タルナールはゆっくりとエルの隣に移動して、そこに腰をおろします。


「眠れませんか? ひとまず近くに敵の気配はありませんから、安心してください」


「ありがとう。少し変わった体験をしたせいで、頭が興奮してるんだろう。しばらく起きていれば、きっとまた眠くなる」


「……こうしていると、ザラッドと旅をしていたときのことを思い出します」と、エルは言いました。「なにせふたりだけの道行でしたから、見張りを立てなくても眠れるよう、色々と工夫したものです」


 それからしばらく、彼女は火を見つめたまま黙っていましたが、やがてぽつりとこう言いました。


「ザラッドのことは後世に伝わっているのでしょうか」


 自分は詳しくないから、と躱すのは簡単ですが、それは少しばかり不誠実です。タルナールは自らが知る限りの事情を、話して聞かせることにしました。


「君が話したダバラッドという名前の国だけど、いまでは古ダバラッドと呼ばれている。それは七百年くらい前に興って、五百年くらい前に滅びたと伝えられている。滅びた理由は確か、王家の断絶と内乱だったと思う。


 そのあと、古ダバラッドだった国は部族ごとに分裂して、いくつもの小さな国になった。そのうち北西の地峡からシーカ人が、東の平原からケッセル人がやってきて、またそれぞれ国を作った。


 次にダバラッドという名前が歴史に現れたのは、いまから大体百八十年前のことだ。互いに争っていた小国のひとつで、ワーイドという名前の青年が自らを守護者(ダワール)と称して兵を挙げた。彼がザラッドの血縁者なのかは分からないけれど、少なくとも天才的な軍略家ではあったみたいだ。


 ワーイドはたった半年で国王を追い落として自らその座につき、周囲の小国も次々に呑み込んでいった。その過程で、彼はかつての偉大なる王国の名を、支配下の地域に対して使うようになった。


 それが、いまのダバラッド。ワーイドは初代守護者(ダワール)、すなわちダワール・トール・ワーイドとして君臨し、自らの子孫に地位を継がせた。いまは九代目、ダワール・クム・シャルカン陛下の治世だ。


 そういう歴史において、古ダバラッドの最盛期にいたザラッドという人物が、がどれぐらい記録に残っていて、どういう評価をされているのか、僕は詳しく知らない。多分、カリヴィラの宮殿に行けば、詳しいことが分かるだろう。


 でも僕は吟遊詩人として、君やザラッドに関係するかもしれない歌を知っている。〈忠良なる騎士〉というのがそれだ。これはとても古くからあるとされている歌で、ダバラッドの中でも外でも、たくさんの人に愛されている。


 この歌に出てくる騎士にも、騎士が仕えた王にも名前はついていないけど、僕はもしかすると、これが君とザラッドのことを歌ったものなんじゃないかと思っている」


「どのような歌ですか?」


「みんなを起こしてしまうから、いま歌うことはできないけど……」


 叙事詩として見るならば、〈忠良なる騎士〉はとても短い部類に入ります。しかしそこには胸躍る冒険譚、心温まる人情話、魂の燃える恋愛劇、血の沸きたつ武勇伝といった要素が豊富に含まれ、数百年前の古典ながら、現代の傑作と比較してもなんら遜色はありません。


 タルナールはそのような評価も含めて、エルに〈忠良なる騎士〉のあらすじを語って聞かせました。そして自分がこの歌をきっかけとして師と出会い、吟遊詩人を志したことも。


「この歌は、騎士が邪竜と戦って相討ちになるところで終わる。騎士は死んでしまったけれど、彼の剣と武勲は残り、やがて戻るはずの主君を待ち続ける、というのが最後の部分だ。僕はずっと、彼が仕えるべき王がいつのまにかいなくなってしまったことを不思議に思っていたけれど、もしそれが君のことなら、詳しく語られなかったのは、意図的なことだったんだろう」


 つい熱を込めて語っていたタルナールでしたが、エルの頬に涙が伝っているのを見て、少々気遣いに欠けていたことを反省しました。


「事実、ザラッドはアル・アモルと戦ったでしょう。私が愛した地を守るという約束を守るために」と、彼女は言いました。「私は自らの過ちで、無二の友を死なせてしまったのです」


 揺らぐ炎を反射する彼女の涙には、安易な慰めを拒絶するような色がありました。


 タルナールがなにも言わずにいると、長い長い沈黙のあとで、エルはふたたび口を開きました。


「私は咎人です。かつて犯した罪を償うためならば、あなたたちへの助力を惜しみません」


 ふたたびの沈黙。


「しかし私は自分の所業が、また新しい罪を生んでしまうことが恐ろしい」


 その言葉で、タルナールは〈魔宮〉の深奥でエルが目覚めて以来見せている、様々な感情の根源を知りました。


 彼女はなによりも、自分自身を恐れているのです。アル・カラムたちの悪意に砕かれた心は、七百年のときが経ったいまも癒えていないのです。


「君だけでなにもかも背負い込むことはない」


 タルナールは言いました。神ならぬ身、それも若輩の身で彼女の傷に触れるのは、きっと不遜な振る舞いなのでしょう。しかし、黙っていることはできませんでした。


「君を連れ出したのは僕たちだ。それで悪いことが起こるなら、僕たちに責任がある」


 それは本心からの言葉でしたが、タルナールは我ながら空虚に感じました。この場合の責任というのは、金貨を百枚支払うとか、バーラムを敵にして立ち回るとか、そういった規模の話ではないのです。国家や歴史がどうこうというときに、たった四人でなにができるというのでしょう?


「なら、こうしよう」と、タルナールは言いました。「僕が君の物語を作る」


「物語を?」


「そうだ」と、タルナールは頷きました。半ば苦し紛れの着想でしたが、いったん口に出してみると、そう悪い考えではないように思えてきました。


「君は自らの罪を恐れるあまり、人々から忘れられたいと望んだ。別に間違った考えじゃないと思うけど、それは忘れる方にとっても忘れられる方にとっても寂しいことだ。


 でも君がアル・カラムのようにならないための方法はほかにもある。それはできるだけありのままを伝えることだ。君がもともとどんな存在であったのか、王になる前なにをしていたのか、王になったあとなにをしたのか。


 どうなることを罪と考え、それを逃れるためにどうしたのか。その結果なにが起こって、どうそれを償おうとしたのか。神になんかなりたくないという君の想いを、正しい形で伝えることができたなら、人々はきっと理解してくれる。なにも自分のすべてを忘れさせようなんて考えなくていいんじゃないか」


「……そんなことができるのでしょうか」


「優れた歌や物語には、人生を変えるような力がある。それが大勢によって歌われ、語られるなら、どんな王者の命令よりも、どんな魔術師の幻惑よりも、ずっとずっと強い影響力があると思う。僕自身、素晴らしい歌に出会ったからこそ、こんなにも大それた冒険をする気になった。だから、できるよ。僕を信じてくれ」


 また、長い沈黙。途中で焚火が大きくはぜて、エルの顔を束の間赤々と照らしました。


「ありがとう、タルナール」


 やがて、彼女は言いました。


「ひと通りの物事が落ち着いたら、私のことを残らず話して聞かせましょう。あなたが思う優れた歌や物語というものを私もぜひ聴いてみたい」


「少しは迷いが晴れたかな」


「ええ。とても素敵な提案でした。ですが、なにはともあれ……」


 エルは言葉を切ると、遠く北の荒地、アモルダートの方角に目を向けました。彼女はそれ以上口にしませんでしたが、きっと分厚い夜の帳越しに、アル・アモルの存在を感じているに違いありませんでした。


       *


 夜が去り、朝が訪れます。


 心配された夜の獣の襲撃もなく、一行はまずまず充分な休息を取ることができました。ルアフときょうだいたちは出発が待ちきれないのか、払暁の前からもぞもぞと起き出し、二度三度と小飛行を試みておりました。


 さて、現在地からウシャルファまで、徒歩なら二日から二日半の距離。ルアフたちの翼をもってしても容易な距離ではありませんが、比較的平坦な土地の上を飛ぶわけですから、必要に応じて休憩を取ることは可能でしょう。


 とはいえあまり余裕のある情勢とは言えませんので、ネイネイの魔術を飛行の補助とすることにしました。彼女はルアフときょうだいを集め、翼を大きく広げさせると、ところどころに灰水晶の杖で触れながら、長々とした呪文を紡ぎました。


〈翼よ。(はや)き翼よ。汝は雲よりも軽き無垢の帆にして、迷いを知らぬ不壊の櫂。十二方位の風を従え、紺碧の果てまでも領とせよ〉


 呪文がこのように結ばれると、トゥーキーたちの翼が艶やかに煌めきます。傍らでひと通りの様子を見ていたエルが、興味深げに尋ねました。


「どこでこの呪文を?」


 なぜそれを気にするのか、とタルナールが話を聞いてみたところ、どうやらネイネイが唱えた呪文を構成する言葉のいくつかが、エル自身の作り出したものだったから、とのことでした。


「私はザラッドと旅をしていたときに、各地でさまざまな魔術を身につけましたが、それらはあまりに独特で、使い手に不親切で、無暗に複雑なものばかりでした。のちに王となったとき、魔術を学びたいという熱心な者が幾人かおり、私は彼らのために体系の整理をおこなったのです」


「つまり、エルは私の遠い師匠筋?」


「そうなるかもしれません」


 考えてみれば、それは別に不思議なことでもなんでもありません。魔術に限らず、古ダバラッドの技術や文化は、現代にあるものすべての基礎として、いまも色々なところに受け継がれているのですから。


 エルの名は忘れられたかもしれません。しかし彼女がザラッドとの旅で拾い集め、丁寧に整理し、人々に行き渡らせたものは、決して失われてはいないのです。


 エルとネイネイがそのようなことを話しながら、すぐにでも飛びたがるルアフたちを宥めていると、ラーシュとエトゥが全員分の荷物を整理し終え、出立の準備ができたと告げました。


 こうして一行は改めてウシャルファへと向かいます。前回味わった痛みに懲りた人間たちは、自らの身体をトゥーキーの脚に括る方法を考え出しておりました。理想を言えば鞍のような形がよいのですが、いまは作るための時間も資材も足りません。


 なお、トゥーキーたちの力量と人間たちの体重、それから双方の希望や相性などを考慮した結果、ルアフがタルナールを、きょうだいのうちもっとも大きな者がエルとネイネイを、小柄なふたりがラーシュとエトゥを運ぶことになりました。


 空には分厚い雲が垂れこめ、どうにも陰気な様相を呈しております。とはいえ地下の薄暗がりに馴れたトゥーキーにとって、苛烈な太陽を浴びるのは苦痛でしょうから、飛行の条件としてはそう悪くないものかもしれません。


「イールフ・ヒーフ!」


 ルアフが声高く叫んで一気に飛び立ちますと、彼のきょうだいたちも次々それに倣い、魔術の煌めきを軌跡に残しながら、次々に地面を離れました。


 エイブヤードより吹きおろす風を背に感じながら、タルナールは小さくなっていく地上の光景を眺めます。あまり高度をあげ過ぎないようルアフに頼み、北方に目を向けたタルナールは、これまで見たことのない奇妙なものを目にしました。


 言うなれば、それは霧でできた塔でした。地の奥底に基礎を持ち、雲を突き抜けて伸びる途方もなく巨大な塔。しかしその輪郭は石や煉瓦ほど確かでなく、灰色がかった表面はごくゆっくりと、右から左へ流れて――つまり全体としては右巻きに渦を巻いて――おります。


 タルナールは風の具合でわずかに形を変えた塔の内部に、得体の知れない影が蠢いているのを見た気がして、ぞっと背筋を震わせました。


「ルアフ、いまの見たか?」


「恐ろしいもの。近づく、やめる」


「そうだな。避けて進もう」


 エイブヤードとの位置関係からして、あのあたりにはアモルダートがあったはずですが、周囲にそれらしいものは見えません。おそらく、塔にすっぽりと覆い隠されているのでしょう。


 不吉なものはほかにもありました。塔の周辺でうごめく無数の獣です。もちろん、駱駝や羚羊ではありません。異界より訪れた色なきものたち。〈魔宮〉より地上に湧きだした夜の獣たちです。ドゥーザンニャードによれば、その数は五千をくだらないということでしたが、いまはもっと多くなっているようでした。


 タルナールは老レヴィッドに聞いた話が思い起こします。盛んな夜の獣たちに圧迫され、住処を奪われ、大きく数を減らしてしまったトゥーキーたち。それを聞いていたときのタルナールは、まさか人間にも同じことが起こる可能性など、ほんの少しも考えていませんでした。


 しかしエルやドゥーザンニャードに警鐘を鳴らされ、実際に膨大な数の獣を目にしてみると、どうしても最悪の事態が頭をよぎります。


 ウシャルファに集まっている守護者(ダワール)の軍勢は、アル・アモルに抗し得るのか? エルを連れてきたことは、果たして正しい判断だったのか? 街へ戻ったとして、自分たちにこれ以上なにができるのか? 不安は尽きません。


 それでもタルナールは、すべてを最後まで見届ける覚悟でいました。自分のために、エルのために。たとえそこに破滅が待ち受けていようとも、進む意志を持ち続けようと決めていました。


 いよいよ、物語は終わりに近づいていきます。


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