秋
ねぇ、何で?
何故他の男と一緒に居るの?
僕はあれ程想いを示したのに、理由もなく裏切るんだね。
前見た時の僕は……赤黄の絨毯に落ちた場違いな緑の色付きも許す事が出来たのに……。
そんなかつての輝きを踏みしめて息を吸い込むと、僕は幸せだったんだよ!?
本質的、根源的な部分で貴方と同化したようで、とても幸せだったんだ……。
それなのに……とても裏切られた気分だよ。
渓谷の吊り橋が揺れると君達は互いに見詰め合って、愛を確かめるようにしっかりと手を繋いでいたね。
体を寄せ合い何かを呟いては、より強く抱き合っていたね。
……あの時、見ていなかったらどんなに良かっただろう。
川の潺は君達の愛おしみまではかき消してくれない。
目の前の紅葉は全てが色褪せて、今迄の秋が音も無く壊れていった。
貴方の心に僕はいないのか……現実を目の当たりにして引き返すと、ふと道路で風景を眺めると田んぼに花が咲いていたのに気付いたよ。
そう、天に向かう地獄の花達が僕を救ったんだ。
その花達は行き場もなく彷徨う魂が永遠を求めているみたいに、空を仰いで真っ直ぐ伸びている。
この花達の凛々しい姿に、僕の悩みは嘘の様に霧散していたんだ。
そうさ! 悩む必要なんかなかったんだ、人でごった返す中バックミラーの僕は精悍な顔立ちで、風に震える草花にただただ心奪われていた。