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ソフィアが自分を見つけるまで  作者: 彩緒


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18/23

第十六部:新公爵家の創設

(4560字)

 私とエマは、久しぶりに三号館の控室にいました。三号館に来ると、家に帰ってきたような気持ちになります。


「エマ、体大丈夫?無理しないでね」


「大丈夫。それより、《ソフラン》が開店一周年を迎えるときに、エマール商会全体のことまでお願いしてしまってごめんね」



 エマのお腹は大分大きくなっていました。もうすぐ赤ちゃんが生まれるのです。エマはしばらく仕事を休むので、私が代理でエマール商会の運営を引き受けることになりました。今日は、その説明を聞きにきています。


「エマが帰ってくるまでエマール商会のことは任せて。《ソフラン》の方は、ロゼがしっかりしているから大丈夫。一号館はリルが、二号館はララが、三号館はレイナがいるから、なんとかなると思う。本当に、エマの言う通り、後進を育てておくって大事なことだったのね」


「うふふ、これもソフィアが同意してくれたおかげよ。ソフィアのときは私にも《ソフラン》のこと手伝わせてね」


「・・・うん」


 当然のことのように言われると、なんだか気恥ずかしいです。


「それより新聞見てビックリしたわ。これからオーヴェル領はどうなるのかしらね」


「第四王子が留学先から帰ってこないことになるなんて想像していなかったわ」



 新聞には、留学中の第四王子が、留学先で出会った他国の公爵家御令嬢と婚約と載っています。

 私は、ジョルジオ様を通してもう少し詳しい事情を知っていました。


 御令嬢には、婿入り予定の婚約者がいたこと、その婚約者が他の御令嬢と懇意になり婚約解消になったこと、解消後すぐに第四王子が御令嬢に求婚したこと、その結果第四王子が他国の公爵家へ婿入りすることになったことなど。

 どこの国でも、婚約者以外の方を好きになる人がいるようです。

 

 

 それにしても、オーヴェル領はどうなってしまうのでしょうか?

 オーヴェル領は、すでに国有化されています。

 明言はされていませんが、オーヴェル領は一旦国営化し、いずれ第四王子を初代公爵とし、オーヴェル領の領主にという話でした。

 国営化の前に、統制が取りづらくなっていたオーヴェル領を治めやすく整えること、これが領主代行の仕事でした。


 ジョルジオ様が領主代行代理を務めてから二年以上経ちました。

 ジョルジオ様のおかげで、オーヴェル領は安定し、領民の暮らしも豊かになっています。

 他領とつながる街道を全て整備し、死角となる場所をなくしたので、物資の流通が安全に滞りなく行えるようになりました。人の流れが多くなり、街道沿いは経済的に潤うようになりました。

 この街道のおかげで、王都への物資は以前より早く届くようになり、王都はさらに賑やかで豊かな場所になっています。

 税については、各地から上がってくる情報をパターン化し、領管理統括省の方たちもすぐわかるような仕組みに作り変えています。

 オーヴェル領の管理は、領管理統括省の人たちだけで、今はもう回せるでしょう。



「そろそろ領主代行代理は終わりかもしれないな。オーヴェル領は僕がいなくても、各地で連携を取り合って上手くやっていけるはずだし、領管理統括省もオーヴェル領のことを十分把握できているしね。そうだ、時間が空いたらソフィアの手伝いでもしようかな。はははっ」


 ジョルジオ様は、なんてことないかのように言います。


 でも、私はとても心配していました。

 領主の仕事は、ジョルジオ様の生きがいです。それがなくなったら、どうなってしまうのだろう。少しはオーヴェル領に関わらせてもらえるんだろうか?考えても仕方がないことを、ついつい考えてしまっていました。


 そんな私の思いに関係なく、オーヴェル領は国営化するという話が事実のように浸透していきました。ジョルジオ様は、最初から期間ありきの要請だったことから、その話を聞いても淡々としていました。




 ところが、予想外の動きをした人たちがいました。

 国営化の話を聞いて、真っ先に動いたのはオーヴェル領の領民でした。


”国営化は困る。領の管理責任者は領民が決める。オーヴェル領はわずか二年で格段に住みやすくなった。オーヴェル領の領主様はジョルジオ様だ。他の管理者はいらない”


 領民の意見はオーヴェル領各地の代表がまとめ、領民の総意として『ジョルジオ・ギュスター様をオーヴェル領の正式な領主に望む』という嘆願書が領管理統括省に提出されました。


 このことは、ジョルジオ様が先導したのではと疑われないため、ジョルジオ様には内密で行われました。また国営化の公示が出される前にと、異例の速さで署名が集められ嘆願書の提出に至りました。


 

 領民が領主の希望を出す、前例のないことでした。

 領管理統括省で判断できるものでなく、嘆願書は議会に提出され、さらには国王陛下のところまで話が届きました。陛下の御父上とジョルジオ様のお母様は兄妹ですから、陛下はジョルジオ様の従兄弟になります。



「僕が領民のためにやってきたことを、こういう形で認めてもらえたことが嬉しい。領主冥利につきるよ。もう思い残すことはない」


「ジョルジオ様が領内を隈なく見て回り、いろいろ行動してきたこと、領民は感謝してくれていたんですね」


 ジョルジオ様は感無量といった感じで言い切りました。アルフは涙ぐみながら感動しています。

 ギュスター邸は、しみじみとした空気に包まれました。



 ですが、感慨にふけっているだけでは済みませんでした。ジョルジオ様に、陛下からの公式な呼び出しがありました。何事だろうかとジョルジオ様の帰りを待っていると、珍しくジョルジオ様が固い表情で帰ってきました。


「ジョルジオ様?大丈夫ですか?」


「ソフィア、しばらく周囲が騒がしくなるかもしれない。でも、君は今まで通りに過ごしてくれればいい。実は───」



 陛下の考えたことは、四大公爵制の復活でした。

 現在は三大公爵家しかありませんが、昔は四大公爵制でした。国内にバランスよく公爵家を配置するために、再び四大公爵制を復活させる。この四番目の公爵家の初代にジョルジオ・ギュスターを任命したい。所有領はオーヴェル領とする。ジョルジオ・ギュスターは、王家の血筋であるから公爵に叙することに問題はないだろう。オーヴェル領の領主として、すでに領民から絶大な支持も受けている。領民の声には耳を傾けねばならぬ。


 陛下の命が下りました。


 『この事案を貴族議会にかけよ。』




 この知らせが届いた瞬間、ギュスター邸の空気は一変しました。

 ですが、ジョルジオ様だけは、冷静でした。


「この国は、王政ではあるが貴族議会の採決が重視されるからね。安易に何かを言う段階ではないよ」


 ジョルジオ様の言う通り、この国は国王陛下の一存で物事が決まる国ではありません。王命の一言で決定させることもできますが、基本的に陛下は貴族議会を見守ります。


 特に新しい貴族家の創設の場合、血縁や婚姻相手の家を除く、伯爵家以上の当主の同意を得なければなりません。今回の場合、ギュスター公爵家、レグナード侯爵家、グリーグ伯爵家を除いた貴族家の同意です。新たに、伯爵家創設なら7割、侯爵家創設なら8割、公爵家創設なら9割の同意が必要となります。同意を得ずに、王命で貴族家を創設しても、貴族社会で反発を買い、新しい貴族家は孤立してしまいます。

 公爵家創設が議会にかけられるのは、これが初めてのことなので、どうなるのか全く予想がつきません。


「ジョルジオ様の功績から陛下がおっしゃられたのなら、議会で覆されることはないんじゃないでしょうか」


「どうかな、皆それぞれの思惑があるからな。国営化されれば、領地を持たない領主が、いつか領地を分け与えてもらえる可能性もある。自分の派閥の者が領地を持てば、派閥の力が増す。派閥云々ではなく、国には大規模な実験的施設が必要だと主張している者もいるし・・・まあ、ここまできたら、流れに逆らわず、あるがままにだな」


「・・・そうですね」




 私は落ち着かなくなりました。


「ジョルジオ様、私がいるとジョルジオ様の足を引っ張りませんか?私は、貴族らしくないですし・・」


「おいおい、ソフィア。周りが騒がしいからって君が変わる必要はない。君は君らしくしていてくれ。君は元気に過ごしていてくれれば、それで十分だ」


「それでは子どものようではありませんか」


「はははっ、まあまあ、いいじゃないか。それより僕は今、自分で自分の足を引っ張ることになっているよ」


「?」


「忘れたのかい?僕は『天下の遊び人ジョルジオ』って呼ばれていたんだよ。遊び人が公爵家の初代でいいのかって言われているよ。はははっ」


 ジョルジオ様の言葉は、私への思いやりでした。ジョルジオ様には言っていませんでしたが、《ソフラン》には匿名の手紙が何通か来ていました。”貴女に公爵夫人は似合わない”─そんな内容の手紙でした。上質な紙に綺麗な文字、明らかに貴族女性からの手紙でした。おそらく皆様個人的にされていることだとは思いますが、何通か目にすると穏やかな気持ちではいられなくなります。

 手紙のことを伝えていなくても、私が何か言われているんだなと、ジョルジオ様はわかっているようでした。

 ジョルジオ様は、もし議会で承認を得られなくても、私が罪悪感を抱くことが無いように、冗談を言ってくれたのでした。


 

 

 私は爵位はともかく、ジョルジオ様がオーヴェル領の領主になれればいいなと思っていました。ジョルジオ様のために、何かしてあげたい。でも私には私が任されている役目がある。


 結局、目の前の仕事をこなしているうちに、時間だけは過ぎていき、新公爵家創設の承認を問う議会の前日になりました。


 明日の議会には、伯爵家以上の家の当主が集まります。ジョルジオ様もその場に行き、各貴族家が承認するのか拒否するのかを見届けることになっています。


 私は事前に、結果を聞く心構えをしておきたくて、アルフにどういう方向になりそうか聞きました。アルフは、悩みながら答えてくれました。


「そうですねぇ・・・難しいところです。7割の貴族家は承認すると思われます。しかし、二つの侯爵家が反対の意向をはっきりと示しています。こちらは、オーヴェル領を分割して領地を持たない貴族家に渡す方が良いと考えています。この二つの侯爵家が反対意見を強く訴えた場合、同じ派閥の伯爵家が意見を合わせてくるでしょう。

 逆に侯爵以上、”公爵”が先に承認の意思表示をした場合は、おそらく皆それに従う形になると思います。ですが、前例では公爵は、貴族議会の最後に意見をいうことが多いです。

 いずれにせよ、新しい貴族家の創設を問う議会は、審議が長引きます」


「そうですか・・・・」


 私とアルフが重たい空気で話していると、ジョルジオ様が明るい声で言いました。


「二人とも、今いろいろ考えてみても、明日には結果が出る事だから、落ち着いて議会の流れを見届けよう。それよりソフィア、明日は早番だろう。早く休みなさい」


「・・・はい」


「確かにおっしゃる通りですね。ジョルジオ様も明日は長丁場になりますから早くお休みください」


「そうしよう。ソフィアが明日仕事から帰ってきても、まだ結論が出ずに議会にいることになるかもしれないしな」



 落ち着かない気持ちのまま、私たちは早めに休みました。ジョルジオ様も落ち着かなかったのかもしれません。いつもより念入りに、寝る前に私の髪を撫でていた気がします。

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