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ソフィアが自分を見つけるまで  作者: 彩緒


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15/23

第十四部:思いを重ねて

(2141字)

*


 ジョルジオは自分を責めていた。

 ソフィアのためにと思って、《ソフラン》開店の話題を社交の場で出したことを。

 まさか貴族が集まるバーでその話題が上がり、それをあの男が耳にするとは思っていなかったのだ。


 毎夜、ソフィアの寝顔を見に行く。そのたびに心が痛み、激しい怒りが湧いてくる。

 どんなに痛くて怖かったことだろう。つい青あざを指でなぞってしまう。

 傷やアザが消えてくると、今度はソフィアの寝顔を確認するようになる。


 よし、今日も穏やかな寝顔をしている。よしよし、安心できているな。


 いつしか、寝顔の確認はジョルジオの日課になっていた。


*



 私が夫婦の寝室のベッドで回復を待つ間、ジョルジオ様は隣の別室で過ごしていました。時々様子を見に来て話をすると、また執務に戻るということを繰り返していました。

 

 この生活の中で、私は途中からあることに気がつきました。

 ジョルジオ様は、普段は決して理由なく私に触れることはありません。最初は、痛み止めの影響で夢うつつだったのですが、ジョルジオ様は私が寝ているときに、青くなった頬をそっと撫でていました。私の顔の青あざが消えると、今度は”よしよし”というように頭を撫でていきます。私は寝たふりを続けていますが、だんだん不安になってきました。


 もしかして娘のように思われている・・・・・? 

 もう今さら無理なの・・・・・?



 あれから三週間が経ち、もうすっかり私の体のアザは消えていました。ブランナー先生の診察も終わり、後は私の気持ち次第になりました。そろそろ夫婦の寝室ではなく、自分の寝室に戻っても良い頃です。ジョルジオ様も隣の別室での執務より、本来の執務室でのお仕事の方がやりやすいはずです。でも誰も、元に戻そうとは言いません。

 私は、誰かに言われてしまう前に言わなくてはと決心しました。


 シェリルに身を清めてもらい、新しい部屋着で、夜いつものように頭を撫でに来るジョルジオ様を待ちました。

 部屋に入って来たジョルジオ様は、私がベッドの淵に腰かけているのを見て驚いたようです。


「どうした?今日は眠れないのかい?」


「ジョルジオ様を待っていたんです。・・・その・・少しお話したくて・・」


「嬉しいこと言うね。何だろう?」


 私はいざとなると、どう切り出して良いのか、言葉が出てきません。ジョルジオ様は、ベッドサイドの椅子に腰かけて、静かに待ってくれています。



「・・・私の部屋のドレス・・・・最初から私のために用意してくださったものだったのですね・・」


 やっと、絞り出せた言葉は、肝心のことから逸れた話でした。それでもジョルジオ様は、優しく返してくれます。


「ハハッ、わかってしまったのか。うん、君が嫁いでくると決まったときに用意したものなんだ。聞いていたサイズより、大分痩せていたから大き過ぎたみたいだね」


「あんなにたくさん・・・私を迎え入れる準備をしてくださっていたのに・・・それなのに私は、なんて失礼なことを・・・」


「ソフィア? それは、もういいんじゃないかな。君は僕と結婚したんだし。それに、ドレスは今着てくれている」


「・・・・・」


 ああ、違う。

 本当に伝えたいことは、こういうことじゃない。

 どう伝えたらいいんだろう?

 どうやってジョルジオ様の気持ちを聞いたらいいんだろう?


「・・・・・私はどうしたら」


 思わず声に出ていました。

 ジョルジオ様は労わるように私を見ました。右手がフワっと上がりかけて戻るのがわかりました。


「ソフィア、慌てなくて大丈夫だ。今後のことは心配しなくていい」


「今後のこと・・・?あ・・・そうじゃなくて・・いえ、そうなんですけど・・・・・。あの時の言葉・・・・・」



 ────『僕が君の夫になるのはどうだろう?』

 あれは、本当のプロポーズだったのではないのですか?



 私は、膝の上で手を落ちつきなく握ったり開いたりしていました。10分ぐらい待っても、なかなか言葉が出てこない私を見て、ジョルジオ様は、ゆっくりと立ち上がって言いました。


「無理して話さなくていい。ソフィアが良いと思うタイミングが来たら話してくれ。いつでも聞くから」


「待って!違うんです!そうじゃないんです!」


 私は思わず、立ってジョルジオ様に抱き着いていました。


「・・・ソフィア!?」


 私はハッとして体を離すと、ジョルジオ様を見上げました。顔に血が上ってきます。

 でも、言うなら今です。


「私、ジョルジオ様と結婚できて本当に幸せで・・・・その・・・だから妻になりたくて・・・いえ、今も妻なんですけど・・・・・その・・・本当の・・だから・・・・・・ご無理なら・・いいんですけど・・」


 ジョルジオ様は、私の目を覗き込むように見つめました。

 全身から汗が出てきます。

 

「ジョルジオ様・・・私は・・・私は・・あの・・・・今さら遅すぎますか・・・?」


「・・・!!」


 ジョルジオ様が、ハッとした顔をしました。 

 それから真顔になると、きっぱりと言いました。


「いや、そんなことはない、決して」


 ジョルジオ様の目の奥に、普段とは違う強い光りが灯りました。

 

「───ソフィア、任せておけ」







 意識が途切れるころには、空が白み始めていました。

 ウトウトする中、ジョルジオ様の大きな手で、髪を撫でられていたような気がします。

 

 

 この日以降、私たちは夫婦の寝室で一緒に休むようになりました。


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