第十四部:思いを重ねて
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ジョルジオは自分を責めていた。
ソフィアのためにと思って、《ソフラン》開店の話題を社交の場で出したことを。
まさか貴族が集まるバーでその話題が上がり、それをあの男が耳にするとは思っていなかったのだ。
毎夜、ソフィアの寝顔を見に行く。そのたびに心が痛み、激しい怒りが湧いてくる。
どんなに痛くて怖かったことだろう。つい青あざを指でなぞってしまう。
傷やアザが消えてくると、今度はソフィアの寝顔を確認するようになる。
よし、今日も穏やかな寝顔をしている。よしよし、安心できているな。
いつしか、寝顔の確認はジョルジオの日課になっていた。
*
私が夫婦の寝室のベッドで回復を待つ間、ジョルジオ様は隣の別室で過ごしていました。時々様子を見に来て話をすると、また執務に戻るということを繰り返していました。
この生活の中で、私は途中からあることに気がつきました。
ジョルジオ様は、普段は決して理由なく私に触れることはありません。最初は、痛み止めの影響で夢うつつだったのですが、ジョルジオ様は私が寝ているときに、青くなった頬をそっと撫でていました。私の顔の青あざが消えると、今度は”よしよし”というように頭を撫でていきます。私は寝たふりを続けていますが、だんだん不安になってきました。
もしかして娘のように思われている・・・・・?
もう今さら無理なの・・・・・?
あれから三週間が経ち、もうすっかり私の体のアザは消えていました。ブランナー先生の診察も終わり、後は私の気持ち次第になりました。そろそろ夫婦の寝室ではなく、自分の寝室に戻っても良い頃です。ジョルジオ様も隣の別室での執務より、本来の執務室でのお仕事の方がやりやすいはずです。でも誰も、元に戻そうとは言いません。
私は、誰かに言われてしまう前に言わなくてはと決心しました。
シェリルに身を清めてもらい、新しい部屋着で、夜いつものように頭を撫でに来るジョルジオ様を待ちました。
部屋に入って来たジョルジオ様は、私がベッドの淵に腰かけているのを見て驚いたようです。
「どうした?今日は眠れないのかい?」
「ジョルジオ様を待っていたんです。・・・その・・少しお話したくて・・」
「嬉しいこと言うね。何だろう?」
私はいざとなると、どう切り出して良いのか、言葉が出てきません。ジョルジオ様は、ベッドサイドの椅子に腰かけて、静かに待ってくれています。
「・・・私の部屋のドレス・・・・最初から私のために用意してくださったものだったのですね・・」
やっと、絞り出せた言葉は、肝心のことから逸れた話でした。それでもジョルジオ様は、優しく返してくれます。
「ハハッ、わかってしまったのか。うん、君が嫁いでくると決まったときに用意したものなんだ。聞いていたサイズより、大分痩せていたから大き過ぎたみたいだね」
「あんなにたくさん・・・私を迎え入れる準備をしてくださっていたのに・・・それなのに私は、なんて失礼なことを・・・」
「ソフィア? それは、もういいんじゃないかな。君は僕と結婚したんだし。それに、ドレスは今着てくれている」
「・・・・・」
ああ、違う。
本当に伝えたいことは、こういうことじゃない。
どう伝えたらいいんだろう?
どうやってジョルジオ様の気持ちを聞いたらいいんだろう?
「・・・・・私はどうしたら」
思わず声に出ていました。
ジョルジオ様は労わるように私を見ました。右手がフワっと上がりかけて戻るのがわかりました。
「ソフィア、慌てなくて大丈夫だ。今後のことは心配しなくていい」
「今後のこと・・・?あ・・・そうじゃなくて・・いえ、そうなんですけど・・・・・。あの時の言葉・・・・・」
────『僕が君の夫になるのはどうだろう?』
あれは、本当のプロポーズだったのではないのですか?
私は、膝の上で手を落ちつきなく握ったり開いたりしていました。10分ぐらい待っても、なかなか言葉が出てこない私を見て、ジョルジオ様は、ゆっくりと立ち上がって言いました。
「無理して話さなくていい。ソフィアが良いと思うタイミングが来たら話してくれ。いつでも聞くから」
「待って!違うんです!そうじゃないんです!」
私は思わず、立ってジョルジオ様に抱き着いていました。
「・・・ソフィア!?」
私はハッとして体を離すと、ジョルジオ様を見上げました。顔に血が上ってきます。
でも、言うなら今です。
「私、ジョルジオ様と結婚できて本当に幸せで・・・・その・・・だから妻になりたくて・・・いえ、今も妻なんですけど・・・・・その・・・本当の・・だから・・・・・・ご無理なら・・いいんですけど・・」
ジョルジオ様は、私の目を覗き込むように見つめました。
全身から汗が出てきます。
「ジョルジオ様・・・私は・・・私は・・あの・・・・今さら遅すぎますか・・・?」
「・・・!!」
ジョルジオ様が、ハッとした顔をしました。
それから真顔になると、きっぱりと言いました。
「いや、そんなことはない、決して」
ジョルジオ様の目の奥に、普段とは違う強い光りが灯りました。
「───ソフィア、任せておけ」
意識が途切れるころには、空が白み始めていました。
ウトウトする中、ジョルジオ様の大きな手で、髪を撫でられていたような気がします。
この日以降、私たちは夫婦の寝室で一緒に休むようになりました。




