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十年前、俺以外の英雄は全員死んだ。〜無能な生存者が、嘘をついてまで「英雄」を継がなければならなかった理由〜  作者: 蒼野湊


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第8話「英雄の、隠れた弱点」

 「英雄らしい行動」の計画は、半分成功して半分失敗した。


 街の広場で魔物の目撃情報を公開し、英雄が調査に乗り出すという話を流した。街の衛兵長に協力してもらって、英雄の「活動」を少し大げさに伝えてもらう。そうすれば間諜は確認のために動くはずだった。


 間諜は確かに動いた。ロウェンが南側の路地でそれらしい人物を見かけた。しかし見失った。


「すみません、路地が多すぎて」とロウェンが言った。


「構いません。もう一手打ちましょう」とアルトが言った。


 第二の手は「英雄が実際に戦う場面を見せる」ことだった。


 問題はそこだった。


 街の外れで、先日の小屋に関係していた魔物が一匹残っていることがわかった。中型の魔物で、一匹なら自警団でも対処できる程度だ。しかしアルトはそこに「英雄として」向かった。


 剣を左手で抜いた。右手はポケットの中だ。

 指先が指輪に嵌められた石に触れる。冷たいはずの石が、今はなぜか、鼓動のような微かな熱を帯びている気がした。


 魔物が向かってきた。


 アルトは距離を取った。間合いを計った。英雄の戦い方を知っている人間が見れば、一目でわかるだろう。英雄の動きではない。普通の、どこにでもいる剣士の動きだ。足さばきも、剣の持ち方も、力の使い方も、何一つ英雄らしくない。


 それでもアルトは、魔物を仕留めた。


 時間がかかったが、仕留めた。


 勝ったことは勝った。


「英雄様」


 後ろから、ロウェンの声がした。


 振り返ると、ロウェンとセラが立っていた。二人とも、アルトの戦い方を最初から最後まで見ていた。


 アルトは剣を収めた。何も言わなかった。


 ロウェンも何も言わなかった。


 セラも何も言わなかった。


 その沈黙の種類を、アルトはよくわかっていた。「普通じゃない」という沈黙ではなかった。何か考えているか、確認しているか、そういう沈黙だった。


「うまくいかなかったですね」とアルトが言った。


「そうですね」とロウェンが言った。


「でも仕留めましたよ」とセラが言った。


「まあ」


 アルトは広場の方へ向かいながら、心の中で整理した。ロウェンとセラが戦い方を見た。二人が何を感じたかはわからないが、「英雄の戦い方ではない」と気づいた可能性は高い。


 問題は、そこからどう動くかだ。


 暗くなりかけた街の角で、老人とすれ違った。


 背が低く、白い頭巾をかぶった老人だった。横を通り過ぎた時、アルトの方を一度見た。


「嘘くさい英雄だ」


 老人がそう言った。小声だったが、はっきり聞こえた。


 アルトは止まった。振り返った。老人はもう歩いていた。


「待ってください」


「急いでいます」


「一言だけ。今なんと言いましたか」


 老人が立ち止まった。こちらを向いた。顔にしわが刻まれていて、目だけが妙に鋭かった。


「嘘くさいと言いました」


「なぜそう思うんですか」


「英雄の戦い方を知っているので」


 アルトは老人を見た。老人もアルトを見た。


「あなたは」


「通りすがりです」


「それだけですか」


 老人がアルトの右手、ポケットの外側を見た。指輪に嵌められた石の重みが、布の上からわずかにわかる。


「それ」と老人が言った。「知ってますよ。十年前から、一秒も狂わず時を刻み続けている石だ」


 アルトの喉が動いた。


「……何を知っているんですか」


「今日じゃない」


 老人は歩き出した。


「また会います。その時に話しましょう」


 暗い路地に、老人の背中が消えた。


 アルトはその場に立ち止まって、右手をポケットに入れた。指輪に嵌められた石を握った。

 やはり、熱い。

 まるで、今この瞬間の出来事を、誰かがどこかで書き残しているかのような──奇妙な感触だった。


 三人のうちの二人が戦い方を見た。老人が石を「知っている」と言った。


 一日で、少し多すぎる。

8話、ありがとうございます。


老人が出てきましたが、何者なのかはもう少し後になります。

「十年前から時を刻んでいる石」という言葉。この石がシリーズすべての鍵となります。


次話で、この老人がさらに深い謎を提示します。

続きをよろしくお願いします。

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