第6話「英雄の、最初のチーム戦」
次の依頼は、小さな街の衛兵長から来た。
街の周囲に現れる魔物の調査だという。討伐まで依頼されているが、まず状況を確認してほしいとのことだった。報酬も悪くない。アルトは引き受けた。
「調査ですか、楽しそうです」とロウェンが言った。
「楽しいかどうかはわかりません」とアルトが言った。
「どちらでもいいです」とセラが言った。
三人の意見が三種類あったが、方向性は一致していたので問題なかった。
街の外を歩いた。衛兵長から聞いた情報では、魔物が現れるのは南の草原と西の森の二箇所。目撃されているのはどちらも中型の魔物で、パターンが違う。南は単独で現れ、西は複数で動く。
「南と西で種類が違うんですかね」とロウェンが言った。
「それか、同じ種類でも行動パターンが違う」とアルトが言った。「先に南を見ましょう」
南の草原に向かった。魔物の痕跡を探すのはアルトとロウェンで、セラは少し離れた位置で周囲を警戒した。この分担は話し合ったわけではなく、自然にそうなった。
「セラさん、剣がうまいですよね」
草を掻き分けながら、ロウェンが言った。
「普通です」
「いや、傭兵の目から見ると相当ですよ。動き方が違う。どこで習ったんですか」
「昔に」
「じゃあ軍の出身?」
「違います」
「私塾か何か?」
「そういう話をする必要がありますか」
「必要はないですが、仲間の実力は把握しておきたくて」
「仲間とは決めていません」
「同行者でも同じです」
セラは何も言わなかった。ロウェンは「まあそのうち」と呟いて、草の中を見た。
アルトは少し離れた場所で、足跡を見つけていた。大型の魔物の足跡だが、奇妙なことに足跡が途中で消えている。土が乾いているわけでも、岩盤があるわけでもない。草地の上で、そのまま痕跡が消えた。
「ロウェン」
「はい」
「この足跡、どう思いますか」
ロウェンが近づいてきて、足跡を見た。少しの間黙った。
「途中で消えてます」
「そうです」
「浮いたんですか?」
「違うと思います。地面の硬さが変わっていないので、飛び跳ねたわけでもない。でも消えている」
二人が考えていると、セラが近づいてきた。足跡を一瞥して、「踏み消した」と言った。
「え?」とロウェンが言った。
「自分の足跡を、後ろ向きに歩いて消した。こういう消え方をする」
アルトはセラを見た。「どうやってわかるんですか」
「足跡の深さが少し違います。後から踏んだ分、わずかに深い。それと、この草の倒れ方は二方向から踏まれている」
ロウェンが感心したような声を出した。アルトも同意した。
「知能がある」
「ある程度は。でも本当に問題なのはそこじゃないと思います」
セラが立ち上がって、少し南を見た。
「この足跡をつけた魔物が誰かに教えられた、という可能性はありますか」
アルトは黙った。
魔物が自発的に足跡を消す知恵を持つことは、稀にある。しかし誰かに教えられた可能性、というのは──魔族の関与を意味する。
「確かめましょう」
アルトは西の森へ向かう方向を示した。「西の複数の魔物の動きも見てから、判断します」
三人が歩き出した。
自然に、アルトが前、ロウェンが横、セラが後ろという形になった。
前で状況判断、横で護衛、後ろで警戒。
言葉は交わさなかったが、それぞれが役割を持って動いていた。
アルトは前を向きながら、背後の二人の気配を感じた。
一人より、ずっといいと思った。
それと同時に、少し怖いとも思った。
守るものが増えると、嘘の重さが増す。
「英雄様」
ロウェンの声がした。
「なんですか」
「いい仲間ですよ、俺たち」
アルトは少し考えてから「そうですね」と言った。
セラは何も言わなかったが、歩く速度が少しだけ揃った気がした。
6話、ありがとうございます。
3人の動きが少し揃ってきましたが、この調査で見えてきたもの──
「魔族の関与」という可能性が浮上してきました。
7話からは、もう少し大きな話が動き始めます。
続きを楽しみにしていただけると幸いです。




