第5話「英雄の、勘違い仲間」
翌朝、宿場町の食堂で朝食を取っていたら、知らない男が向かいに座ってきた。
大柄な男だった。肩幅が広く、腕も太い。三十前後か。顔には愛嬌があって、そこだけ見れば商人でも通りそうだが、腰に斧を差していた。本職の戦士の座り方をして、にこにこしながらアルトを見ていた。
「英雄様ですよね」
「そうですよ」
「お一人ですか」
「あともう一人いますが」
「ちょうどよかった。私、英雄様の護衛がしたいんですよ」
アルトは朝の粥から顔を上げた。
「護衛?」
「はい。英雄様が旅をしている間、お守りする護衛です」
「英雄には護衛は要らないと思いますが」
「要らないんですか?」
「英雄ですから」
「それは確かに」
男は頷いてから、それでも席を立たなかった。代わりに給仕に声をかけて自分の分の朝食を注文し始めた。当然のように食べ始めた。
「護衛は断りましたよ」とアルトは言った。
「聞こえてませんでした」
聞こえていたと思う。
「お名前は?」
「ロウェンです。ロウェン=ダルク」
「何者ですか」
「傭兵です。最近は仕事が少なくて、腕が鈍りそうで。英雄様のお供なら経験になるかなと」
「断っても来るつもりですか」
「まあ、少しだけ」
正直なやつだと思った。
アルトは粥を食べながら考えた。ロウェンという男、見たところ戦力としては申し分なさそうだ。こちらに害意はなさそうだし、腕力があるのは実際助かる場面がある。問題は、人が増えれば増えるほど嘘の管理が複雑になることだ。
しかし断り続けても来るというなら、傍に置いて見ていた方がいい。
「まあ、好きにしてください」
「よかった!」
ロウェンが声を上げた。隣の卓の旅人が少し驚いた顔をした。
その時、セラが食堂に降りてきた。ロウェンを見て、少し目を細めた。
「誰ですか」
「護衛だそうです」
「……英雄に護衛が要るんですか」
「本人がそう言うので」
セラはロウェンを一瞥して、向かいに座った。ロウェンはセラを見て「お仲間ですか」と聞いた。セラは「同行者です」と答えた。
「護衛と同行者、何が違うんですか」と言ったのはロウェンだった。
「気持ちが違います」と言ったのはセラだった。
二人の間に短い沈黙が生まれた。アルトは粥を飲み込んだ。
食事が終わった後、三人で街道を歩いた。ロウェンはよく喋った。出身地の話、傭兵時代の話、おすすめの宿と食い物の話。セラは返事をしなかったが、ロウェンは気にしなかった。アルトは適当に相槌を打ちながら、前を歩いた。
賑やかだった。一人の時より、ずっと。
「英雄様、一ついいですか」
しばらく歩いた後、ロウェンが口調を少し変えて言った。
「どうぞ」
「本当に英雄なんですか?」
アルトは歩く速度を変えなかった。
「そうですよ」
「そうですか」
ロウェンはそれで引き下がった。
ただ、少し間を置いてから「ははっ」と笑った。その笑い方が少し変だった。納得した笑いではなかった。何かを確認した時の笑い方に似ていた。
アルトはそれを聞いて、ほんの少し首の後ろが冷えるような感覚があった。
勘のいいやつかもしれない。
あるいは──何か知っているか。
「ロウェンさん、その笑いは何ですか」
「いえ、なんでも」
「なんでもなくはなかったですね」
「英雄様って、真剣な顔をすると少し怖いですね」
「普通の顔ですよ」
「そうですか」
ロウェンはまた笑った。今度は屈託のない笑い方だった。
セラが横を歩きながら、ロウェンの方を少し見た。二人の目が合った。セラがすぐに前を向いた。
三人の足音が街道に続いた。
5話、ありがとうございます。
ロウェン、なかなかよくわからない人が来ましたね。
彼のあの「笑い」の意味が気になった方──正解です、少し気にしておいてください。
明日は3人での初めての仕事が始まります。
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