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十年前、俺以外の英雄は全員死んだ。〜無能な生存者が、嘘をついてまで「英雄」を継がなければならなかった理由〜  作者: 蒼野湊


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第2話「英雄の、困った依頼」

 リンデル村に着いたのは、夜半を少し過ぎた頃だった。


 カイが言っていた通りの村だった。丘の中腹に張り付くように家々が並んで、村の入り口に木柵が立っている。そのほとんどが松明で照らされていた。魔物が出るとわかっていれば、誰も真っ暗にはしておけない。


「父さん!」


 カイが門番に声をかけた。中年の男が松明を持って出てきた。右腕に包帯が巻いてある。


「帰ったか。英雄様は……」


 男の目がアルトを見た。


 アルトは手を軽く上げた。「お邪魔します」


 男はしばらくの間、アルトを見ていた。英雄をどんな人物だと思っていたのかは顔に出ていた。おそらく、もう少し威厳のある見た目を想像していたのだろう。


「……本当に、英雄様ですか」


「そうですよ」とアルトは答えた。慣れた返答だった。「で、詳しく話を聞かせてください」


 村の自警団長の家で、話を聞いた。


 話の内容はカイの報告とほぼ同じだったが、細部が少し違った。魔物の種類は「クロウリー」という夜行性の小型魔物で、単体では大したことはないが群れを成すと厄介だ。問題は、三日前から現れている場所が毎晩変わること。村の北側に現れたと思えば、翌日は東側から来る。パターンが読めない。


「群れが複数いるんじゃないですか」


 アルトが言うと、自警団長が首を振った。


「それが、足跡の数は同じで。同じ群れが移動しているようなんです。でも、なぜ毎晩場所が変わるのか」


「何かを探している」


「探している?」


「村の中の何かを」


 自警団長が黙った。カイが不思議そうな顔でアルトを見た。アルトは地図を受け取って、魔物が現れた場所を確認した。三日分の記録がある。北・東・南と、一日ごとに動いている。


「明日は西側ですね」


「どうしてわかるんですか?」


「村を一周しているんです。何かの匂いを追って、時計回りに。──村の中心に何があります?」


「えっと……村の祠が」


「祠に何か置いてあるものはありますか」


「ご神体の……古い壺が。百年くらい前から村に伝わる──」


「それです」


 アルトは地図を卓に置いた。「クロウリーは魔力のある物に引き寄せられます。古い壺に何か魔力が宿っているなら、それが原因です。壺を一晩だけ村の外に出しておけば、群れは外に誘導できます。あとは自警団の方々で」


 部屋が静かになった。


 自警団長が目を瞬かせた。隣に座っていた副長も、同じ顔をしていた。


「……それだけですか?」


「それだけです」


「英雄様が直接、魔物を退治してくださるのでは」


 アルトは少し考えた。


「退治した方がいいですか?」


「いや、あの……でも、もっとこう、英雄様らしく──」


「戦わずに解決した方が、誰も怪我しなくて済みます」


 また沈黙があった。アルトは気にしないことにした。人というのは英雄に「見た目のわかりやすい活躍」を期待する傾向がある。それはよくわかる。しかし派手に戦えば怪我人が出るかもしれないし、そもそも戦えば嘘がバレるかもしれない。


 どちらにせよ、戦いたくなかった。


「……試してみます」


 自警団長がそう言った。納得したとは言い難い表情だったが、それでいい。アルトは「では今夜は休ませてもらいます」と言って、立ち上がった。


 出際に、カイがついてきた。


「英雄様」


「なんですか」


「さっきの……本当に、あれだけで終わるんですか?」


「おそらく」


 カイは少し考えてから言った。


「英雄って、もっと剣とかで戦うものだと思ってました」


「戦うこともありますよ」


「でも今夜は?」


「今夜は戦わなくて済みそうです」


 カイは「そうですか」と言った。複雑な顔をしていた。アルトはその顔を見て、少し申し訳ないような気持ちになった。


 かっこいい英雄を期待していたんだろう、と思う。


 申し訳ないが、それはちょっと無理だ。


「カイくん、ひとつ聞いていいですか」


「はい」


「英雄に頼みに来た時、怖くなかったですか。こんな夜に、知らない街まで一人で」


 カイはしばらく黙ってから、「怖かったですよ」と言った。「でも他に方法がなかったので」


「そうですか」


 アルトはそれを聞いて、何か言おうとして、やめた。


 外に出た。夜風が冷たかった。村の松明が揺れていた。遠くで何かの鳴き声がした。夜行性の魔物のものかもしれないし、ただの夜の音かもしれない。


 アルトは右手をポケットに入れた。いつものように指輪を指でなぞる。


 怖かったけど、他に方法がなかった。


 ─────十年前の自分も、そういう顔をしていたかもしれない。


「英雄様」


 後ろからカイの声がした。


「寝床、用意してあるそうです」


「ありがとう」


 アルトは振り返った。少年の顔に、少しだけ疑問の色が残っていた。「英雄様って、普通の人みたいですね」という言葉を飲み込んでいる顔だ。


 普通の人間だよ。


 とは言わなかった。


2話、ありがとうございます。


アルトの「解決策」、あれでいいのかと思った方もいるかもしれません。

でも彼はずっと、こんな感じで十年生き延びてきたんだと思います。


次話では、この解決策にちょっとした問題が起きます。

よろしければ引き続きお付き合いください。

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