表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十年前、俺以外の英雄は全員死んだ。〜無能な生存者が、嘘をついてまで「英雄」を継がなければならなかった理由〜  作者: 蒼野湊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/18

第17話「英雄の、魔族の前哨」

 エリンは三日後に現れた。


 宿の食堂で朝食を取っていたら、向かいに座ってきた。いつのまに王都に来たのか、どこに泊まっているのか、何も言わずに「呼ばれた気がした」とだけ言った。


「気がした、というのは」とロウェンが言った。


「そういうものです」とエリンが言った。


 以来、エリンは毎朝この席にいた。


 エリンが持ってきた情報は、ソルドの話より具体的だった。国境に展開している魔族の部隊は前哨部隊で、本隊はまだ動いていない。前哨部隊の目的は「偵察」ではなく「試し」だという。何かを、試している。


「何を試しているんですか」とアルトが聞いた。


「英雄が本物かどうかを」とエリンが答えた。


 テーブルが静かになった。


「どういう意味ですか」


「前哨部隊は戦力ではなく、反応を見るための部隊です。英雄が出てきたら、その戦い方を記録する。記録したものをヴァルクに送る。ヴァルクが判断する」


「何を判断するんですか」


「本物かどうかを」


 アルトはエリンを見た。


「ヴァルクは、本物の英雄の戦い方を知っているんですか」


「知っています。十年前の戦場でヴァルクは英雄と直接対峙しました。生き残った数少ない魔族の将軍です。英雄の動きを身体で覚えている」


 それは、予想していた最悪に近い情報だった。


 アルトの戦い方は英雄のものではない。普通の剣士の動き方だ。ヴァルクが見れば、一目でわかる。


「どうするんですか」とセラが言った。


「前哨部隊を叩く前に」とアルトが言った。「ヴァルクの偵察員を先に潰す必要があります。観察者がいなければ、記録は届かない」


「偵察員の場所がわかりますか」


「エリン、わかりますか」


「あたりはつけられます」


「お願いします」


 その夜から動いた。


 エリンの情報を元に、王都近郊の宿に潜む魔族の偵察員を三人で追った。一人はロウェンが捕捉した。一人はセラが対処した。三人目がアルトの担当になった。


 路地裏での対峙だった。


 相手は魔族の末端兵だったが、それでもアルトより早かった。距離を詰めてくる速度が違う。アルトは左手で剣を抜いた。右手はポケットに入れたまま。


 三回、攻撃を受けた。二回はなんとかかわした。三回目は脇腹に当たった。深くはなかったが、痛かった。


 それでも足を止めなかった。


 路地の突き当たりに追い詰めた。剣を向けた。


「動くな」


 相手が止まった。


「情報を聞かせてもらえますか」


「……英雄が自分で追ってくるとは思わなかった」


「驚きましたか」


「驚いた。でも、本物かどうかはまだわからない」


「今夜はそれだけでいいです」とアルトは言った。「逃げていいです。ただし、ヴァルクに伝えてほしい。英雄が、あなたの偵察員を三人止めたと」


 相手が少し表情を変えた。


「それを言えと?」


「言えば、ヴァルクが判断します。本物かどうか、直接確かめに来るか、来ないかを」


「罠ですか」


「交渉の入口です。ヴァルクは賢い人間だと聞いています。話が通じるかどうか、確かめたい」


 偵察員が少しの間、アルトを見た。


 それから走り去った。


 アルトは壁に背を当てて、脇腹を押さえた。痛かった。


 ロウェンが路地の入り口に来て「大丈夫ですか」と言った。


「大丈夫です」


「嘘ですよね」


「まあ」


 セラが横に来た。一瞥してから「手当します」と言った。


「ありがとう」


 アルトは壁から離れた。夜風が冷たかった。


 ヴァルクが来るかどうかはわからない。しかし何もしないより、こちらから動いた方がいい。それがアルトの判断だった。


 根拠があるかといえば、ないのだが。

第17話、ありがとうございます。


アルトが怪我をしました。珍しいですよね。

でも逃がした理由は、次話でわかります。


引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ