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十年前、俺以外の英雄は全員死んだ。〜無能な生存者が、嘘をついてまで「英雄」を継がなければならなかった理由〜  作者: 蒼野湊


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第18話「英雄の、無力な夜」

 手当の後、アルトは部屋で横になった。


 脇腹の傷は浅かった。セラが薬を塗って布で巻いてくれた。手慣れた動きだった。傷の処置が上手かった。


「慣れていますか、手当が」


「少し」


「自分の傷を自分で処置したことが多い人の動き方でした」


 セラが答えなかった。


 アルトは天井を見た。


 今夜は三件のうち三件、一応対処した。偵察員を捕捉・排除し、最後の一人には情報を持たせて帰した。計画通りに動いた。


 しかし。


 本当に計画通りだったか、と自分に問うと、答えに詰まった。


 最後の偵察員との戦い、あれは危なかった。単純な戦力差で負けていた。怪我したのは事実だ。相手が末端の兵士でなければ、今頃どうなっていたかわからない。


 英雄として戦う、ということの限界が少し見えた夜だった。


 ロウェンが入ってきた。


「眠れますか」


「眠れません」


「ですよね」


 椅子を引いて座った。


「さっきの話、考えていたんですが」


「何の話ですか」


「偵察員を逃がした理由。ヴァルクを呼び寄せようとした、ということ」


「そうです」


「なぜヴァルクを呼びたいんですか。危ないじゃないですか」


 アルトは少し間を置いた。


「ソルドが記録の照合をすると言いました。王宮の書類と英雄の今を照らし合わせれば、いずれバレます。時間の問題です。ソルドに先に動かれたら、状況が複雑になる。だから──」


「先手を打つ」


「ヴァルクに直接会えれば、情報を持っている可能性がある。本物の英雄を知っている人間が、アルトを見てどう判断するか。それを確かめたい。ヴァルクが『本物ではない』と断言すれば、それは脅威だ。しかし話が通じる相手なら、別の方法もあるかもしれない」


「何のためにそこまで」


 アルトは答えなかった。


 ロウェンが「守りたいものがあるからですよね」と言った。


「……そうです」


「それは何ですか」


 アルトはしばらく黙った。


「今一緒にいる人間たちです」とアルトは言った。「あなたも、セラも、エリンも。あと、あの人が守った人々も」


「あの人というのは」


「本物の英雄です」


 ロウェンが少し黙った。


「怪我、ちゃんと治しておいてください」


「はい」


「俺が守りますから。今夜みたいな戦いにならないように」


「大丈夫です、俺は──」


「英雄だからって、無敵じゃないですよね」


 アルトは返事ができなかった。


 ロウェンが「そうでしょう」と言って立ち上がった。


「おやすみなさい」


「……おやすみ」


 ロウェンが出ていった。


 アルトは天井を見た。脇腹が少し痛かった。


 無敵じゃない。


 知っている。十年前から、ずっと知っている。


 英雄の名前を背負って、英雄の力もなくて、それでも今夜も立っていた。


 なんとかなってきた。でも今夜は、少しだけ、なんとかならないかもしれないと思った。


 それでも。


 朝になれば、また動く。

18話、ありがとうございます。


アルトが珍しく落ちた話でした。

でもロウェンの「俺が守りますから」という一言、覚えておいてください。


19話からは少し外が動き始めます。

引き続きよろしくお願いします。

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