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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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三十五話 松葉祭 後編

体育館の舞台に向かって歩き出す俺たち。


俺は指揮者なので一人だが、俺の横にクラスメイトが三列に並び、一緒に歩き出す。


舞台上には低い段が並べられており、二列目、三列目の生徒は段の上に上がった。


俺は舞台の最前列中央で止まり、観客席の方を向いた。緊張して胸がばくばく音をたてている。


「プログラム九番、一年二組の合唱です」


進行係のアナウンスとともに幕が開く。


目の前に観客席が広がり、俺の緊張は最高潮に達した。


観客をなるべく見ないようにしようと思ったが、観客席の端の方で、女子生徒に囲まれた水上杏子が膝を立ててこっちを見ているのに気づいた。両手は左右の女子生徒の肩に回している。


態度が悪いやつだな。そう考えると、少し落ち着いてきた。


麗子がピアノの前に座り、あいさつの和音を鳴らした。それに合わせてお辞儀をする。


観客席からまばらに拍手が起こった。水上杏子は膝を立てたまま、にやにやしていた。


俺は麗子の方を向くと、指揮棒を振り上げた。


俺の指揮とともに麗子が「もろびとこぞりて」の前奏を弾き始める。そして歌が始まるタイミングで、並んでいるクラスメイトたちの方を向いた。


みんな顔が赤い。頼むから声を出してくれよ。・・・みんなの心配をしているうちに観客のことは気にならなくなってきた。


指揮者は後を向くから、かえって良かったのかもしれない。


「もろびとこぞりて・・・」歌い出すクラスメイトたち。だが、いつもより声が小さい。


これではまずいと思った俺は、次の「久しく待ちにし」の歌詞のところで、声を張って一緒に歌い出した。俺の歌声につられたのか、みんなもいつもの声量に戻ってきた。


一曲目の「もろびとこぞりて」を歌い終わると、俺はまた麗子の方を向いた。麗子は落ち着いているようだ。頼りになる。


俺が指揮を始めると、「いつくしみ深き」の前奏が始まった。歌い出しもいつも通りで、今度も何とか乗り切った。


そして最後の曲の「アメイジング・グレイス」だ。この曲は最初アカペラで歌う。伴奏がないので、歌いにくいだろう。特に歌を三パートに分けていて、最初は十数人の少ない人数で歌い始めるから、なおさらだ。


もちろん、これまでピアノの音に合わせて指揮棒を振っていた俺にとっても正念場だ。


よし、これも最初は歌おう。自分の歌声に指揮を合わせるんだ!


そう決心して、俺はクラスメイトの中央に向かって指揮棒を振り上げると、


「アァメイージングレース、ハゥスイーザサウン・・・」と、指揮と同時に歌い出した。


英語の歌詞だ。この後は覚えていない。


クラスメイトは俺の歌声につられるように声を出した。


次は左側の十数人だ。そちらに指揮棒を向けると、最初の十数人の声に重なって、声量がさらに大きくなった。


そして右側の十数人にも指揮棒を向ける。さらに歌声が重なり、何とか練習のときのように歌うことができた。


一節を歌い終わると、ここで麗子の方に向いた。ピアノの前奏が始まる。そして伴奏に歌声が重なる・・・。


よし、十分な出来だ、と俺は思った。


観客の評価なんてどうでもいい。きちんと歌い終わることを目指す。・・・そして歌い終わった。


俺は観客の方を向き、ピアノの伴奏に合わせておじぎをした。ぱちぱちとそれなりの拍手が起こった。


水上杏子の方に目をやると、彼女もこっちを見つめて拍手をしていた。


幕が閉まると、俺のすぐ後にいた恵子が抱きついてきた。


「やったね、みーちゃん!」


「最初は声が出なかったけど、みーちゃんが一緒に歌ってくれたおかげで歌えるようになったよ!」


「藤野さん、ありがとう」他のクラスメイトも感謝の言葉をかけてくれた。


「美知子を指揮者に推薦して、正解だったよ」河野さんが背中をたたいた。


「私なんかより、よっぽど度胸があるね」


「いや、それほどでも」照れる俺。


俺たちが舞台の袖に引き上げていくと、ピアノの傍らで麗子が待っていた。


「素敵でしたわ、美知子さん!」


「こちらこそ、麗子さんの落ち着いた演奏で助かったわ」


自画自賛に近いかもしれないが、俺たちは互いにほめ合いながらカーディガンを羽織った。


しばらくして観客席に戻り、ほっとしながら床に座った。


今日の仕事は終わった。・・・そんな気がして、心地よい脱力感に包まれた。


その後は他のクラスの演し物を見た。合唱、合奏、演劇などがあったが、合唱でうちのクラスと曲目が同じところはなかったのでひと安心だ。


三年のクラスで「ロミオとジュリエット」の演劇をしたところがあった。うちのクラスが演劇をしていたら、三つのクラスの演し物が重なるところだった。メジャーな演し物は、選ばない方がいい。


こちらの「ロミオとジュリエット」は、時間は短縮してあるものの割とまともな内容だった。しかし、二年三組のときほど熱狂的な反応は起こらなかった。


クラスの演し物がひととおり終わると、最後は合唱部が舞台に上がった。合唱部もあったんだ。


まず、校歌を歌い、そして「遠き山に日は落ちて(家路)」を合唱した。体育祭の終わりにもかかっていた曲だ。いい曲だけど、もう終わりという感じがして、切なくなる。




その後、俺たちは教室に引き上げた。


展示の撤収をする。俺たちは廊下にかかっていたカーテンを外すと、縫い付けていた糸を切り、ハンカチをはずしていった。


そのとき、誰かが教室に入ってきた。一部の生徒が「きゃーっ」と歓声を上げた。何事かと振り返ってみたら、水上杏子が入口に立っていた。


「二年の水上だけど、藤野さんって子、いる?」


「ふ、ふじのさあ〜ん」近くにいた女子生徒のうわずった声が響いた。


「不二子ちゃ〜ん」と言ってるように聞こえるぞ、と俺は思ったが、おくびにも出さず、「はい」と答えて呼ばれた方に歩いていった。


「私が藤野ですが」


「君が藤野さんか。さっき合唱で指揮をしてた子だね。なかなか良かったよ」


「そうですか、どうも」


近くで見ると、水上先輩は確かにボーイッシュな美少女だが、特に興味はわかなかった。


「僕は二年の水上杏子みなかみきょうこって言うんだ」


自分のことを「僕」と呼ぶのか。僕っですか。


「お名前は存じ上げています」・・・さっき聞いたばかりだからね。


「そう、知ってくれてたんだ。嬉しいよ」


何だ、こいつ?


「ところで今日はお願いがあってきたんだ」


「お願い?何でしょう?」


「君は願いが叶うミチンガってのを作ってるんだってね」


「はあ・・・」


「最初はミサンガのことかと思ったよ」


水上先輩の言葉に俺は目を見開いた。「ミサンガをご存知ですか?」


「ああ、はやっていたからね」


はやってた?恵子たちは誰も知らなかったぞ。


「君もミサンガを知ってるの?」


「え、ええ。外国かどこかの風習ですよね」


「外国の風習だったんだ。僕が知っているのは、じぇいりー・・・サッカー選手が手首に巻いていたことぐらいかな」


こいつ何て言おうとしたんだ?サッカー?じぇいりー・・・ぐ?


「それで今日君を尋ねた理由なんだけど、僕にもミサンガを作ってほしいってお願いをしに来たんだ」


「私が作っているのは、おそらく先輩が考えているミサンガではなくて、一色の刺繍糸で作ったただの編み紐ブレスレットです。願いが叶う保証はありませんよ」


「そうかい?」


「それに、そんなのでも作ってくれという依頼が多くて、申し訳ありませんが、一か月待ちの条件で引き受けてるんです」


「そのブレスレット、僕のを優先してくれないか」


水上先輩は右手を俺の肩の上に置いた。後方から「きゃー」という悲鳴が聞こえる。俺は無表情で水上先輩の手を肩からはらいのけた。


「そういうわけにもいきませんので・・・」


水上先輩は、おや、という表情を見せたが、すぐに微笑んだ。


「わかったよ。君は律義だね。一か月待ちでいいから作ってくれないか。どうすればいい?」


「それでしたら、お好きな色の刺繍糸を一巻き私に預けてください。クラスの誰かに言付けてもらえば受け取れますから」


「わかったよ、そうする」


「ところで」帰ろうとする水上先輩に俺は声をかけた。


「五月に弱い地震がありましたよね」


「ああ、覚えているよ。びっくりしたね」


「大正時代には関東大震災って大きな地震がありましたけど、それ以降で、震災と呼ばれるような地震ってありましたでしょうか?」


「え?唐突な質問だね。・・・僕の知る限りじゃ、震災と呼ばれるような地震はなかったけど」


「そ、そうですか。・・・わかりました。それじゃあ、刺繍糸をよろしくお願いします」


ミサンガのみならず、Jリーグのことを知っているような口ぶりだったから、俺と同じように未来人の意識を持っているのかと思ったが、平成時代の大災害である阪神・淡路大震災を知らないのか。・・・さっきの「じぇいりー」は多分聞き間違いだろうな。


俺はそう思うと、水上先輩と別れて恵子たちのところに戻っていった。


「みーちゃん、水上先輩と知り合いだったの?」


「いや、口をきいたのは今が初めて。ミサ・・・ミチンガの作製依頼だったよ」


「そうかー。そうだよねー」


何が「そうだよね」なんだろう?


「そうですわ」と麗子も言った。「水上先輩は確かに魅力的な方ですが、美知子さんとは釣り合いませんもの」


どっちの意味だろう?俺の方が不利な気がするが。


一方、委員長は真っ赤な顔をして俺を見つめていた。


「どうしたの、喜子さん?」


「い、いえ。美知子さんが水上先輩と仲睦まじげにお話ししているのを見て、いろいろと想像してしまって・・・」


また、エス小説のことか?そんなんじゃないぞ。


「ああ、自分じゃなくても、美知子さんと水上先輩が唇を寄せ合ったりしたら、興奮して失神しそうだわ」


「そんなこと、絶対しないから!」


「あ、そう言えば、中間試験の成績発表がまもなくよね。・・・楽しみだわ」


うっとりする委員長に、俺は何も言えなかった。


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