第1話:超記憶症候群と、最高の絶望
地球が崩壊して、ポツンと浮かぶことしかできない私。
これは、人生をただ「うん、うん」と頷くだけで進めてしまった場合の、私。
私は昔から、とても優秀だった。小学校の頃から、授業で一度見たものは絶対に忘れなかった。
黒板に書かれた数式も、先生の説明も、教科書の1ページ目から最後まで、全部頭の中に収まっていた。
テストはいつも満点で、先生たちは私を「天才」と呼び、クラスメートたちは少し遠巻きに私を見ていた。友達は少なかったけれど、それでも優しい子たちはいた。
休み時間に一緒に給食を食べながら、
「ネイラちゃんはすごいね。何でも覚えちゃうんだもん」
と言ってくれる子もいた。
私はただ微笑んで「私ってすごいのかも。」と答えていた。
記憶することは、私にとって呼吸をするのと同じくらい簡単で、自然なことだった。
中学校、高校と進むにつれ、その「簡単さ」はさらに加速した。
一度聞いた会話も、感じた感情も、全部記憶に残る。
誰かが泣いている顔も、誰かが笑った瞬間の目も、鮮明に覚えていた。
私はそれを「普通」だと思っていた。
周りが驚くたびに、少し不思議に思うくらいだった。
私の誕生日の前日の夜、たくさんの流星群が降った。
まるで私の誕生日を祝ってくれているかのように。
その時、たった一つだけ、周りとは違う、異色の隕石があった。
それを見た瞬間——
頭の中に、私が死ぬまでの全ての未来が、一気に流れ込んできた。
無数の選択肢。
明日、何を食べるか。誰と話すか。どんな道を選ぶか。
私が17歳から死ぬ瞬間まで、Aを選べばこうなる。
Bを選べばああなる。
全部、完璧に、記憶してしまった。恐ろしい結末も、たくさん記憶した。
「……へえ。これが、私の未来なのか。」
不思議と、恐怖はなかった。
ただ、なんだかすごく面白いな、と思っただけ。
そう思った直後、激しい痛みが、脳の中心を突き刺した。
私はベッドから転げ落ちるようにして床に倒れ、そのまま意識を失った。
どれくらい時間が経っただろう。
目が覚めた時、私は床の上で体を丸めていた。
頭が、おかしいほど痛かった。
痛みだけじゃない。
生きることを後悔するほどの、底なしの絶望が胸を締めつける。
同時に、もう死んでしまってもいいと思えるほどの、甘い幸福が体を溶かしていく。
そして、それら全てを飲み込むような、口すら動かせないほどの緊張が、脳内を渦巻いていた。
「あ……」声が出ない。
指一本、動かせない。
私はただ、床の上で震えながら、
頭の中に流れ続ける無数の未来を、ただ受け止めていた。
泣きたいのに、涙も出ない。
笑いたいのに、唇が動かない。
全ての感情が、同時に、猛烈な勢いで私を襲っていた。
「……へえ」
それでも、私は小さく、かすかに呟いた。
「これは……私の、未来……」
痛みと絶望と幸福と緊張の中で、
私は不思議と、
ただ一つだけ、はっきりと思った。
これは、
きっと、
とても、
面白い。




