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「……ありがとうございます」
やっぱり、慰めてくれてたんだ。
少し気恥ずかしいが、秋田の気遣いは嬉しい。宙は最後のチョコを頬張ると、パソコンに向き直った。
マウスを握り、SNSパトロールを再開する。しばらく画面をスクロールしていると、ある投稿に貼り付けられた動画が目に留まった。
「あ、これ……」
ユアチューブに投稿された動画の切り抜きらしい。手元だけを映した映像には、見覚えがあった。
滝山俊樹の母が見せてくれた、異失物のような不思議な物を紹介する配信者の動画だ。
あのあと、念のため久瀬と一緒に過去の動画も確認した。怪しい物はいくつかあったものの、映像だけでは異失物と断定できず、運営側に情報開示を求めるだけの材料もない。そのため現在は要観察対象として、ときどき新しい投稿を確認している。
「何か気になる投稿あった?」
自分の席へ戻っていた秋田が、席を立ち、宙のパソコンを覗き込む。
「あ、いえ。例の配信者の切り抜き動画です」
「あー、前に久瀬さんから報告あったやつね」
ノートパソコンを向けると、秋田は画面を眺めながら、腕を組んだ。
「これ、普通に『拾った物です』って言ってくれれば、遺失物等横領の疑いで調べやすいのになあ。『突然人の手を離れた、強い思いの宿った物』なんて、妙に曖昧な言い方してるんだよね」
「わざとなんですかね」
「どうだろ。でもまあ、この投稿数なら、本物の異失物じゃない可能性の方が高そうだけど」
「投稿数?」
宙は首を傾げた。秋田が画面を指さす。
「ほら。これ、全部違う物を紹介してるでしょ? 今見られる動画だけでも、二十個くらいあるんじゃない?」
「あ……ほんとだ」
「そんな数の異失物を個人で集めるなんて、さすがに無理があるよ」
「確かに……」
言われてみれば、その通りだ。
異管ですら、異失物の発生をすべて把握できているわけではない。それを一個人が、これだけの数を次々と入手できるとは考え難い。
宙は小さく息をつき、ユアチューブのタブを消した。――そのとき、フロアの固定電話が一斉に鳴り出す。
一拍遅れて、宙は慌てて受話器を掴んだ。
そうだ。今は久瀬がいないんだった。
「はい、東京分駐所です!」
電話は分駐所の徒歩圏内にある交番からだった。『不思議な物を拾った』と言う男性が、交番を訪ねてきたらしい。拾った物については明かしてもらえず、男性は『専門の人を呼んでくれたら話す』と言って聞かないそうだ。
話を聞く限り、男性の言動はかなり不審だが、距離が近いこともあり、宙と秋田はすぐに交番へ向かうことにした。
交番の奥にある部屋に通され、中に入ると、脚を投げ出すようにして椅子に座った青年がこちらを見る。その顔を見るなり、宙は声を上げた。
「え!? なんで……」
「どうも。ひさしぶり」
青年は特に驚いた様子もなく、笑顔で手を振ってくる。特徴的な白い髪に、青い瞳――コタロウの首輪の持ち主を探していたとき、話を聞いた潮晴己だ。肩まである髪を今日は後ろで一つに縛っている。潮の前にある机には松葉杖が立て掛けてあり、足元を見ると、彼の片脚にはまだギプスが巻かれていた。
「三井くん、知り合い?」
「知り合いっていうか……前に、別の異失物の件で話を聞いた人です」
どう説明したものか迷っていると、潮は机に頬杖をつき、楽しそうに宙を見上げてくる。
「あれ、今日はあの怖い顔したお兄さんは一緒じゃないんだ?」
「怖い顔……」
たぶん、いや絶対に久瀬のことだろう。
否定するのも面倒で、「まあ、はい」と曖昧に頷く。秋田は興味深そうに宙と潮を見比べながら、椅子に座った。宙も秋田の隣――潮の正面の席に腰を下ろす。
「では……さっそくですが、あなたが拾ったという『不思議な物』について、お伺いしてもいいですか?」
秋田が仕事用の口調に切り替えて尋ねる。潮は「もちろん」と頷いた。
「前に、拾得物はちゃんと届けるようにって言われたからね」
ふふん、と得意気に笑うと、潮はポケットに手を遣り、青いタオルハンカチを取り出した。
「はい。今日持ってきたのは『握ると声が聞こえる鍵』でーす」
そう言って、ハンカチを開く。そこには銀色の鍵があった。一般的な住宅用の鍵に見える。
秋田は前のめりになって、鍵を観察しているが、その横で宙は一人首を傾げていた。
今の声、どこかで聞いたことあるような……。
考える宙の脳裏に、ふと声が蘇った。
『今回紹介するのは、〈誰も描いてないのに絵が増えていく自由帳〉でーす』
怪しげな音楽をバックに紹介していた、楽しそうな声。
「ああっ!?」
「わっ! 何!?」
突然、机を叩いて立ち上がった宙を、秋田がビクッと肩を揺らして見上げる。宙は身を乗り出し、秋田同様、目を丸くしている潮に顔を寄せた。
「潮さん、動画配信してません!?」
潮はぽかんとした表情で、一度だけ瞬きをする。
「してるけど」
「やっぱり!」
滝山俊樹の母が教えてくれた配信者――あれは、潮だったのだ。
「異失――じゃなくて、不思議な物を紹介してる動画ですよね?」
「そうそう。見てくれてたなんて、嬉しいよ」
潮はにこにこと笑顔になって頷く。あまりにもあっさり認められ、宙は逆に言葉に詰まった。
「え、いや……そんな普通に認めるんですか?」
「別に、隠してないし」
潮は不思議そうに首を傾げる。




