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 休日の醍醐味は、翌日のことを気にせず夜更かしできることだと宙は考えている。漫画を読む日もあれば、動画を見て過ごす日もある。昨夜は友達と通話しながらのゲームが白熱し、明け方まで起きていた。

 窓の外が白んできてから通話を切ってベッドへダイブし、昼過ぎになって、ようやく目が覚める。

 のそのそと部屋を出てリビングに入ると、久瀬は座卓の前に座り、静かに本を読んでいた。

「おはようございまーす」

「どこがおはようだ。もう一時になるぞ」

 久瀬が呆れた視線を寄越してくる。宙は笑って誤魔化そうとして――ふと、違和感に気づいた。

「あ! 俺の座椅子勝手に使ってる!」

 久瀬があぐらをかき、悠々と座っているのは、宙がリサイクルショップで買った座椅子だった。

 指をさされた久瀬は、すっと宙から目を逸らす。

「……使ってなかったんだから、別にいいだろ」

「いいですけどー……久瀬さんも座布団嫌なら、ソファ買いましょうよ」

 座椅子も長時間座っていたら、腰が痛くなってくるのだ。リビングはそれなりに広さがあるし、二人で暮らすなら、絶対にソファがあった方が快適だ。

「座布団が嫌なんて言ってない」

 ……絶対に痩せ我慢だ。

 座椅子から退こうとしない久瀬をジト目で見つつ、宙はキッチンへ向かった。

 午前三時頃にカップラーメンを食べてから、何も口にしていない。空腹を訴える腹を押さえつつ、何を作ろう、と冷蔵庫のドアを開ける。

「あれ……新しいケチャップある!」

 ドアポケットに、見覚えのない新品のケチャップが入っている。どう見ても空になった容器を「まだ残ってる」と主張していた久瀬が、ついに新しいものを買ったらしい。

 感動して振り返ると、久瀬は本から顔も上げずに言った。

「残量が少なくなったら、お前は新しい方を使え」

「え、久瀬さんは?」

「古い方を使い切る」

「そこは譲らないんだ……」

 相変わらずだ。とは言え、久瀬なりに譲歩してくれたのだろう。

 宙は冷蔵庫の中を眺め、卵と冷やご飯、ウィンナーを見つけた。少し逡巡して、リビングを振り返る。

「昼飯、チャーハン作りますけど、久瀬さんも食べます? 俺、チャーハン作るの超得意なんですよ」

 別に譲歩のお礼、というわけではないが。チャーハンなんて、一人分作るのも二人分作るのも、手間は変わらないし。

「それよりリビングの私物を片付けてくれた方が、俺は嬉しい」

 即答だった。せっかく人が歩み寄ろうとしているのに。

 宙はむっとして口を尖らせる。

「でも全部自分の部屋に置くのも不便なんですよ」

 冷蔵庫を閉め、リビングを見回す。

 テーブルの端には宙の充電器。壁際には読みかけの漫画とゲーム機。脱ぎっぱなしのパーカーまで座椅子のそばに転がっている。

 確かに散らかっている。

 けれど、いちいち自室へ取りに戻るのも面倒なのだ。

「『独身寮同居規則』の一項。忘れたのか?」

 久瀬が壁に貼られた紙を指さして言う。

『一、私物は各自の専有スペース内に保管すること。共用スペースに放置された私物は、所有権を放棄したものと見なす。』

 書かれた文字を横目に見て、宙は首をすくめた。

「じゃあ、一項はちょっと変えましょう。リビングに棚置いて、それぞれ私物置くスペース作るのはどうです?」

「俺は置く物なんてない」

「これから増えるかもしれないじゃないですか」

 スマートフォンを取り出し、通販サイトを開く。適当に検索すると、すぐに安い収納棚がいくつも表示された。

「ほら。このカラーボックスとか、千円しないし」

 キッチンを出て、スマートフォンの画面を久瀬の前へ差し出す。

 久瀬はちらりと値段を確認した。

「……検討しておく」

 買わない、とは言わなかった。

 宙は思わず口元を緩める。

「じゃ、チャーハン二人分作りますね」

「話を勝手に進めるな」

「大丈夫です。絶対うまいんで」

「そういう問題じゃない」

 文句を言いながらも、久瀬が断ることはなかった。

 久瀬と同居を始めて、約半月。家で一緒に食事をするのは初めてだったが、ひとつ分かったことがある。

「今度、座卓も新しいの買いましょう」

 二人で食事をするには、今ある座卓は小さすぎる、ということだ。



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異失物管理番号:02-024

作成日:2026年8月29日

作成者:三井宙

補佐:久瀬隼人

異失物名:西京子と結城凛のペアブレスレット

分類:装着型/発声阻害型

危険度:Ⅲ級

発動条件:片方、もしくは両方を装着したまま、装着者が嘘をつこうとする

確認された影響:嘘をつこうとすると声が出なくなって、ブレスレットも締め付けられる。

破壊可否:可能

処置:東京分駐所第一保管室に収容


備考:(久瀬記入)異失物管理番号:02-021案件同様、接触者(異失物管理番号:02-018の装着者)が対象物由来と思われる過去の追体験を申告。当該分類の異失物に類似事例なし。継続調査中。

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