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「それは……」
言い淀むように結城が視線を落とした――そのとき。
「あの、すみません!」
交番の入口から男性の声が聞こえた。
目を遣ると、五十代くらいのスーツ姿の男性が立っている。
「昨日、娘のブレスレットについて問い合わせたら、特徴の似たものが届けられていると聞いたんですが……。金色の、細いブレスレットです」
宙は思わず結城を見た。
――ブレスレットを探している人が、二人?
結城は振り返り、男性の顔を見るなり驚いたように立ち上がった。
「あ……おじさん」
「結城さん。どうしてここに?」
男性は結城の顔を見るなり、僅かに眉間に皺を寄せた。結城は男性の言葉に、迷うように視線を彷徨わせる。
「……お探しのブレスレットは、もしかしてこちらですか?」
久瀬が保管袋を持ち上げる。男性はこちらに歩いてきて、まじまじとブレスレットを見た。
「これです! これ、娘のです!」
「娘さんの? でも……」
宙は戸惑い、向かいに座る結城の顔を見た。結城は宙の視線から逃げるように顔を背け、そばに置いていた鞄を取る。
「……京子が失くしていたので、代わりに探しに来たんです。でも、おじさんが届けてくれるなら、私は必要なさそうですね」
結城は立ち上がると、こちらに向かって頭を下げた。
「仕事があるので、私はこれで」
「待ってください。まだ確認したいことが――」
「すみません、急ぐので」
久瀬の言葉を遮り、結城は踵を返した。そのまま足早に交番を出ていく。
引き留める間もなかった。
ガラス扉の向こう、雑踏の中へ消えていく背中を、宙は呆然と見送る。
「あの、結城さんは何をしに交番へ?」
険しい表情で結城の去った方を見ていた男が、宙に尋ねる。
「まさか、このブレスレットを自分の物だと言ったんですか?」
「えっと……」
思わず言い淀む。
それだけで答えを察したのか、男は「やっぱり……」と苦しげに唇を噛んだ。
「失礼ですが、お名前を伺っても?」
久瀬が男へ向き直る。
「西恭平といいます」
「結城さんとは、どういったお知り合いですか?」
「彼女は娘の同居人です。娘が以前勤めていた職場の一つ下の後輩だそうで、二年前から二人で暮らしているんです」
そこで西は一度言葉を切った。
何かを後悔するように視線を落とし、握った拳に力を込める。
「でも……こんなことになるなら、反対しておけばよかった」
「こんなこと?」
宙が聞き返す。
西は顔を上げ、切迫した表情で口を開いた。
「彼女――結城さんは、私の娘を殺そうとしたんです」
「ころっ――!?」
思わず大声を上げかけ、慌てて口を押さえる。久瀬は僅かに眉を寄せ、振り返って戸田を見た。
「奥の部屋を借りても?」
「はっ、はい!」
戸田も驚きを隠せない様子で、慌てて立ち上がった。案内されるまま交番の奥にある小さな応接室へ移動する。
四人でテーブルを囲み、西が落ち着くのを待ってから、久瀬が続きを促した。
「私の娘は西京子といいます。歳は二十八。このブレスレットは、娘がずっと大事にしていたもので……」
西はスマートフォンを取り出し、何度か画面を操作する。やがて一枚の写真を表示すると、宙たちの方へ差し出した。
「ほら、これです」
画面には、穏やかそうな雰囲気の若い女性が映っていた。
肩まで伸びた茶色の髪を耳に掛け、カメラに向かって柔らかく笑っている。その手首には、細い金色のブレスレットが嵌められていた。
宙は思わず、持ってきた保管袋の中のブレスレットと写真を見比べる。
装飾のほとんどない細い金色の輪。写真では内側の刻印までは確認できないが、形はよく似ている。
――それに、何より。
「イニシャル、一緒ですよね」
宙が小声で言うと、隣の久瀬が小さく頷いた。
西京子――K・N。
結城自身も、さっき「京子が失くしたものを代わりに探しに来た」と言っていた。なら、このブレスレットの持ち主は西京子で間違いなさそうだ。
だが――だとしたら、なぜ最初に自分のものだと答えたのだろう。
疑問が浮かぶが、今はそれよりも気になることがある。
「それで……結城さんが京子さんを殺そうとした、というのは?」
久瀬が机の上で手を組み、尋ねる。
西はすぐには答えなかった。しばらく俯いたまま、握りしめた両手を見つめていたが、やがて低い声で話し始めた。
「娘が事故に遭ったのは、三日前です。今も病院に入院していますが……まだ意識は戻っていません」




