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5

「それは……」

 言い淀むように結城が視線を落とした――そのとき。

「あの、すみません!」

 交番の入口から男性の声が聞こえた。

 目を遣ると、五十代くらいのスーツ姿の男性が立っている。

「昨日、娘のブレスレットについて問い合わせたら、特徴の似たものが届けられていると聞いたんですが……。金色の、細いブレスレットです」

 宙は思わず結城を見た。

 ――ブレスレットを探している人が、二人?

 結城は振り返り、男性の顔を見るなり驚いたように立ち上がった。

「あ……おじさん」

「結城さん。どうしてここに?」

 男性は結城の顔を見るなり、僅かに眉間に皺を寄せた。結城は男性の言葉に、迷うように視線を彷徨わせる。

「……お探しのブレスレットは、もしかしてこちらですか?」

 久瀬が保管袋を持ち上げる。男性はこちらに歩いてきて、まじまじとブレスレットを見た。

「これです! これ、娘のです!」

「娘さんの? でも……」

 宙は戸惑い、向かいに座る結城の顔を見た。結城は宙の視線から逃げるように顔を背け、そばに置いていた鞄を取る。

「……京子が失くしていたので、代わりに探しに来たんです。でも、おじさんが届けてくれるなら、私は必要なさそうですね」

 結城は立ち上がると、こちらに向かって頭を下げた。

「仕事があるので、私はこれで」

「待ってください。まだ確認したいことが――」

「すみません、急ぐので」

 久瀬の言葉を遮り、結城は踵を返した。そのまま足早に交番を出ていく。

 引き留める間もなかった。

 ガラス扉の向こう、雑踏の中へ消えていく背中を、宙は呆然と見送る。

「あの、結城さんは何をしに交番へ?」

 険しい表情で結城の去った方を見ていた男が、宙に尋ねる。

「まさか、このブレスレットを自分の物だと言ったんですか?」

「えっと……」

 思わず言い淀む。

 それだけで答えを察したのか、男は「やっぱり……」と苦しげに唇を噛んだ。

「失礼ですが、お名前を伺っても?」

 久瀬が男へ向き直る。

「西恭平といいます」

「結城さんとは、どういったお知り合いですか?」

「彼女は娘の同居人です。娘が以前勤めていた職場の一つ下の後輩だそうで、二年前から二人で暮らしているんです」

 そこで西は一度言葉を切った。

 何かを後悔するように視線を落とし、握った拳に力を込める。

「でも……こんなことになるなら、反対しておけばよかった」

「こんなこと?」

 宙が聞き返す。

 西は顔を上げ、切迫した表情で口を開いた。

「彼女――結城さんは、私の娘を殺そうとしたんです」

「ころっ――!?」

 思わず大声を上げかけ、慌てて口を押さえる。久瀬は僅かに眉を寄せ、振り返って戸田を見た。

「奥の部屋を借りても?」

「はっ、はい!」

 戸田も驚きを隠せない様子で、慌てて立ち上がった。案内されるまま交番の奥にある小さな応接室へ移動する。

 四人でテーブルを囲み、西が落ち着くのを待ってから、久瀬が続きを促した。

「私の娘は西京子といいます。歳は二十八。このブレスレットは、娘がずっと大事にしていたもので……」

 西はスマートフォンを取り出し、何度か画面を操作する。やがて一枚の写真を表示すると、宙たちの方へ差し出した。

「ほら、これです」

 画面には、穏やかそうな雰囲気の若い女性が映っていた。

 肩まで伸びた茶色の髪を耳に掛け、カメラに向かって柔らかく笑っている。その手首には、細い金色のブレスレットが嵌められていた。

 宙は思わず、持ってきた保管袋の中のブレスレットと写真を見比べる。

 装飾のほとんどない細い金色の輪。写真では内側の刻印までは確認できないが、形はよく似ている。

 ――それに、何より。

「イニシャル、一緒ですよね」

 宙が小声で言うと、隣の久瀬が小さく頷いた。

 西京子――K・N。

 結城自身も、さっき「京子が失くしたものを代わりに探しに来た」と言っていた。なら、このブレスレットの持ち主は西京子で間違いなさそうだ。

 だが――だとしたら、なぜ最初に自分のものだと答えたのだろう。

 疑問が浮かぶが、今はそれよりも気になることがある。

「それで……結城さんが京子さんを殺そうとした、というのは?」

 久瀬が机の上で手を組み、尋ねる。

 西はすぐには答えなかった。しばらく俯いたまま、握りしめた両手を見つめていたが、やがて低い声で話し始めた。

「娘が事故に遭ったのは、三日前です。今も病院に入院していますが……まだ意識は戻っていません」

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