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 訝しげに言って、秋田はブレスレットを手に取った。

「じゃあ次は、着けた状態で検証してみます?」

 秋田の言葉に、パソコンで記録を取っていた久瀬が顔を上げる。

「ああ。まずはこちらからいくつか質問する。回答以外にも、何か気づいたことがあれば自由に話してくれて構わない。異常があったら、手を上げるなりして知らせてくれ」

「分かりました」

 秋田は椅子に座り、細い金色の輪を手首に嵌めた。

「どうです?」

「今のところ、特に何ともないかな」

 手首を目の高さまで持ち上げ、軽く振ってみる。ブレスレットは締まる様子もなく、細い手首の上でわずかに揺れた。

「秋田は、こういうブレスレットを持ってるか?」

 戸田の声が出なくなったときと同じ質問を、久瀬が投げる。

「はい、持ってますよ。アクセサリー好きなので」

 秋田は何でもないように答えた。声に異常はない。

「大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

 これも問題なく声になった。

 宙は腕を組み、秋田の手首をじっと見つめる。

「じゃあ……次、嘘ついてみてもらっていいですか?」

「嘘?」

「戸田さんって、『持ってない』と『大丈夫』って答えようとしたときだけ、声が出なかったじゃないですか。どっちも本当じゃないことを言おうとしたからなのかなって」

 秋田は納得したように頷いた。

「いいよ。何て聞く?」

「じゃあ、さっきと同じ質問で」

 宙は秋田の正面に立ち、改めて尋ねる。

「秋田さんは、こういうブレスレットを持ってますか?」

 秋田が口を開く。

「…………」

 唇は確かに動いた。けれど、声は聞こえない。

 秋田自身も驚いたように目を見開き、もう一度口を動かす。それでも音にはならなかった。

「今、少し締まったな」

 秋田の手首を見ていた浜松が言う。細い金色の輪が、先ほどよりわずかに肌へ食い込んでいる。

「秋田さん、大丈夫ですか?」

「いや――って、あれ、声出てる」

 秋田は自分の喉に手を当て、不思議そうに何度か声を出した。

「『持ってない』って言おうとしたら、ブレスレットが締まった感じがしました」

「じゃあ、別の嘘も試してみましょう」

 宙は少し考えてから、秋田の手元にあるスマートフォンを指さした。

「それ、秋田さんのスマホですよね?」

「…………」

 秋田の唇が動く。否定しようとしたのだろう。けれど、また声は出ず、それに呼応するようにブレスレットが手首を締めつけた。

「ほら! やっぱり嘘をつこうとすると、声が出なくなるんですよ!」

 自分の推理が当たったことに嬉しくなり、宙は得意げに久瀬を見る。

 しかし、久瀬はパソコンの画面を見つめたまま、眉間に皺を寄せていた。

「いや、待て」

「え?」

 久瀬は秋田の手首へ視線を移す。

「『大丈夫』と嘘をつくのは分かるが、ブレスレットを持っているかどうかなんて、わざわざ嘘をつくようなことか?」

 一瞬、沈黙が落ちた。

「久瀬さん……」

「久瀬、お前……」

 宙と浜松が揃って何とも言えない顔をする。秋田は深いため息をついた。

「やめましょう、二人とも。久瀬さんに女心なんて分かるわけないんですから」

「……何なんだ」

 久瀬はむすっとして三人を見る。秋田は「あのですね」と、わざとらしいほど優しい口調で続けた。

「私は気にしませんけど、仕事中とプライベートで雰囲気が違うのを、職場の人に知られるのが恥ずかしい人だっているんですよ。特に、普段アクセサリーなんて着けなさそうに見られてるなら、とっさに誤魔化したくなることもあるでしょうし」

 秋田の説明に、久瀬はまだあまり納得していないようだった。けれど、実際に戸田へ電話で確認すると、本当はブレスレットを持っていたことが分かった。

 その後も、答えの真偽が明確な質問をいくつか試したが、結果は同じだった。秋田が嘘を口にしようとするたび、ブレスレットが手首を締めつけ、声が出なくなる。

 ブレスレットは異失物と見て間違いない。そして発動条件は「装着者が嘘をつこうとすること」――そう考えてよさそうだ。


「次はこのブレスレットの持ち主探しだな」

 保管袋にブレスレットを戻しながら、浜松が言う。宙は眉間に皺を寄せつつ、ブレスレットに顔を近づけた。

「イニシャルから探し当てるのは無理ですよねー。この、く……くらいやー? って文字は何なんだろ」

「クレア、もしくはクレールだ。明るい、透明な、といった意味がある」

 久瀬の言葉に「へぇ」と頷く。

「持ち主の好きな言葉だったとか?」

「普通に考えたら、ブランド名じゃないかな。アクセサリーショップの」

 秋田が言って、スーツのポケットからスマホを取り出す。『Claire アクセサリーショップ』で検索すると、同名の店が一軒見つかった。だが、問い合わせてみたところ、ブレスレットはその店の商品ではないという。

 似た名前のアクセサリーショップもいくつか見つかり、一軒ずつ問い合わせてみたものの、いずれも該当する商品を扱ってはいなかった。念のためブレスレットを撮影し、画像検索にもかけてみたが、ほとんど装飾のないシンプルな金色のバングルだけに、表示されるのはよく似た商品ばかり。

 結局、その日の調査では、持ち主に繋がる手掛かりを見つけることはできなかった。

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