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異失物となった滝山のスマートフォンは、後日、正式に本部で破壊処理されることが決まった。滝山の母に説明し、同意を得ると、異失物管理記録――久瀬の補佐として宙も記録を手伝った――とともに、篠原に提出した。
「そっか。今回も異失物の記憶を見たんだね」
執務室で久瀬から報告を聞き終え、管理記録に目を通した篠原は呟くように言った。
「これで俺も感応者ってことになるんですか?」
「そうだね。本部へ報告するには、もう少し経過観察が必要だけど、僕は間違いないだろうと思ってる」
宙に頷いてみせると、篠原は書類を机に置き、にこりと笑った。
「ひとまず、初仕事お疲れ様。破壊処理の同意も得られてよかったよ。本部判断で強制処理に回すこともできるけど、なるべく遺恨は残したくないし、手続きも増えて大変だからね」
柔らかそうな革張りのチェアに背を預け、篠原は机の前に立った宙と久瀬を見上げた。
「今回はバディとして初めての仕事だったわけだけど、どうだった? 三井くんは続けていけそう?」
探るような目が、こちらを見る。宙は少し考えるように視線を落とした。
「……異管って、異失物っていう『物』を調べる仕事なんだと思ってました。でも、コタロウの首輪と滝山さんのスマートフォンを調べてみて、物っていうより人の想いとか……人生の深いところに触れる仕事なんだなって、思いました」
ぽつぽつと、言葉を選びながらゆっくりと話す。
「最初は正直お金が一番の理由でしたけど、今はもっと知りたいって思ってます。異管の仕事のこと」
顔を上げ、まっすぐに篠原を見つめ返す。篠原は「そっか」と少し目尻を下げて微笑み、隣の久瀬に視線を移した。
「久瀬くんは? 三井くんとバディを組んで初の仕事、どうだった?」
「無鉄砲なところがあって、ときどき言うことを聞かないので、手が掛かります」
真顔のまま躊躇いなく久瀬が答える。勝手に滝山のスマホに触ったときのことを思うと、宙は何も言えず視線をそらすしかなかった。
「あはは。それを言ったら、久瀬くんもルールを破るし、僕の言うことをあんまり聞かないでしょ」
「必要な判断をしただけです」
「ほら、そういうところ」
篠原は楽しそうに笑い、机の上で両手を組んだ。
「案外、いいバディになるかもしれないね。お互いに、お互いの無茶を見張っていれば」
宙はちらりと横目で久瀬を見た。久瀬はあまり納得のいっていない顔をしている。
「そうだ。異管の寮への一時入寮の件だけど、許可が下りたよ」
「本当ですか?」
これでようやく、朝の満員電車から解放されるのだ。
宙は顔を輝かせた。
「許可が下りたのは、ひとまず三井くんの夏休み期間だけだから、荷物は必要なぶんだけ持っていって」
「そういえば、家賃とか光熱費ってどうなります?」
学生寮の家賃を払いながら、警察寮の費用まで払うとなると、せっかくのアルバイト代が消えてしまう。おそるおそる尋ねると、篠原は机の上のファイルを開き、書類を捲りながら答えた。
「夏休み中は、研修に伴う一時宿泊扱いになるから、三井くんから家賃は取らないよ。学生寮の家賃もあるだろうし、二重で払わせるのはさすがにね」
「よかった……!」
「ただし、食費と個人的な消耗品は自分で出してね。光熱費は今回は課の負担で処理する」
「ありがとうございます。異管って、福利厚生めっちゃいいですね」
「誰に対してもここまでするわけじゃないよ。きみには期待してるからね」
さらりと篠原が答える。その言葉に若干の圧を感じ、宙は口を閉ざした。篠原は何事もなかったように笑みを浮かべる。
「もし三井くんが、夏休みが終わった後も異管を続けることになって、大学の寮から本格的に引っ越すことになったら、そのときは規定どおり寮費と光熱費を負担してもらうことになる。久瀬くんと折半になる部分もあるから、そこは二人で相談してね」
「……夏休み中だけの話では? その後について、俺は同意していませんが」
久瀬が露骨に顔をしかめる。篠原は意に介した様子もなく笑顔のままだ。
「許可は下りたよ」
「俺の許可ではなく、上の許可ですよね」
「はは。まあ、その辺は追々ってことで」
はぐらかすように言って、ファイルから取り出した書類を宙に差し出す。
「はい、これ契約書。二人とも、喧嘩しないで仲良くね」
――かくして、宙は期間限定で久瀬の部屋へ居候することになった。
篠原から話があった次の休日。荷物をパンパンに詰め込んだ七泊用のキャリーケースを引いた宙は、独身寮までやって来ると、久瀬の部屋の呼び鈴を押した。
「こんにちはー! 三井でーす」
インターホンが繋がった音がして、カメラに向かって笑顔で手を振る。と、次の瞬間、ブツッと音がして通話が切れた。
「えっ、切れた!? 故障!? 久瀬さーん!」
ガチャガチャとドアノブを動かし、ドアを叩いて久瀬を呼ぶ。しばらくして、中から足音が聞こえ、鍵の開く音がした。




