同い年
「イッテー。イタタ・・・お前、大丈夫か?」
背中の後ろから声がした。
僕は慌てて起き上がりその人を見た。おじさんがいた。
瞬間、体が、ヒジや背中が痛んだ。
でも僕よりもひどい。おじさんの頭から血が流れている。僕を庇った時に打ったのかもしれない。
「お、おじさん・・・血が・・・」
「あほう、まだおじさんちゃうわ。けど、痛いやんけー。」
おじさんは頭をおさえながらゆっくり立ち上がり、集まって来ていた沢井たちを見た。
犬はもう繋がれていた。
おじさんの腕には血で滲んだ擦り傷が出来ている。
「何やお前ら、こんなことして楽しいんか。お前も。お前も。お前もや。」
順番に沢井の仲間に向いて言った。
「こんなことに犬を使うな。そんな飼い主やとこの犬は不幸やっ。こいつがこんな怪我するんが見たかったんかっ。」
おじさんは真っ赤な血をポタポタ流しながら近づいて行った。
沢井たちは「ひっ」と言いながら後ずさった。
「ちゃ、ちゃうねん。あいつ、ジュンネンやねん。」
おじさんは顔をしかめた。
「・・・だから何やねん。」
「・・・・」
「こいつがお前らに何かしたんか。ムカツクことしたんか。」
おじさんは、沢井達を睨んで言った。
沢井は黙ったまま首を振る。皆も、顔を見合わせながら首を振る。
「ジュンネンやいうだけでこんなしょうもないことしとんか。それも何や、お前らつるまな何も出来へんのか。ジュンネンやからいうてイジメていい理由なんかあるかいっ。イジメなんかやる奴はしょうもない人間や。」
おじさんは犬の頭を撫でながら、
「お前もかわいそうになー。こんなことさせられて。」
と言った。
さっきまであんなに怖く見えた犬が、尻尾を振っている。
おじさんは犬が恐くないんや。
「親が言うたんか。犬に人襲わせーて。そしたら最悪やの、お前らの親は。」
「・・・お母ちゃんはそんなこと言うてへん。お母ちゃんは悪うない。」
沢井が言った。
「親庇える気持もっとるんやったらすんな。カッコ悪いわ。」
頭から流れる血が頬まで伝っている。額に手を当てながら僕に言った。
「お前もやられっぱなしでおるなや。やりかえさんかい。」
そんなことを言われても、僕は争い事が苦手だし、祖父母にも心配かけたくないし。
「もうええわ。お前ら帰れ。」
おじさんは、沢井たちに、行け行けと手を振った。
「もうすんなよ。」
沢井たちは、コクリと頷きトロトロ帰り始めた。堤防まで上がっても、沢井だけが何度も後ろを振り返っていた。
僕とおじさんだけが河原に残った。
さっきまでの騒々しさと違い、川の流れの音だけが聞こえる。
おじさんは座りやすそうな消波ブロックを見つけ、僕に座れと手まねきした。
「お前、前からイジメられてたんか?」
僕は、太ももの怪我は手で隠して近づきながら頷いた。
隣り座るおじさんの頭の傷を見た。血で見えないけれど傷は大きそうだ。
僕の見上げる視線に気づいて、
「頭か?大丈夫や。後で病院行くわ。」
と言った。
僕は黙って頷いた。
僕も自分の太ももの怪我が気になったけど、おじさんのほうがひどいのに病院に行きたいとは言えなかった。
そうだ、肝心なことを言ってなかった。
「・・・おじさん、助けてもっらてありがとうございました。」
おじさんは、大きくため息をついてじっと僕を見た。
「あんなー、さっきからおじさんてなー、俺まだ二十六やねん。おじさんちゃうっちゅーねん。そんな老けとるかー?」
「ご、ごめんなさい。」
「あー ちゃうねん。こんなん言いたいんちゃうねん・・・まーこの話は置いといて。」
そう言いながらおじさんは、両手で右から左へ物を置き換える仕草をした。
「お前さ、奥井佑人言うんやろ?」
「え?あ、はい。」
「俺、お前探してたんや。会ってみたい思っとってなー。」
僕はびっくりした。
「んで、学校の近くでお前のコト聞いたら、こっちに行ったーて言われてな。そしたら犬に追いかけれてるは笑われてるは何じゃコレ、や。ビックリや。」
そう言っておじさんは両掌を上に向け肩をすぼめてみせた。
逆に僕は俯いてしまった。
おじさんはそんな僕の肩を叩く。そして、自分を指さす。
「俺なー、お前と同い年なんや。」
僕は一瞬、キョトンとしてしまった。
遠くで車の走る音だけが聞こえる。
口をあけたまま固まっている僕を見て、おじさんはゆっくり言う。
「俺もお前と同じ、年生まれなんや。」
僕と同じ年に生まれた人?
「俺、川田哲司言うんや。」
川田さんは右手で握手を求めた。




