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イジメ

 ある日学校が終わった後、そのグループに連れられ僕は河原にいた。

 半ズボンから出ている足に長く延びた草が掠めていく。

「ろくっ、行け行けっ」

 そう叫ぶ声の持ち主は、リーダーの沢井だった。

 周りは囃し立てる。

「やめてよーっ。怖いよーっ」

 僕は必至で河原の草むらの中を逃げていた。 

 沢井が一度家に帰り、飼い犬を連れてきて僕を追いかけさせていたからだ。

 僕の体には、簡単に外せない様に固くくくり付けられた餌がぶら下げてある。 

 延びた草で僕を見失った犬の姿はこちらからは見えないけれど、堤防から見下ろしている沢井たちからは居場所がわかるのか、「右右」「こっちだ」という声が聞こえてくる。

 僕は一度立ち止って様子をうかがっていた。

 どこにいるんだろ。変に走ったらみ見つかっっちゃうし。

 僕は延びて茂った草より高く顔が上がるように背伸びをしてみた。けれど、犬の姿は見えない。

 堤防にいる沢井たちを見ると、僕のほうを見て指を指し騒いでいる。

「そこや、真っ直ぐ走れーっ」

「行けーっ」

まさか。

 同じその方角を見ると、ワサワサと草の先が動いている所がある。

 来たっ。

僕は逆方向へ思いっきり走り出した。犬が吠えた。草を掻き分ける音に気付いたのか、犬も走り出したようだ。

 「あっ。」

 その時、バキっという音とともに左の太ももに衝撃が走った。でも、立ち止まるわけにはいかない。そこまで犬が迫ってきている。

 草や枯れ木が太ももに当たるたび、引っ張られる様な違和感がある。

 どうなってるん?僕の足。

 太ももが熱く感じる。僕は走りながら太ももを見た。

 何これ。何で?

信じられない物を見た気分だった。太ももには、太さが五ミリほどありそうな枯れた枝が突き刺さっていた。

 急に痛みだした。ズキズキする。

 痛い。怖い。

 それでも僕は夢中で走った。目の前に消波ブロックが見えた。

 もう息も切れて走れない。

 あそこに登ればきっと犬は近づけない。そこまで力の限り走った。着いて僕は痛む太ももを庇いながら消波ブロックに飛び乗った。

 近くまで犬が来た。沢井たちは「ろくっ、跳べ跳べっ」と叫んでいる。怯えている僕を見て笑っている。

 犬は消波ブロックに足を掛けては戻すの繰り返しで、そのうちウロウロ迷いだしたようだった。

僕に向かって吠えている。

 来れへんねや、良かった。

僕は取りあえず安心して太ももを見た。枝は皮膚から二センチほど突き出たまま刺さっている。

 ズキズキと熱く痛む。そっと触ってみた。傷は深くはないみたいだった。

 このまま抜けば大丈夫かな。

 思い切って引張った。

 抜けたっ、と思った。けれど、枝は脆かった。刺さった部分を皮膚の中に残したまま、掴んだ枝はボロボロに崩れた。

 どうしよー、これじゃもう取れへん。

 痛いのも我慢して傷を探った。

 取れへん、取れれん。

 傷痕はドス黒く滲んでいる。血と一緒に傷口に溜まっていた枝の欠片が少し出た。

 我慢していた涙が零れた。

 「バウッ」

 その時、涙に霞んだ犬が見えた。

 僕の方へ向かって跳んだように見え、消波ブロックの上でバランスを崩した。

 落ちるっ。

 ゴツッと嫌な鈍い音が聞こえた。

 落ちる瞬間に瞑った目を開けると、僕は消波ブロックの間で止まっていた。身体を見ると、僕の手より大きな手が僕の体を掴んでいた。


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