5.エルテ
奥へ進めば進むほど、川沿いの石畳が切れがちになり、道と草地の区別はますますつきにくくなってきた。
オーロンが手綱をぱちんと打つたびに馬がびくんと震えた。休ませたとはいえ、かなり消耗している。樹海を抜けるまでもつか心配だった。
「お嬢ちゃん。お前、暗殺者だろ?」
「あら、よくわかったわね」
「あれだけ派手に殺せば、大学教授じゃなくてもそう気づくさ。お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんって呼ぶのやめてくれない? 名前はエルテよ」
「お嬢ちゃん」オーロンは無視した。「あの黒マントは一体何者なんだよ? 俺にはあんな奴らに狙われる筋合いはねえぞ」
「………………」
「おい、お嬢ちゃん。無視すんな」
「………………」
「エルテちゃん、あいつらはなにもんだ?」
「ちゃん付けもしないで」
「エルテ」オーロンもうんざりしてきた。
「あいつらは『組織』の手下よ」エルテはやっと答えた。
「組織?」
「名前は知らない。興味ないもの。『組織』は『組織』よ」
「そいつら、暗殺者のギルドみたいなもんか?」
「もうちょっと手広くやってるらしいけど」
「なんでそんなことを知ってる?」
「昔、所属してたから」
オーロンは顔を歪めて仰け反った。
エルテはまたクスッと笑った。
「勘違いしないで。もう脱走したわ」
「脱走?」
「そう。先月、脱走したの」
エルテはまるで家畜が逃げたような口ぶりで自分の現状を説明してみせた。
「追っ手とか来ないのか?」オーロンがたずねた。
「もちろん来るわ。いちいち片づけるのが面倒なほど」
「ふ~ん、それは大変だねえ……なんていうと思ったか!」
オーロンがキレた。
「じゃあ、やっぱりあいつら、お前を追ってきてるんじゃねえか! くそっ、何が奴らの狙いはあなたよ、だ! あいつらの狙いはお前だ、嘘つきのメスチビめ!」
オーロンは馬車を止めて、降りるように言った。
エルテはきょとんとしたが、言いつけには素直に従った。
「一応言っておくけど……あなたが狙われてるのは本当よ」
「うるせー!」
オーロンは馬車を走らせた。
エルテはちょっと困った顔をしたが、すぐクスッと笑い出した。




