【資料書き起こし】『ノンフィクション白波_昭和怪事件の現場から』平成12年秋季特別号
房総・怪獣池パラコート大量投下事件の公判記録
■美智子の仇討ちを叫ぶ男の妄執
昭和49年3月に発生し、未だ多くの謎を残すテレビ界最大のタブー「魚宿三潴潜水艇圧壊事故」。
トップアイドル・沢井美智子をはじめとする5名の命を呑み込んだ呪われた池は、その直後、一人の狂信的なファンによってさらなる地獄絵図へと変貌を遂げていた。
本誌は、現場の水を毒液へと変えた前代未聞のテロ行為、「魚宿三潴パラコート大量投下事件」の公判記録を入手。被告人が法廷で語った戦慄の供述要旨をここに公開する。
【公判データ】
事件名: 往来妨害、器物損壊被告事件
裁判所: 千葉地方裁判所(昭和49年第██号)
【被告人プロフィール】
氏名: 室戸 英二
年齢: 58歳(公判当時)
職業: 千葉県長生郡 農業従事者(果樹園経営)
【犯行の背景:生放送当日の「暴動」】
検察側の冒頭陳述、および公判記録によると、室戸被告は事故当日、沢井美智子の熱狂的なファンの一人として現場の池周辺に詰めかけていた。
潜水艇が異常な速度で急降下を始め、スタジオがパニックに陥った深夜、室戸は現場にいた複数名のファンを扇動。
仮設テントにいたテレビ局スタッフに対し、「ふざけるな! さっさと(潜水艇を)引き上げろ!」と叫んで機材に掴みかかり、暴行・器物損壊の現行犯一歩手前で現場の警察官に取り押さえられるという騒ぎを起こしていた。この時からすでに、室戸の精神は極限状態にあったとみられる。
【犯行の一部始終:深夜の強襲】
事故から約1ヶ月が経過した同年4月20日深夜。
室戸被告は、実家の納屋から持ち出した高濃度パラコート計240リットル(20リットル入りポリタンク12本分)を軽トラックの荷台に積載し、厳重に封鎖されていた「魚宿三潴」へと向かった。
設置されていた立ち入り禁止の鉄製フェンスをトラックの車両ごと突き破って敷地内に侵入。そこから夜陰に紛れ、トラックの荷台と池の岸辺を何度も往復しながら、手作業ですべてのパラコート原液を水中に投下・流し込んだ。
翌21日の早朝、定期巡回中だった地元の警察官が、無残に破壊されたフェンスと、池の周辺を泥まみれのまま呆然と彷徨っている室戸被告を発見。その場で緊急尋問を行ったところ、うつろな目で「ギョッシーを殺すために毒を撒いた」と犯行を認めたため、身柄を拘束された。
【戦慄の供述:法廷に響く「幻聴」】
裁判長:「室戸被告、あなたはその大量の薬剤を、どのような意図で投下したのですか」
室戸被告:「すべては美智子の仇討ちのためにやったんだ。あの池の底から、美智子が『あいつを殺して、私をここから出して』と、俺にそうやれと言った」
裁判長:「しかし、潜水艇の圧壊事故から既に1ヶ月が経過しており、沢井氏の生存の可能性はありません。遺体収容も難航している状態です」
室戸被告:「(激昂し、立ち上がる)お前たちには美智子の声が聞こえないのか! パラコートを投げ込んでいる間も、水底からずっと、あの『深海のディーバ』の歌声が聞こえていたんだ! 美智子はまだ、あの泥の中で生きている! 生きているんだよ!」
(※室戸被告、証言台を叩いて暴れ始め、廷吏3名によって取り押さえられる。一時休廷)
弁護側は「過度なショックによる心神耗弱」を訴えたが、農薬の計画的な持ち出し手順などから、責任能力は十分にあると判断された。
【判決】
千葉地方裁判所は、本件について、地域の水質を著しく汚染させ生態系を完全に破壊した行為を重く見つつも、水道水源地ではない私有の池であること、および被告人の精神的な混乱を鑑み、水利妨害を伴う「往来妨害罪(刑法124条)」、および現場付近のフェンスを破壊したことによる「器物損壊罪」を適用。
室戸被告に対し、「懲役1年10ヶ月(執行猶予3年)」の有罪判決を言い渡した。
(本誌記者・評)
狂信的なファンによる「幻聴」が引き起こした凄惨な毒物テロ。しかし、事件から20年以上が経過した今も、地元の老人の間では不穏な噂が絶えない。室戸がパラコートを撒いたあの日、魚宿三潴の周辺では、もがき苦しむような異常な鳴き声が数日間に渡って響き渡っていたという。果たして、室戸被告の思惑通りに「ギョッシー」は退治されたのだろうか。




