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スキルを駆使して人生勝ち組っ!R  作者: 此花サギリ
小学生

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第98話 命の選択

 ――医療ドラマ【ドクターS】第一話。


 舞台は、東都中央病院とうとちゅうおうびょういん


 国内有数の高度医療を担う総合病院であり、日々多くの命が運び込まれる最前線の現場である。


 その朝、ひとりの若き医師が足を踏み入れた。


 ◇


 「……本日付で配属となりました、篠宮(しのみや)紗良(さら)です。よろしくお願いします」


 ◇


 丁寧に頭を下げる紗良。


 まだ新しい白衣は少しだけ硬く、ぎこちなさが残る。しかし、その瞳には迷いよりも覚悟が宿っていた。


 ◇


 「……研修医か」


 ◇


 低く響く声。


 振り向けば、外科医たちが並んでいる。


 ◇


 「ここは甘い世界じゃない」


 「一つの判断ミスが命を奪う」


 ◇


 淡々と告げられる現実。


 ◇


 「……承知しています」


 ◇


 紗良は一切目を逸らさずに答えた。


 ◇


 ◇


 配属初日から、休む間もなく業務は始まる。


 ◇


 「救急、入ります!」


 ◇


 ストレッチャーで運ばれてくる患者。


 交通事故による多発外傷。


 ◇


 「血圧低下!脈拍不安定!」


 ◇


 怒号のように飛び交う指示。


 ◇


 紗良は一瞬だけ動きを止める。


 目の前の光景は、教科書とはまるで違う“現実”だった。


 ◇


 だが――


 ◇


 「……ライン確保します!」


 ◇


 声を上げ、駆け出す。


 ◇


 震える手を抑えながら、処置を行う。


 ◇


 失敗は許されない。


 だが、止まることも許されない。


 ◇


 患者はそのまま手術室へ搬送される。


 ◇


 「君は見学だ」


 ◇


 指導医の言葉に、紗良はうなずく。


 ◇


 「……はい」


 ◇


 ◇


 手術室。


 無機質な光の中で、命を繋ぐ戦いが始まる。


 ◇


 メスが入り、血が溢れる。


 ◇


 迅速で正確な処置。


 ◇


 紗良は一瞬たりとも目を逸らさず、そのすべてを見つめる。


 ◇


 (これが……現場)


 ◇


 医師たちの動きは無駄がなく、まるで一つの生き物のように連動していた。


 ◇


 やがて――


 ◇


 「……止血完了」


 ◇


 「バイタル安定」


 ◇


 手術成功。


 ◇


 張り詰めていた空気が、わずかに緩む。


 ◇


 「……助かった」


 ◇


 小さく漏れる安堵の声。


 ◇


 だが、指導医は静かに言う。


 ◇


 「これが当たり前だ」


 ◇


 紗良は息を呑む。


 ◇


 「助けられて当然。助けられなければ、それまでだ」


 ◇


 厳しい現実。


 ◇


 「……はい」


 ◇


 ◇


 数日後。


 紗良は病棟を任され始めていた。


 ◇


 担当患者のひとり――幼い少女。


 ◇


 ベッドの上で小さくうずくまり、痛みに耐えている。


 ◇


 「……痛い」


 ◇


 か細い声。


 ◇


 紗良はゆっくりと手を取る。


 ◇


 「……大丈夫ですよ」


 ◇


 穏やかな声で語りかける。


 ◇


 「すぐに楽になりますから」


 ◇


 ◇


 しかし、検査結果は厳しいものだった。


 ◇


 腹部腫瘍。


 進行も早く、早急な手術が必要。


 ◇


 だが――


 ◇


 「成功率は高くない」


 ◇


 医局での説明。


 ◇


 紗良は黙って資料を見つめる。


 ◇


 数字は冷酷だ。


 ◇


 「……それでも、やるしかない」


 ◇


 指導医の言葉。


 ◇


 ◇


 家族への説明の場。


 ◇


 母親は涙を流しながら頭を下げる。


 ◇


 「お願いします……助けてください」


 ◇


 紗良は言葉を失いかける。


 ◇


 だが、逃げることはできない。


 ◇


 「……全力を尽くします」


 ◇


 その一言に、すべてを込める。


 ◇


 ◇


 手術当日。


 ◇


 緊張が張り詰める手術室。


 ◇


 「……紗良、入れ」


 ◇


 指導医の声。


 ◇


 「助手を務めろ」


 ◇


 「……はい!」


 ◇


 ◇


 手術開始。


 ◇


 呼吸を整え、器具を手に取る。


 ◇


 「吸引」


 「はい!」


 ◇


 次々と飛ぶ指示。


 ◇


 必死に応える紗良。


 ◇


 しかし――


 ◇


 「違う、そこじゃない!」


 ◇


 指導が飛ぶ。


 ◇


 一瞬の遅れ。


 ◇


 空気が張り詰める。


 ◇


 (落ち着いて……)


 ◇


 再び集中。


 ◇


 ミスを引きずらず、次の動作へ。


 ◇


 ◇


 だがその時。


 ◇


 「血圧低下!」


 ◇


 アラームが鳴る。


 ◇


 危険域。


 ◇


 「……!」


 ◇


 全員の動きが一瞬だけ変わる。


 ◇


 「出血点が見えない……!」


 ◇


 焦りが滲む声。


 ◇


 ◇


 「紗良」


 ◇


 指導医が呼ぶ。


 ◇


 「どうする」


 ◇


 ◇


 試されている。


 ◇


 紗良は視線を走らせる。


 ◇


 血液の流れ。


 組織の状態。


 ◇


 頭の中で情報が組み上がる。


 ◇


 ◇


 「……ここです」


 ◇


 一点を指差す。


 ◇


 「この奥に出血源があります」


 ◇


 ◇


 「……確証は?」


 ◇


 「あります」


 ◇


 迷いのない声。


 ◇


 ◇


 数秒の沈黙。


 ◇


 そして――


 ◇


 「……やれ」


 ◇


 ◇


 紗良の手が動く。


 ◇


 震えはある。


 だが止まらない。


 ◇


 慎重に、確実に。


 ◇


 器具を進める。


 ◇


 そして――


 ◇


 「……止まりました!」


 ◇


 ◇


 モニターの数値が回復していく。


 ◇


 「血圧上昇!」


 ◇


 「安定してきた!」


 ◇


 ◇


 手術は続き、やがて終了する。


 ◇


 成功。


 ◇


 ◇


 術後。


 ◇


 手術室の外。


 ◇


 紗良は壁に背を預ける。


 ◇


 全身から力が抜ける。


 ◇


 「……」


 ◇


 自分の手を見る。


 まだわずかに震えている。


 ◇


 ◇


 指導医が歩み寄る。


 ◇


 「……悪くない判断だった」


 ◇


 「……ありがとうございます」


 ◇


 ◇


 「だが、運もあった」


 ◇


 「……はい」


 ◇


 「それを忘れるな」


 ◇


 ◇


 厳しいが、確かな評価。


 ◇


 紗良は深くうなずく。


 ◇


 ◇


 病室。


 ◇


 少女が目を覚ます。


 ◇


 「……おねえちゃん」


 ◇


 ◇


 紗良は微笑み、そっと手を握る。


 ◇


 「……おはようございます」


 ◇


 ◇


 「もう、大丈夫ですよ」


 ◇


 ◇


 小さな手が、ぎゅっと握り返してくる。


 ◇


 その温もりが、確かに命の重さを伝えていた。


 ◇


 ◇


 医師としての第一歩。


 ◇


 成功と、課題。


 ◇


 そして、命の重み。


 ◇


 すべてを抱えながら――


 ◇


 篠宮(しのみや)紗良(さら)は前を向く。


 ◇


 「……次も、助けます」


 ◇


 その言葉は、小さいが確かだった。


 ◇


 ◇


 これは、命と向き合う者たちの物語。


 ◇


 そして――


 選び続ける者の、戦いの記録である。


 ◇


 【ドクターS】は、ここから始まる。

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