第99話 S旋風到来
医療ドラマ【ドクターS】第一話の放送翌日。
東京の朝は、いつもと変わらぬ通勤ラッシュ――のはずだったが、その空気はどこか違っていた。
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「昨日のドクターS見た?」
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駅構内のあちこちで、同じ会話が聞こえてくる。
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「見た見た!あの手術シーンやばくない?」
「ていうか主役の人、演技すごすぎた」
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テレビ局の控室。
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「……話題になっていますね」
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ソファに座る燈由は、静かにスマートフォンの画面を見ていた。
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画面にはニュース記事。
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『ドクターS、初回視聴率驚異の数字』
『主演交代が大成功と話題に』
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「……予想以上です」
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さらにSNS。
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「篠宮紗良役の人、完全に本物」
「演技っていうか、医者そのものだった」
「泣いた」
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「……評価は安定していますね」
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落ち着いた声。
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しかし、スタッフの反応は違った。
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「燈由ちゃん!すごいよこれ!」
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マネージャーの容子が、興奮気味に駆け寄る。
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「朝から電話鳴りっぱなし!」
「取材!出演オファー!全部一気に来てる!」
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「……そうですか」
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対して、燈由は冷静だった。
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「落ち着きすぎでしょ!?」
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「事実の確認ですので」
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容子は頭を抱える。
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「普通もっと喜ぶとこでしょ!?」
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「……嬉しくないわけではありません」
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「じゃあもっと表情に出して!?」
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「……では」
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ほんの少しだけ微笑む。
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「嬉しいです」
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「控えめ!!」
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その頃、星城学園。
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校内もまた騒然としていた。
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「え、あれって燈由だよね!?」
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「同じ学校とかやばくない!?」
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教室の前。
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燈由が入ってくると――
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一瞬で静まり返る。
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「……おはようございます」
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「お、おはようございます!!」
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反応がぎこちない。
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(距離ができていますね)
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席に座る。
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するとすぐに人だかり。
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「ドラマ見た!」
「すごかった!」
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「ありがとうございます」
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淡々と返す。
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そのとき。
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「……騒がしいな」
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聞き慣れた声。
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振り向くと――
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綾小路 英隆と、近衛 樹。
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「有名人は大変だな」
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「朝から囲まれてるし」
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「……通常範囲内です」
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「いや通常じゃない」
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「完全に芸能人のそれ」
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「……芸能人ですので」
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「それもそうか」
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軽く笑う二人。
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「で、主演様」
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「感想は?」
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「……反省点は多いです」
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即答。
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「ストイックすぎるだろ」
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「普通は“最高でした”とか言うとこだぞ」
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「改善は必要です」
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「いやもう完成してるだろ」
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昼休み。
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学食でも話題はドクターS一色。
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「手術シーンリアルすぎたよね」
「医療監修ガチなんだろうな」
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(リアル、ですか)
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燈由は静かに聞いている。
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(それなら、成功です)
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放課後。
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再び撮影現場、都内撮影所。
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「おはようございます!」
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スタッフの声がいつもより明るい。
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「視聴率見た!?」
「やばいよこれ!」
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「……確認済みです」
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「やっぱり主役交代正解だったな!」
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監督が笑いながら近づく。
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「ここからさらに上げるぞ」
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「……はい」
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台本を受け取る。
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次の話数。
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さらに重い内容。
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(難易度が上がっています)
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「……やります」
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その夜。
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再びSNS。
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トレンド一位。
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『ドクターS』
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「社会現象レベルじゃない?」
「今期トップ確定でしょ」
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記事も次々と更新される。
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『若手実力派女優、完全覚醒』
『子役出身の底力が話題』
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「……」
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燈由はそれを静かに閉じる。
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「……評価は、結果です」
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小さく呟く。
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大切なのは、次。
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次も、その次も。
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「……継続します」
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ベッドに横になり、目を閉じる。
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今日の撮影。
観客の反応。
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すべてを整理する。
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医療ドラマ【ドクターS】。
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それは今、単なる作品ではなく――
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“現象”になりつつあった。
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そしてその中心にいるのは、
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燈由。
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静かに、しかし確実に。
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その存在は広がっていく。
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「……まだ、途中です」
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物語は終わらない。
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むしろ、ここからが本番。
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ドクターSの旋風は、
さらに大きく――
世界へと広がっていくのだった。




