第97話 逆風一蹴劇
医療ドラマ【ドクターS】の主役交代発表から一夜。
東京の朝は、いつもと変わらず穏やか――
のはずだった。
◇
「……静かではありませんね」
◇
〈SNS、炎上中〉
◇
(予想通りです)
◇
スマートフォンの画面には、大量のコメントが流れていた。
◇
「なんで途中で主役変えるんだ」
「演出ミスでは?」
「いくら実力あっても無理がある」
◇
「……なるほど」
◇
〈批判の中心は“交代そのもの”です〉
◇
(演技ではなく、経緯への不満ですね)
◇
〈その通りです〉
◇
◇
さらにスクロールする。
◇
「子役上がりとはいえ若すぎる」
「経験はあるけど主役は別だろ」
◇
「……」
◇
(正しい意見も混ざっています)
◇
〈冷静な分析です〉
◇
◇
燈由はスマートフォンを置く。
◇
「……では」
◇
静かに立ち上がる。
◇
「やることは変わりませんね」
◇
〈演技で証明〉
◇
「はい」
◇
◇
◇
撮影現場。
都内撮影所。
◇
前日よりも、わずかに空気が張り詰めている。
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(外部の影響が出ています)
◇
〈しかし内部評価は安定〉
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「おはようございます」
◇
「燈由さん、今日もよろしく!」
◇
◇
スタッフの態度は変わらない。
◇
むしろ――
信頼がある。
◇
(現場は味方です)
◇
〈はい〉
◇
◇
監督が声を上げる。
◇
「今日は大事な回想シーンいくぞ!」
◇
◇
内容は――
若き医師としての原点。
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燈由の演じる人物の過去。
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(内面描写が重要です)
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〈技量が問われます〉
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「……了解です」
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◇
カメラが回る。
◇
「スタート!」
◇
◇
「……どうして、助けられなかったんですか」
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震える声。
◇
だが――
作られた震えではない。
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抑え込んだ感情。
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「……もっと早く気づけたはずなのに」
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◇
視線が揺れる。
◇
拳がわずかに震える。
◇
◇
「……私は、医者です」
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静かな決意。
◇
「次は、絶対に――」
◇
◇
言葉を飲み込む。
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それでも伝わる。
◇
◇
「……カット」
◇
監督の声が低く響く。
◇
◇
沈黙。
◇
◇
「……いい」
◇
監督が小さく呟く。
◇
「すごくいい」
◇
◇
スタッフの表情が変わる。
◇
確信。
◇
◇
(内部評価、さらに上昇)
◇
〈完全に主役として成立〉
◇
◇
その後も撮影は続く。
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手術シーン。
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「クランプ、そこです」
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「血圧維持、急いでください」
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動きに迷いがない。
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台詞も淀みなく。
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ベテラン俳優が小さく笑う。
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「……やっぱりすごいな」
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「え?」
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「子役からやってるだけある」
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◇
(評価が的確です)
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〈経験の蓄積が活きています〉
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◇
◇
数週間後。
◇
第一話放送日。
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燈由は自室でテレビを見ていた。
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「……始まります」
◇
〈視聴準備完了〉
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◇
放送開始。
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物語が流れる。
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演技が積み重なる。
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◇
回想。
現在。
決断。
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すべてが繋がる。
◇
◇
クライマックス。
◇
手術シーン。
◇
「……必ず、助けます」
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◇
放送終了。
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静寂。
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「……」
◇
(どうでしょう)
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〈反応を確認〉
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スマートフォンが震える。
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通知の嵐。
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◇
画面を開く。
◇
「演技うますぎる」
「さすが子役出身」
「主役交代、納得した」
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◇
「……」
◇
(変わりましたね)
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〈評価が収束しています〉
◇
◇
さらに。
◇
「最初は疑問だったけど正解」
「むしろ今の方が良い」
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◇
「……十分です」
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〈肯定意見が多数派へ〉
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◇
そのとき。
◇
樹
『やっぱりな』
◇
英隆
『経験の差だな』
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「……ありがとうございます」
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◇
スマートフォンを置く。
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深く息を吐く。
◇
「……証明できました」
◇
〈はい〉
◇
◇
新人ではない。
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積み上げてきた時間。
◇
技術。
経験。
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それらすべてが――
画面の中で形になった。
◇
「……次もありますね」
◇
〈さらなる評価向上が見込まれます〉
◇
「……やります」
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小さく笑う。
◇
◇
医療ドラマ【ドクターS】。
◇
それは今、
確かな軌道に乗った。
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そしてその中心には――
◇
燈由。
◇
子役から積み重ねた実力で、
すべてを納得させる存在。
◇
物語は、さらに加速する。
◇
次なる展開へと――。




