第94話 医療合否戦
オーディションから三日後。
燈由は、東京の自室でいつも通りの朝を迎えていた。
◇
「……静かですね」
◇
〈外的イベント、現在低下中〉
◇
(嵐の前の静けさですか)
〈可能性は高いです〉
◇
ベッドから起き上がり、カーテンを開ける。
柔らかな光が差し込む。
◇
「……結果はまだですか」
◇
〈本日中に通知される確率が高いです〉
◇
(微妙に落ち着きませんね)
◇
〈感情の揺らぎを検知〉
◇
「……否定はしません」
◇
◇
朝食を済ませ、ソファに座る。
◇
スマートフォンを手に取る。
◇
「……」
◇
通知なし。
◇
(気にすると来ないものです)
〈統計的に同意〉
◇
◇
そのとき。
◇
着信。
◇
画面に表示された名前。
◇
容子。
◇
「……来ましたね」
◇
〈結果通知の可能性:高〉
◇
通話を取る。
◇
「はい」
◇
『燈由ちゃん!今いい?』
◇
「大丈夫です」
◇
(声のトーンが高いですね)
〈ポジティブ傾向〉
◇
◇
『結果なんだけど――』
◇
わずかな間。
◇
「……はい」
◇
『合格!』
◇
◇
「……そうですか」
◇
(来ました)
〈確定成功〉
◇
『反応が薄い!もっと喜んで!?』
◇
「……嬉しいです」
◇
(表現が足りません)
〈改善の余地あり〉
◇
『もう!でも本当にすごいのよ!?』
◇
「ありがとうございます」
◇
◇
詳細が続く。
◇
『役は予定通り、研修医』
◇
『しかも準主役級!』
◇
(規模が拡大しています)
〈重要度:高〉
◇
『来週から本格的に稽古と医療指導入るから!』
◇
「わかりました」
◇
通話終了。
◇
◇
「……」
◇
静かな部屋。
◇
「……受かりましたね」
◇
〈おめでとうございます〉
◇
「ありがとうございます」
◇
(他人行儀ですね)
〈仕様です〉
◇
◇
その瞬間。
スマートフォンが再び震える。
◇
樹
『受かったな?』
◇
英隆
『顔に書いてあるレベルで分かる』
◇
「……なぜわかるんですか」
◇
返信。
◇
『勘だ』
『雰囲気』
◇
(雑です)
〈しかし的中〉
◇
「……合格しました」
◇
送信。
◇
即既読。
◇
『やっぱりな』
『当然だな』
◇
「……基準が高いです」
◇
(プレッシャーですね)
〈期待値上昇〉
◇
◇
午後。
芸能事務所。
◇
打ち合わせ。
◇
脚本が手渡される。
◇
「これが台本」
◇
「……分厚いですね」
◇
(物理的にも重いです)
〈情報量:多〉
◇
ページをめくる。
◇
専門用語の嵐。
◇
「……」
◇
(読めますが、理解が追いつきません)
〈補助可能〉
◇
「お願いします」
◇
〈医療用語データベース接続〉
◇
(便利ですね)
◇
◇
さらに。
◇
医療監修の医師が登場。
◇
「リアルを追求するので、かなり細かく指導します」
◇
「よろしくお願いします」
◇
(本格的です)
〈逃げ場なし〉
◇
◇
数日後。
◇
医療研修。
◇
大学病院。
◇
白衣を着る燈由。
◇
「……似合いませんね」
◇
〈非常に似合っています〉
◇
(評価が甘いです)
◇
医師が説明する。
◇
「これは基本動作です」
◇
器具の扱い。
所作。
◇
すべてが重要。
◇
「……難しいですね」
◇
〈習得可能〉
◇
(やるしかありません)
◇
◇
何度も練習。
◇
繰り返し。
◇
「……少し慣れてきました」
◇
〈習熟度上昇〉
◇
◇
そのとき。
◇
「おーい」
◇
振り向くと――
◇
樹と英隆。
◇
「……なぜここに」
◇
「見学」
◇
「興味本位だ」
◇
(自由ですね)
〈通常運転〉
◇
「白衣似合ってるな」
◇
「医者いけるんじゃないか?」
◇
「……役です」
◇
◇
軽口を交わしながらも、視線は真剣。
◇
「でも本当に大変そうだな」
◇
「責任が違う」
◇
「……はい」
◇
◇
改めて実感する。
◇
命を扱う仕事。
◇
それを“演じる”ということ。
◇
「……中途半端はできませんね」
◇
〈当然です〉
◇
◇
夜。
自室。
◇
台本を読み込む。
◇
何度も。
◇
「……」
◇
(難しい)
◇
〈しかし、やりがいがあります〉
◇
「……はい」
◇
ページを閉じる。
◇
深く息を吐く。
◇
「……やりますか」
◇
〈全力で〉
◇
「全力で」
◇
◇
新たな挑戦。
◇
医療ドラマ。
◇
それは燈由にとって、
これまでとは次元の違う試練。
◇
だが――
◇
彼女は止まらない。
◇
どんな困難でも、
冷静に、着実に、
そして少しだけ楽しみながら――
◇
乗り越えていく。
◇
物語は、さらに加速する。
◇
次なる舞台へと。




