第91話 仏校波乱続
フランス滞在八日目。
前日の“頂上戦”の余韻は、まだ校内に色濃く残っていた。
◇
朝。
燈由が寮の食堂へ向かうと――
◇
「来た!」
「チャンピオン!」
◇
(称号が増えていますね)
〈不本意な進化です〉
◇
「……やめてください」
冷静に制止するが、効果は薄い。
◇
「昨日の試合、完璧だった!」
「動画もう再生数すごいよ!」
◇
(やはりですか)
〈拡散規模、拡大中〉
◇
スマートフォンを確認。
◇
通知の嵐。
◇
「……後で見ます」
◇
◇
そのとき。
◇
静かに近づいてくる影。
◇
「おはよう」
◇
振り向くと、そこにはルイ・アルベール。
◇
「おはようございます」
◇
「昨日はいい勝負だった」
◇
「ありがとうございます」
◇
短い会話。
だが――
◇
「リベンジしたい」
◇
(来ましたね)
〈予測済みです〉
◇
「……何をですか」
◇
「今回は違う形で」
◇
(嫌な予感しかしません)
〈同意します〉
◇
「午後、時間はあるか?」
◇
「……一応」
◇
「では決まりだ」
◇
(強制イベントですね)
〈回避困難〉
◇
◇
午前の授業。
◇
だが、集中できない理由が一つ。
◇
視線。
◇
(増えています)
〈注目度、さらに上昇〉
◇
「……」
ため息をつく。
◇
◇
昼休み。
◇
再び中庭は人だかり。
◇
「次は何するの!?」
「また勝負!?」
◇
(期待されています)
〈過剰です〉
◇
◇
そして午後。
◇
指定された場所は――
体育館。
◇
(これは)
〈身体能力系です〉
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中に入ると、すでに準備が整っていた。
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簡易的な障害物コース。
◇
「……」
◇
「今回はこれだ」
ルイ・アルベールが説明する。
◇
「総合運動能力テスト」
◇
(完全に競技化しています)
〈観客多数〉
◇
観客席には生徒たち。
完全にイベント。
◇
「ルールは単純」
「このコースをどれだけ早く正確にクリアできるか」
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(嫌いではありません)
〈勝率、高〉
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「……わかりました」
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スタート位置に立つ二人。
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緊張感。
◇
「……」
◇
(集中します)
〈最適化開始〉
◇
スタート。
◇
走る。
跳ぶ。
避ける。
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燈由の動きは無駄がない。
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観客が息を呑む。
◇
ルイ・アルベールも速い。
だが――
◇
わずかな差。
◇
ゴール。
◇
結果――
燈由の勝利。
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歓声。
◇
「また勝った!」
「すごすぎる!」
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(連勝ですね)
〈連続勝利記録更新〉
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ルイ・アルベールが息を整えながら笑う。
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「……完敗だ」
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「いえ、僅差です」
◇
「その僅差が埋まらない」
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(ストイックですね)
〈向上心が高いです〉
◇
◇
夕方。
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校舎の屋上。
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二人で並んで景色を眺める。
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「君は面白い」
ルイ・アルベールが言う。
◇
「そうですか」
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「普通ではない」
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(よく言われます)
〈標準評価です〉
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「だが、それがいい」
◇
「……ありがとうございます」
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少しだけ、間が空く。
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「帰国するのか?」
◇
「はい」
◇
「残念だ」
◇
(素直ですね)
〈好感度上昇〉
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「また来る機会があれば」
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「そのときは、もう一度勝負だ」
◇
「……はい」
◇
◇
夜。
寮の部屋。
◇
ベッドに腰掛ける。
◇
「……また増えましたね」
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スマートフォンの通知。
◇
〈注目度、さらに拡大〉
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「帰国後が大変です」
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〈対応策を検討します〉
◇
(お願いします)
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そのとき。
メッセージ。
◇
樹
『運動でも勝ってるってどういうことだ』
◇
英隆
『もう何でもありだな』
◇
「……否定はしません」
◇
返信。
◇
◇
窓の外。
静かな夜。
◇
「……あと数日ですか」
◇
〈残り日数、五日〉
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「短いですね」
◇
〈充実しています〉
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「……そうですね」
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小さく微笑む。
◇
異国での時間。
非日常の連続。
◇
だがそれは――
確実に燈由の中に蓄積されていた。
◇
経験。
出会い。
そして――
新たな可能性。
◇
「……もう少し」
◇
「楽しみましょう」
◇
〈了解しました、マスター〉
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静かな夜の中。
◇
誰にも聞こえない声が、優しく響く。
◇
フランスでの物語は、いよいよ終盤へ。
◇
だが――
その終わりは、新たな始まりでもあるのだった。




