第90話 仏校頂上戦
フランス滞在七日目。
燈由の周囲は、もはや「交換留学生」という枠を完全に逸脱していた。
◇
朝。
寮の食堂。
◇
「Bonjour!」
◇
「……ボンジュール」
自然に返せるようになった挨拶。
だが、その直後――
◇
「今日、決まるらしいよ!」
「ついにやるんだって!」
◇
(何がですか)
〈情報収集中〉
◇
ざわつく食堂。
視線がこちらに集まる。
◇
「……何かありますね」
◇
〈高確率でマスター関連です〉
◇
◇
その予感は的中する。
◇
午前の授業後。
呼び出し。
◇
教師たちが並ぶ一室。
◇
「急で申し訳ない」
◇
(確定ですね)
〈確定です〉
◇
「本校の代表生徒との“交流試合”をお願いしたい」
◇
「……試合?」
◇
「総合形式だ」
「学力、表現、判断力――複合的なもの」
◇
(総合格闘技みたいな言い方ですね)
〈概ね同意〉
◇
「なぜ私が」
◇
教師は苦笑する。
◇
「君が最も適任だからだ」
◇
(理由が雑です)
〈評価に基づいています〉
◇
「……相手は?」
◇
「本校トップの生徒だ」
◇
◇
その名は――
ルイ・アルベール。
◇
(いかにも強そうです)
〈データ収集中〉
◇
◇
午後。
講堂。
◇
観客で埋め尽くされている。
完全にイベント化していた。
◇
(規模が大きすぎます)
〈収容率、ほぼ100%〉
◇
壇上に上がる燈由。
◇
対面するのは、長身の男子生徒。
落ち着いた雰囲気。
明らかに只者ではない。
◇
「君が燈由か」
◇
「はい」
◇
「楽しみにしていた」
◇
(好戦的ですね)
〈実力者の可能性〉
◇
◇
試合開始。
◇
第一ラウンド。
学力。
◇
問題が提示される。
複雑な論理問題。
◇
(……)
◇
〈最適解提示可能〉
◇
(自力で行きます)
◇
ペンが走る。
◇
数分後――
◇
「解答」
◇
ほぼ同時。
◇
結果――
引き分け。
◇
「ほう」
ルイ・アルベールがわずかに笑う。
◇
◇
第二ラウンド。
表現。
◇
与えられたテーマで即興演技。
◇
(得意分野ですね)
〈優位です〉
◇
燈由の演技。
空気を変える。
◇
観客が引き込まれる。
◇
対するルイ・アルベールも、見事な表現。
◇
結果――
僅差で燈由の勝利。
◇
拍手。
◇
◇
第三ラウンド。
判断力。
◇
複数の状況を瞬時に分析し、最適解を導く。
◇
(これは)
◇
〈支援可能〉
◇
(お願いします)
◇
情報が整理される。
◇
選択。
◇
「こちらです」
◇
結果――
勝利。
◇
◇
試合終了。
◇
総合結果。
◇
燈由の勝利。
◇
静寂。
◇
そして――
◇
大歓声。
◇
「すごい!!」
「本当に最強だ!」
◇
(大げさです)
〈事実に基づく評価〉
◇
◇
ルイ・アルベールが歩み寄る。
◇
「見事だった」
◇
「ありがとうございます」
◇
「君は本当に中学生か?」
◇
「はい」
◇
「信じがたいな」
◇
(よく言われます)
〈通常反応です〉
◇
◇
夕方。
中庭。
◇
一息つく燈由。
◇
「……終わりました」
◇
〈高負荷イベント終了〉
◇
「疲れました」
◇
そのとき。
スマートフォンが震える。
◇
樹
『頂上決戦してるって聞いたぞ』
◇
英隆
『勝ったか?』
◇
「……」
少し考えて。
◇
『一応』
◇
返信。
◇
すぐに返ってくる。
◇
『一応じゃないだろ』
『絶対だろ』
◇
「……正確ですね」
◇
〈分析力が高いです〉
◇
◇
夜。
寮の部屋。
◇
ベッドに倒れ込む。
◇
「……濃すぎます」
◇
〈同意します〉
◇
「ですが」
◇
ゆっくりと目を閉じる。
◇
「悪くありません」
◇
〈肯定的結論〉
◇
異国の地。
連続する非日常。
◇
それでも――
燈由は変わらない。
◇
冷静に。
確実に。
そして少しだけ楽しみながら。
◇
そのすべてを乗り越えていく。
◇
フランスでの物語は、
まだ終わらない。
◇
むしろ――
ここからさらに加速していくのだった。




