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スキルを駆使して人生勝ち組っ!R  作者: 此花サギリ
小学生

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第84話 春ドラマの話

 四月。


 やわらかな春風に乗って、桜の花びらが静かに舞い落ちる。


 東京(とうきょう)郊外に位置する名門、星城学園(せいじょうがくえん)中等部は、新学期初日から例年とは比べものにならないほどのざわめきに包まれていた。


 その理由は明白だった。


 「見た!? 昨日の新ドラマ!」


 「見た見た! あの新人弁護士役、めちゃくちゃ良かったよね!」


 「ていうか絶対燈由(ひより)だよね!?」


 廊下の至る所で同じ話題が飛び交う。


 視線が一斉に集まる先――


 三年生へと進級した、


 燈由(ひより)


 ◇


 「……静かにしてください」


 本人は、いつもと変わらぬ落ち着いた声音でそう言った。


 だが、その一言で収まるような騒ぎではない。


 「法廷シーンすごかった!」


 「台詞、早口なのに全部聞き取れた!」


 「最後の反論、鳥肌立ったんだけど!」


 ◇


 この春から放送が始まった弁護士ドラマ。


 新人弁護士として事件に挑む若き主人公――それを演じているのが燈由(ひより)だ。


 冷静で知的。


 論理的で無駄のない言葉運び。


 そして決定的な一言で相手を追い詰める鋭さ。


 普段の燈由(ひより)の延長線にありながら、それ以上に“完成された存在”として画面に映っていた。


 ◇


 「騒ぎすぎだ」


 低く落ち着いた声が、空気を切り裂く。


 振り返るとそこにいたのは――


 英隆(ひでたか)


 そして、


 (たつき)


 ◇


 「……来ましたか」


 わずかに眉を寄せる燈由(ひより)


 「来た」


 英隆(ひでたか)


 「見に来た」


 (たつき)


 ◇


 二人はこの春、同じ敷地内の高等部へ進学している。


 つまり距離的にはほぼ変化なし。


 逃げ場はない。


 「……なぜわざわざ中等部に」


 「気になるだろ」


 「話題の人物だしな」


 「帰ってください」


 即答だった。


 ◇


 「それより」


 (たつき)がにやりと笑う。


 「見たぞ、昨日の」


 「……そうですか」


 「見た」


 英隆(ひでたか)も静かに頷く。


 ◇


 「感想は?」


 ほんのわずかに、構えるような間。


 だが返ってきた言葉は――


 「固いな」


 英隆(ひでたか)


 「カッチカチ」


 (たつき)


 ◇


 「法廷ですから」


 間髪入れずに返す燈由(ひより)


 「いやそういう意味じゃなくて」


 (たつき)が手振りを交えて続ける。


 「姿勢、声、視線、全部が“できる弁護士”すぎる」


 「役作りです」


 「完成度が高すぎるって話だ」


 ◇


 「でも」


 英隆(ひでたか)がわずかに口元を緩める。


 「説得力はあった」


 「……本当ですか?」


 「論破される側の気分になった」


 (たつき)


 ◇


 周囲の生徒たちも一斉に頷く。


 「それそれ!」


 「完全に追い詰められてたよね!」


 「相手役の人ちょっとかわいそうだった!」


 ◇


 「それは脚本です」


 冷静にツッコむ燈由(ひより)


 ◇


 昼休み。


 中庭。


 三人はベンチに並んで座る。


 桜の花びらが、ひらりと落ちてくる。


 「撮影はどうだ」


 英隆(ひでたか)


 「大変です」


 迷いなく答える燈由(ひより)


 「専門用語が多くて」


 「法律用語とかか」


 「はい。噛むと台無しなので」


 ◇


 「それでもやるのか」


 「仕事ですから」


 即答。


 だが、そのあと少しだけ間が空く。


 「……でも」


 「でも?」


 (たつき)


 ◇


 「楽しいです」


 小さく、しかしはっきりとした声。


 ◇


 「ほう」


 英隆(ひでたか)


 「現場の緊張感とか」


 「一つのシーンを作るために全員が動く感じとか」


 「そういうのが、好きです」


 ◇


 一瞬、沈黙が落ちる。


 その言葉は、普段の淡々とした彼女からは少しだけ温度を感じるものだった。


 ◇


 「じゃあ」


 (たつき)がにやりと笑う。


 「俺たちも出るか?」


 「やめてください」


 即答。


 ◇


 「俺、依頼人」


 「お前は検事だな」


 英隆(ひでたか)


 「絶対混乱する」


 「むしろ話が進まない」


 ◇


 「……確実にコメディになります」


 燈由(ひより)


 「今でも十分コメディだろ」


 ◇


 三人の間に、軽い笑いが流れる。


 ◇


 そのとき。


 「燈由(ひより)さん!」


 校門の方から声が飛ぶ。


 撮影スタッフが手を振っていた。


 ◇


 「迎えか」


 (たつき)


 「はい」


 立ち上がる燈由(ひより)


 ◇


 「行ってきます」


 「おう」


 「頑張れ」


 ◇


 数歩進み、ふと足を止める。


 そして振り返る。


 「……あの」


 「なんだ」


 「昨日の、ちゃんと見てくれましたか?」


 ◇


 一瞬の沈黙。


 だがすぐに。


 「当然だ」


 英隆(ひでたか)


 「録画もした」


 (たつき)


 ◇


 「……そうですか」


 わずかに肩の力が抜ける。


 ◇


 「安心しろ」


 英隆(ひでたか)


 「ちゃんとカッコよかった」


 「普通に見入った」


 (たつき)


 ◇


 「……ありがとうございます」


 ほんの少しだけ、照れたように視線を逸らす燈由(ひより)


 ◇


 「ただし」


 (たつき)


 「普段とのギャップがひどい」


 「余計です」


 即反撃。


 ◇


 撮影車へと乗り込むその背中は、


 もう“ただの中学生”ではない。


 だが同時に――


 確かに、ここにいる一人の生徒でもある。


 ◇


 「なあ」


 (たつき)がぽつりと呟く。


 「すごいよな」


 「ああ」


 英隆(ひでたか)は短く頷く。


 ◇


 「同じ年で、あそこまでやるか普通」


 「普通ではない」


 ◇


 桜が舞う。


 春風が抜ける。


 新しい学年。


 新しい舞台。


 そして変わらない距離感。


 星城学園(せいじょうがくえん)の春は、


 少しだけ誇らしく、


 そして相変わらず騒がしく、


 ゆっくりと進んでいくのだった。

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