第64話 春嵐の春休み大作戦!
春の風がやわらかく吹き抜ける。
東京の桜は咲き始め、河川敷の景色は一気に華やいでいた。
「ついに春休みか……。」
私は星城学園の校門前で大きく伸びをする。
だが周囲が浮かれていても、私の頭の中は別のことでいっぱいだ。
インスタントダンジョン。
破壊不能の私専用スキル。
内部では外の時間が停止する。
つまり春休みといえど、現実時間を一秒も消費せずに修行が可能。
〈マスター、春休み特別強化期間に入りますか?〉
イリスの声が淡々と告げる。
「もちろんだ。Very Hard完全攻略を目指す。」
〈意欲的ですね、マスター。桜より目が輝いています〉
「比較対象がおかしい。」
◇
河川敷。
春の陽気。
だが発動と同時に世界は凍る。
舞い落ちる桜の花びらが空中で停止。
時間停止。
インスタントダンジョン起動。
転移。
氷の要塞都市。
「春休みなのに寒い!」
〈演出です、マスター〉
「だからその演出いらない。」
◇
第一層。
氷騎士と術師。
もはやウォーミングアップ。
柱を蹴り、術師を順番に撃破。
騎士の関節を砕き、連続撃破。
〈第一層突破。戦闘効率向上確認〉
「春休み初日から好調だな。」
◇
第二層。
氷獣軍団。
狼、熊、鷹。
春なのに冬動物フルコース。
熊の突進を横転回避。
狼を掴んで熊に投げつける。
鷹を空中キャッチ。
「三点セット終了!」
〈動物園的な発言は控えてください〉
撃破。
◇
第三層。
氷将軍二体。
以前は苦戦した相手。
だが今は違う。
動きが見える。
片方を柱に衝突させ、もう片方を膝裏から崩す。
核へ連撃。
破壊。
残り一体も同様に処理。
〈第三層突破。成長率安定〉
「春休み中にHardは完全安定させたいな。」
◇
第四層。
氷王近衛型。
相変わらず速い。
だが以前より余裕がある。
攻撃後の隙にカウンター。
連撃。
粉砕。
「よし、順調。」
〈体力残量七四%〉
「いい感じだ。」
◇
第五層。
氷王型。
巨大。
威圧。
だが逃げない。
戦闘開始。
氷嵐。
突進。
衝撃波。
私は跳び、滑り、転がる。
春休みだというのに汗だく。
「桜見物してる場合じゃないな!」
〈集中してください、マスター〉
核に亀裂。
さらに連撃。
だが完全破壊までは届かない。
吹き飛ばされ、強制排出。
◇
河川敷。
時間再開。
桜の花びらがひらりと落ちる。
「惜しい……。」
〈損傷率六二%。前回より向上〉
「春休み中に決める。」
◇
数日後。
東京郊外の静かな公園。
家族連れが花見をしている横で、私はまた世界を止める。
〈マスター、連日挑戦は体力管理を推奨〉
「大丈夫だ。」
転移。
Very Hard再挑戦。
第一層から高速突破。
第二層も安定。
第三層、無傷。
第四層、短時間撃破。
成長している。
第五層。
氷王型が唸る。
「今日は倒す。」
攻撃を読み切る。
氷嵐を最小動作で回避。
核へ集中。
連撃。
亀裂拡大。
怒号。
全力の拳。
ドゴン。
氷王型が崩壊。
静寂。
〈Very Hard完全攻略達成、おめでとうございますマスター〉
私はその場に座り込む。
「やった……春休み最高の成果だ。」
◇
転移解除。
公園。
花びらが落ちる。
外では一秒も経っていない。
だが私は何十時間も戦ってきた。
〈能力値総合、初期比三・一倍〉
「春休みでここまで伸びるとは。」
◇
星城学園の新学期準備日。
私は教室で静かに座る。
誰も知らない。
この春休みの裏で、私はVery Hardを制覇したことを。
〈次段階Extraが解放されました〉
「春休み終わったのに新課題出すな。」
〈仕様です〉
笑う。
桜が舞う。
春休みは終わる。
だがインスタントダンジョンは終わらない。
破壊不能。
私専用。
外の時間は止まり続ける。
「よし、次はExtraだ。」
春の風が吹く。
私は静かに拳を握る。
この春休みは、確実に私を強くした。
そして新学期。
誰よりも成長した状態で、私は日常へ戻る。
インスタントダンジョンと共に。




