第63話 インスタントダンジョン大作戦!
冬の東京は今日も寒い。
私は河川敷に立ち、手袋をはめたまま深呼吸をした。
「よし、行くか。」
その瞬間――世界が止まる。
空中で雪がピタリと静止し、風も音も完全停止。
そう、インスタントダンジョン発動である。
これは破壊不能の私専用スキル。
内部に入れるのは私だけ。
そして何より、内部では外の時間が完全停止する。
授業前でも、放課後でも、テスト直前でも、外では一秒も進まない。
なんという便利機能。
〈マスター、インスタントダンジョン起動確認。現在の安定攻略難易度はHard。次段階Very Hardは未踏破です〉
イリスの声がいつものように冷静に響く。
「今日はVery Hardに挑戦する。」
〈成功率四九%。心拍数上昇中。ですが目が輝いています〉
「やる気に満ちていると言え。」
◇
転移。
視界が切り替わり、氷の要塞都市へ。
Very Hard専用マップである。
無駄に広い。
無駄に壮大。
そして無駄に寒い。
「もうちょっと暖房効かせられないのか?」
〈演出です、マスター〉
「演出いる?」
◇
第一層。
氷騎士八体、氷術師三体。
いきなり多い。
「ちょっと待て、Hardの時より明らかに増えてるぞ!」
〈Very Hardですので〉
正論で殴るな。
戦闘開始。
騎士が一斉突進。
術師が詠唱。
「詠唱早っ!」
とりあえず柱を蹴って上空へ。
術師の頭を順番に叩く。
ポコン、ポコン、ポコン。
ちょっと爽快。
騎士が下で待ち構える。
着地と同時に包囲。
「うおっ、多い!」
だが私はHard踏破者である。
関節を狙い、順番に砕く。
連続撃破。
最後の一体を倒し、ドヤ顔。
〈第一層突破。マスターのドヤ指数上昇〉
「数値化するな。」
◇
第二層。
氷獣ミックスパック。
狼、熊、鷹。
まるで動物園。
「いらっしゃいませーって言えばいいのか?」
〈戦闘を推奨します〉
熊の突進。
受け止めようとして吹き飛ぶ。
「重っ!」
〈推定体重一・五トン〉
「聞いてない!」
狼が足に噛みつく。
鷹が頭を狙う。
完全にサンドイッチ。
だが壁を利用し、熊を転倒させ、狼を蹴り飛ばし、鷹をキャッチして地面に叩きつける。
熊の核へ全力パンチ。
粉砕。
「よし、熊鍋完成!」
〈食用ではありません〉
◇
第三層。
氷将軍二体。
「倍になってるじゃないか!」
〈Very Hardですので〉
その説明便利すぎるだろ。
二体同時攻撃。
片方の剣を受け、もう片方に蹴られる。
「連携やめろ!」
だが学習済み。
片方を柱にぶつけ、動きを止める。
もう片方に集中。
膝裏破壊。
核に連撃。
撃破。
残り一体は怒り狂う。
「怒るな怒るな、寒いから余計怖い!」
何とか撃破。
息切れ。
〈第三層突破。体力残量六二%〉
「意外と余裕あるな。」
◇
第四層。
氷王近衛型。
シュッ。
消えた。
次の瞬間、腹に一撃。
「速っ!」
〈音速近似〉
「近似いらん!」
何度も吹き飛ばされる。
だが動きを観察。
攻撃後に一瞬止まる。
そこへカウンター。
連続パンチ。
「これでどうだ!」
粉砕。
その場に座り込む。
「ちょっと水分補給タイム。」
〈内部では脱水も再現されます〉
リアルすぎる。
◇
最終第五層。
氷王型。
でかい。
とにかくでかい。
「城よりでかくないか?」
〈気のせいではありません〉
戦闘開始。
一撃で地面が割れる。
私は跳ね回り、避ける。
「当たったら絶対痛いやつ!」
〈間違いなく痛いです〉
核部に微細な光。
そこだ。
だが近づくたびに氷嵐。
顔面直撃。
「冷たっ!」
それでも突っ込む。
連撃。
亀裂。
さらに連撃。
「Very Hard攻略者の意地を見せろ!」
最後の渾身パンチ。
ドゴン!
亀裂が広がる。
だが完全破壊までは至らない。
衝撃波で吹き飛ばされる。
視界が白く染まる。
◇
河川敷。
時間が再開。
雪が落ちる。
わずか一秒未満。
私は膝をつく。
「……惜しかった。」
〈Very Hard、第五層氷王型に四七%損傷。次回攻略可能性上昇〉
「半分近く削ったなら上出来だろ?」
〈マスターの楽観指数が高いです〉
「褒めてるのか?」
◇
星城学園の教室。
私は何食わぬ顔で席に座る。
周囲は普通に時間が流れている。
だが私はその裏で、何時間も戦ってきた。
〈能力値総合、初期比二・八倍〉
「よし、筋トレいらないな。」
〈現実の筋トレも推奨します〉
厳しい。
◇
放課後。
再び河川敷。
拳を握る。
「次は倒す。」
〈Very Hard完全攻略まであと一歩です、マスター〉
インスタントダンジョンは破壊不能。
私専用。
外の時間は止まる。
何度でも挑める。
だから焦らない。
そして今日は――ちょっと楽しかった。
「よし、もう一回行くか。」
〈やる気満々ですね〉
世界が再び止まる。
雪が空中で静止。
私は笑いながら、氷の要塞都市へ飛び込んだ。
Very Hard完全攻略の日は、きっと近い。
たぶん。




