第61話 白銀の招待状 ―― 冬空に響く抜擢の鐘
粉雪が舞う冬の朝。
星城学園の校庭は、うっすらと白く染まっていた。
吐く息が白い。
私はコートの襟を立てながら校門をくぐる。
国家文化防災網の運用は安定し、熊本城、姫路城、大阪城、松本城、名古屋城、そして首里城の監視体制は常時稼働している。
そんな折だった。
ポケットの端末が震える。
表示された名前は、桐生誠一。
「もしもし。」
『君に話がある。至急、東京へ来られるか。』
低い声だが、どこか含みがある。
「了解しました。」
◇
午後。
雪の残る歩道を踏みしめながら、私は東京の放送局ビルへ向かった。
国家庁舎ではない。
テレビ局だ。
案内された会議室には、桐生誠一のほかに、スーツ姿の男がいた。
名刺を差し出す。
「東堂誠。ドラマ制作部だ。」
私は目を瞬かせる。
「ドラマ、ですか。」
東堂誠は微笑む。
「国家文化防災網を題材にした連続ドラマを制作する。君をモデルにした主人公だ。」
言葉が一瞬、理解を拒んだ。
「……モデル?」
桐生誠一が頷く。
「君自身が出演する案が出ている。」
沈黙。
雪の降る音が聞こえる気がした。
◇
星城学園に戻ると、研究棟に仲間が集まっていた。
「ドラマ主演!?」
木村拓真が椅子から立ち上がる。
「現実味なさすぎだろ。」
佐伯美咲は目を輝かせる。
「でも、防災の啓発になるよ。」
綾小路英隆は腕を組む。
「広報戦略としては最適だ。」
近衛樹が静かに言う。
「だが、覚悟が要る。」
私は窓の外を見る。
白銀の世界。
守るための活動が、物語になる。
それは光でもあり、影でもある。
『マスター。』
イリスの声が響く。
『出演による認知度上昇は、文化防災網の予算安定に寄与します。』
「確率は。」
『成功率七八%。炎上リスク一九%。』
私は小さく笑う。
「悪くない。」
◇
数日後、正式発表。
ドラマタイトルは『白銀の守護者』。
舞台は東京と各地の城郭。
第一話は姫路城の震災想定から始まる。
制作発表会見。
フラッシュが瞬く。
「主演の心境は?」
私はマイクを握る。
「物語ですが、守る想いは本物です。」
静かな拍手。
◇
撮影初日。
ロケ地は雪化粧の松本城。
凍える風。
カメラが回る。
台詞を口にする。
「守るのは、過去じゃない。未来だ。」
その言葉は、演技ではなく、私自身の信念だった。
監督の東堂誠が声を上げる。
「カット! いい目だ。」
◇
撮影の合間にも、実際の防災網は稼働している。
『マスター、熊本城で小規模地震。』
私はスタッフに断りを入れ、端末を開く。
迅速に状況を把握。
危険なし。
安堵の息。
東堂誠が驚く。
「本当にやっているんだな。」
「はい。」
ドラマは虚構だが、現実は止まらない。
◇
夜。
東京のスタジオ屋上。
雪が舞う。
『マスター、視聴率予測九%。話題性上昇中。』
イリスが告げる。
私は空を見上げる。
白い息。
ドラマに出ることは、自己顕示ではない。
文化財防災の意義を伝えるため。
そして、いずれ自衛官として立つ未来への布石。
知名度は責任だ。
◇
放送開始日。
星城学園の教室で皆が画面を見つめる。
雪の姫路城。
揺れる石垣。
奔走する主人公。
エンドロールに流れる自分の名。
静まり返る教室。
やがて拍手が起こる。
「すげえ……。」
だが私は冷静だった。
始まったばかりだ。
◇
放送後、文化財保護寄付金は増加。
問い合わせ件数も倍増。
桐生誠一が言う。
「広報として成功だ。」
私は頷く。
だが同時に、覚悟を強くする。
光が強ければ、影も濃い。
批判もあるだろう。
それでも進む。
◇
雪の降る夜。
星城学園の屋上。
街灯に照らされた白銀の世界。
『マスター。』
「何だ。」
『あなたの道は拡張しました。文化守護者から国家守護者へ。』
私は静かに答える。
「まだ途中だ。」
ドラマはきっかけに過ぎない。
本当の使命は、守ること。
いずれ制服を着て現場に立つ。
その日まで、技術を磨き、心を鍛える。
白銀の空の下、私は未来を見据える。
物語の主人公ではなく、現実の守護者として。
冬の静寂の中、決意はより深く、強く、胸に刻まれていった。




