第59話 国家守護の誓い
国家プロジェクト発足から三か月。
星城学園の正門前に、静かな緊張が漂っていた。
黒塗りの公用車が滑るように停まり、降り立ったのは桐生誠一。
国家文化財防災計画の責任者である彼が、直々に視察へ訪れたのだ。
「現場を見せてもらおう。」
低く落ち着いた声。
私は一礼し、校舎裏の研究棟へ案内する。
中では、木村拓真が三次元地形統合システムを操作し、佐伯美咲が観光動線と避難経路を同時解析していた。
綾小路英隆は国際文化財保護基準との整合性を確認し、近衛樹は警備と誘導の実地モデルを構築している。
大型モニターに映し出されるのは、熊本城、姫路城、大阪城、松本城の統合防災ネットワーク。
私は説明する。
「単体防衛ではなく、全国城郭の連携即応体制です。災害発生時、損傷データを即時共有し、最適な復旧順を算出します。」
その瞬間、脳裏に声が響く。
『誤差補正完了。マスター、精度九九・一二%。』
イリス。
私は微かに頷く。
「南側石垣の再解析を。」
『了解、マスター。』
桐生誠一が静かに言った。
「中学生とは思えないな。」
「年齢ではなく、覚悟で動いています。」
私は迷わず答えた。
◇
だが国家事業は甘くない。
東京で行われた予算審査会議では、一部議員が反対姿勢を見せた。
「未成年に国家インフラを任せるのか。」
私は資料を提示する。
過去三年の防災成功率。
松本城地震対応の即応データ。
和歌山城台風事前排水制御の結果。
沈黙が会議室を包む。
「我々は文化を守り、命を守る技術を提供しています。」
その言葉に、桐生誠一が続けた。
「結果が証明している。」
やがて予算は可決された。
◇
春。
長野県の松本城。
白と黒の天守が、雪解けの空に映える。
現地実証訓練。
突発的地震を想定した即応演習だ。
警報が鳴る。
「被害予測表示!」
木村拓真が叫ぶ。
『南西石垣、崩落危険度上昇。』
イリスの解析が瞬時に展開される。
私は即座に判断する。
「立入規制、二次災害防止優先。」
近衛樹が警備班に連絡。
佐伯美咲が観光客誘導経路を修正。
訓練は成功。
だが私は安堵しなかった。
守れたのは、まだ小さな範囲だ。
◇
星城学園の屋上。
夕暮れの東京。
綾小路英隆が隣に立つ。
「君は最終的にどこへ向かう。」
「守る現場へ。」
「自衛隊か。」
私は頷く。
幼い頃から抱いていた決意。
技術だけでは守りきれない瞬間がある。
そのとき、自分の身体で立てる人間になる。
それが目標だ。
『マスター、進路想定を更新しました。防衛大学校合格確率八七%。』
イリスの声。
私は小さく笑う。
「まだ足りない。」
◇
夏。
大型台風が和歌山県沿岸を直撃。
対象は和歌山城。
暴風雨の中、遠隔監視が続く。
排水状況、石垣傾斜、風圧計測。
『排水流量増大。危険域接近。』
「補助排水ルート開放。」
職員との連携で迅速に対応。
夜明け、被害は最小限で抑えられた。
後日、和歌山県知事の西条直哉が会見で語る。
「若き防災チームに感謝する。」
その映像を星城学園の教室で見ながら、私は静かに拳を握った。
守れた。
だが、これで終わりではない。
◇
秋。
国家文化財防災ネットワークは正式に全国展開を開始。
熊本城、姫路城、大阪城、松本城、名古屋城。
データは繋がり、災害発生時の即応時間は従来比四割短縮。
桐生誠一が私に言う。
「いずれ君は制服を着る。その時も、この網は国を支える。」
私は深く頷く。
技術は武器だ。
だが武器を持つ者の覚悟がなければ意味がない。
◇
冬。
冷たい風が吹く星城学園の屋上。
遠くに見える東京の灯り。
『マスター。』
「何だ。」
『あなたの目標は明確です。国家防衛への道。』
「文化も、命も、国も守る。」
その言葉は静かだが揺るがない。
いつか自衛官として現場に立つ日。
災害派遣か、防衛任務か。
その時、今日まで築いた技術と経験が必ず役立つ。
私は夜空を見上げる。
星が瞬く。
星城学園から始まった小さな挑戦は、いま国家を支える柱へと育ちつつある。
だが道は続く。
さらに強く。
さらに速く。
守る力を磨き続ける。
文化財を守る少年は、やがて国を守る防人へと成長する。
その未来を胸に、私は静かに歩みを進めるのだった。




