第58話 百年後へ
劇場版の成功から数日後。
ニュース各局が連日取り上げる中、私は改めて次の段階を見据えていた。
舞台挨拶で回った東京、大阪府、兵庫県。
どの会場も満席だった。
だが、私の視線は常に次へ向いている。
◇
星城学園の生徒会室。
机の上に並ぶのは、劇場版『CASTLE NEXT』の興行データ。
姫路城AR連動企画の観光動員数。
SEIJOU NEXTとのコラボ売上推移。
木村拓真が感心したように言う。
「全部右肩上がりとか、意味わかんねえな。」
「一過性じゃない。」
私はグラフを拡大する。
「教育機関との提携申請が増えてる。」
綾小路英隆が頷く。
「文化と教育の融合。そこに価値があると認識されたわけだ。」
だが、そのとき。
生徒会室の電話が鳴った。
受話器を取った近衛樹が目を丸くする。
「……え? 防衛関連?」
空気が一瞬で変わる。
◇
数日後。
東京の霞が関地区にある庁舎。
通された会議室には、国の担当官、桐生誠一の姿があった。
「君が燈由か。」
「はい。」
机の上には、劇場版のパンフレットとAR技術資料。
桐生誠一がゆっくり口を開く。
「我々は文化財保護と災害対応を同時に強化したいと考えている。」
映し出されたのは、震災時の城郭被害映像。
「ARによる三次元記録技術を、国家規模で活用できないか。」
私は息を呑む。
国家プロジェクト。
口にしたばかりの言葉が、現実味を帯びる。
「できます。」
即答だった。
◇
星城学園に戻り、緊急ミーティング。
「国レベルかよ……。」
木村拓真が天井を仰ぐ。
「責任の重さが違う。」
佐伯美咲が真剣な顔をする。
私は言う。
「でも本質は同じ。守るための技術。」
綾小路英隆が静かに言った。
「君の将来像にも近づくな。」
その言葉に、一瞬だけ胸が高鳴る。
将来。
私はいつか、自衛の道へ進む。
守る側に立つと決めている。
◇
国家実証実験第一弾の対象は、熊本城。
過去の震災被害を踏まえ、三次元完全記録とAR復元を行う。
現地、熊本県。
崩れた石垣の補修跡。
職人の姿。
私は現場を見つめる。
「記録開始。」
ドローンが上空を旋回。
スキャンデータが蓄積される。
『誤差補正中。』
イリスが解析を進める。
木村拓真がモニターを確認する。
「精度やばいな。」
「未来に残す。」
今この瞬間を、百年後へ。
◇
夜、熊本城を見上げる。
ライトアップされた天守。
私は小さく呟く。
「守るって、こういうことだ。」
声優として叫んだ台詞が、現実と重なる。
◇
東京に戻ると、記者会見。
桐生誠一が発表する。
「文化財保護デジタル化計画、始動。」
隣に立つ私。
フラッシュが光る。
質問が飛ぶ。
「中学生が中心なのか?」
「責任は?」
私はマイクを握る。
「年齢ではなく、覚悟で動いています。」
静まり返る会場。
その言葉は、飾りではない。
◇
星城学園の屋上。
夜風。
遠くに広がる東京の夜景。
『マスター、国家プロジェクト正式承認。』
「そう。」
私は空を見上げる。
大阪城。
姫路城。
熊本城。
繋がっていく。
文化を守る網。
やがて、それは国防とも繋がる。
私は静かに決意する。
「いつか、制服を着る。」
守る側として。
技術だけでなく、身体も、意志も。
星城学園から始まった物語は、いま国家規模へ広がった。
だが、終わりではない。
もっと強くなる。
もっと守れる力を持つ。
夜空に輝く星を見つめながら、私は未来へと歩み続けると誓った。




