第57話 CASTLE NEXT
世界同時配信。
その言葉を口にした瞬間から、歯車は再び加速し始めた。
アニメ『CASTLE NEXT』は、東京都と大阪府での放送後、国内配信サイトでランキング一位を獲得。海外のアニメフォーラムでも話題になり始めていた。
ある日の放課後、星城学園の生徒会室。
モニターに映し出されたのは、オンライン会議の画面。
接続先はアメリカ・ロサンゼルスを拠点とする配信企業、オーロラ・ストリーム社。
代表のエミリー・カーターが笑顔で手を振る。
「あなたが星城学園の燈由?」
「はい。」
英語で応じると、隣で木村拓真が小声で驚く。
「普通に喋ってる……」
『マスター、発音良好。』
イリスが即座に補足する。
今回の会議の目的は明確。
『CASTLE NEXT』の世界同時配信契約。
エミリー・カーターが言う。
「本物の中学生が主人公を演じている。そのリアリティが武器になる。」
私は資料を提示する。
海外版ローカライズ案。
歴史解説の補足AR機能。
大阪城の文化的背景説明。
「単なるアニメではなく、教育コンテンツとして展開できます。」
画面の向こうで役員たちが頷く。
◇
契約成立。
配信日は三か月後。
その間に英語版アフレコ、追加収録、プロモーション。
スケジュールは過密。
星城学園の授業、ブランド運営、そして声優業。
「寝てるか?」
綾小路英隆が静かに尋ねる。
「最低限。」
「倒れるな。」
「倒れません。」
だが、正直に言えば疲労は蓄積している。
夜、寮の部屋で資料を読みながら、ふと手が止まる。
『マスター、心拍数上昇。休息推奨。』
「……少しだけ。」
目を閉じると、大阪城での夕陽が浮かぶ。
原点。
そこから、ここまで来た。
◇
追加収録日。
東京都の大型スタジオ。
今回は英語版キャストも同席。
主人公の英語吹替を担当するのは、若手俳優リアム・ウォーカー。
「本物に会えるなんて光栄だ。」
彼は笑顔で握手する。
「こちらこそ。」
英語で掛け合いを確認。
同じ台詞でも、文化によってニュアンスが違う。
音響監督真田宗一郎が指示を出す。
「感情は共通だ。守りたいものを思い出せ。」
私は再び、星城学園の仲間たちを思い浮かべる。
声に乗せる。
ブース内の空気が変わる。
収録後、リアム・ウォーカーが言う。
「君の声は強い。」
強い。
そうだろうか。
私はただ、信じていることを言葉にしているだけだ。
◇
プロモーション撮影。
場所は大阪城公園。
世界配信用のキービジュアル。
背景に現実の天守。
手前にアニメ版の主人公蒼城燈。
そして、その横に立つ私。
カメラマンは黒川蒼。
「リアルとフィクションの融合だ。」
シャッターが切られる。
観光客が足を止める。
SNSで瞬時に拡散。
〈これが本物?〉
〈クールすぎる〉
〈世界いくなこれ〉
◇
世界同時配信前夜。
星城学園の講堂に大型スクリーンが設置される。
生徒、教師、関係者。
オンラインではロサンゼルス、ロンドン、シンガポールが接続。
カウントダウン。
ゼロ。
配信開始。
各国のチャットが流れる。
英語、スペイン語、フランス語。
主人公が最初の台詞を発する。
――「歴史は、未来を照らす。」
拍手。
講堂が揺れる。
私は静かに画面を見る。
これはゴールではない。
新しいスタート。
◇
翌朝。
海外レビューサイトで高評価。
教育系メディアが特集。
大阪城の来場者数増加。
星城学園には国際交流の申し込みが殺到。
エミリー・カーターからメッセージ。
「シーズン2を検討したい。」
拓真が叫ぶ。
「続編きた!」
佐伯美咲が笑う。
「止まらないね。」
綾小路英隆は静かに言う。
「世界は広いぞ。」
私は頷く。
広い。
だが怖くない。
◇
夜。
屋上。
遠くに輝く街。
『マスター、世界検索トレンド入り。』
「へえ。」
空を見上げる。
あの日、大阪城で感じた重み。
それが、声となり、映像となり、世界へ広がった。
だが私の本質は変わらない。
技術者。
設計者。
未来を描く者。
「次は、劇場版。」
小さく呟く。
風が吹く。
星城学園の校舎が静かに佇む。
ここが原点。
ここから、さらに先へ。
物語は、まだ終わらない。
世界を巻き込みながら、次の舞台へと進み続けていく。




