第43話 卒業式
今日は小学校の卒業式。
校門の前に立った瞬間、胸の奥がふわりと温かくなった。
光と命ちゃんと三人、お揃いの卒業袴。
フリルとレースがたっぷりあしらわれた甘ロリ系デザインで、ぱっと見は「本当に小学生の卒業式?」と言われそうなくらい華やかだ。
これは、大手老舗の着物店がCM用に仕立てた特別仕様。
以前、広告撮影で私が着用した縁で、今日だけ特別に貸していただいたのだ。
私は桜モチーフ。
光は勿忘草の淡いブルー。
命ちゃんは桃色を基調にした花柄。
二人とも、びっくりするくらい似合っている。
「燈由ちゃん、着物ありがとうね!こんなに可愛いの着られるなんて思わなかった!」
命ちゃんが目をきらきらさせる。
「本当だよ!燈由様々だよね。一生の思い出になるよ!ありがとう♡」
光が勢いよく抱きついてきて、レースがくしゃっとなる。
「ちょ、崩れる崩れる!」
笑いながら直してやる。
こうやって三人で並ぶのも、今日で一区切りか。
「中学校は別になっちゃうけど、休みの日に遊びに行こうね?」
私だけが星城学園へ進学する。
「ほんとだよぉお!別に星城じゃなくてもよかったんじゃないの?」
光が頬を膨らませる。
「エスカレーター式なのは変わらないけど、高校でコネ作りができるんよ。」
コネ、という単語に光は黙った。
星城学園は、幼稚舎から大学部まで続く名門私立。
特に高等部は、財界・政界・各業界の子女が集うことで有名だ。
私は中等部から入るけれど、本番はその先。
芸能界だけでなく、将来どんな道に進むにしても、人脈は力になる。
「今日で卒業かぁ……ちょっと名残惜しいね。」
命ちゃんがしみじみと言う。
私も、少しだけ胸が締め付けられた。
「記念写真撮ろうよ!お母さーん!」
母を呼び、校門前で三人並ぶ。
シャッター音。
この瞬間が、きっと何年後かに宝物になる。
◇ ◇ ◇
式が始まる。
体育館に差し込む春の光。
答辞が静かに読み上げられる。
「暖かい陽の光が降り注ぎ、桜の蕾も膨らみ始め――」
ああ、本当に卒業なんだ。
小学校を卒業したら芸能界を引退して、公務員を目指そう。
そんなことを本気で考えていた時期もあった。
でも、気付けば芸能活動が楽しくて、高校卒業まで続ける約束に延長してしまった。
夢はまだ決まっていない。
ただ一つ確かなのは。
自分で稼ぎ、自分で選択肢を持ちたいということ。
壇上で卒業証書を受け取る。
視線の先。
両親が号泣している。
……あれ?
前回、こんなに泣いてたっけ?
今回は学費も自分で負担している。
親に金銭的負担をかけていない分、余計に感慨深いのだろうか。
少し引きつつも、胸が温かくなる。
◇ ◇ ◇
ホームルーム後は怒涛だった。
芸能学校らしく、校門には取材陣。
当然、私にもマイクが向けられる。
「燈由ちゃんは中学は星城学園に進学されるそうですね。芸能活動を続けるなら星箕学園の方が良かったのでは?」
この記者、わざとだよね?
でも笑顔。
完璧な営業スマイル。
「はい、星箕学園は芸能活動にとても理解があり、偏差値も高く素晴らしい学校です。」
まずは母校を立てる。
その上で。
「ですが、将来の選択肢を広げるために星城学園を選びました。」
「将来の選択肢、ですか?」
「はい。星城学園高等部の卒業生は、各界で成功されています。私もそんな一人になれたらと思っています。」
記者がさらに踏み込む。
「将来の夢は?」
私は満面の笑みで答えた。
「第一希望は公務員です♡」
一瞬、場が固まる。
アイドルが、公務員。
そのギャップ。
どう報じられるのか、正直ちょっと楽しみだ。
◇ ◇ ◇
「インタビューどうだった?」
光がニヤニヤしている。
「星城に行く理由聞かれた。」
「あー、お金持ちの超進学校だもんね。」
「まぁね。でも本番は高校だよ。って、勉強会どうするの?」
その一言で、光が青ざめた。
「ぎゃあああ!!私、留年する!!助けて燈由もぉん!!」
青い狸扱いは心外だ。
「まぁまぁ、私と続けようよ。」
命ちゃんがなだめる。
私は腕を組んで考えるふりをする。
「時間がある時は見るよ。その代わり、そっちのテスト問題よろしく。」
「横流し!?!?」
「他校の問題は勉強になるんですー。」
光は応用問題で詰まるタイプ。
基礎はできるのに、ひねられると止まる。
「休み時間に教えてもらえないのキツいよぉ!」
「写真送ってくれれば解説する。ビデオ通話も可。」
パケット定額、信じてる。
「ありがとぉおお燈由ち゛ゃ゛ん!!」
泣きながら抱きついてくる光。
私は苦笑しながら、そっと二人を見つめた。
中学は別々。
新しい環境。
新しい人間関係。
星城学園という、少し背伸びした世界。
不安がないわけじゃない。
でも。
私は私の道を行く。
芸能界も、学業も、人脈も。
全部手放さない。
桜の蕾が、校庭の端で揺れている。
次に満開を見る頃、私はどんな場所に立っているのだろう。
小学校卒業。
それは終わりじゃなくて。
私にとっては、野心を抱えた新章の始まりだった。




