第40話 インスタントダンジョン
神様ガチャの新たな恩恵――インスタントダンジョン。
最初は「勉強ブースト装置では?」なんて甘い期待を抱いたけれど、現実はゼリー状のスライムとの戦闘から始まった。
◇
「イリス、今日も行くよ」
〈難易度:表Normalを推奨します。Easyは経験値効率が低下しています〉
効率厨め。
でも事実、私はもうEasyでは物足りなくなっていた。
地面に魔法陣が浮かび、視界が白く反転する。
次の瞬間、別次元。
湿った空気。
苔むした石壁。
遠くで響く魔物の唸り声。
そして――時間停止。
地球側の私は蔵の中で静止しているらしい。
便利すぎる。
◇
Normalに入った瞬間、スライムはもう雑魚だった。
代わりに現れたのは角の生えたウルフ型モンスター。
「イリス、ステータス表示」
〈敵個体:フォレストウルフ。敏捷性高〉
突進。
速い。
私は結界を“斜め”に展開した。
ドンッ!!
ウルフが自分の勢いで弾かれる。
「結界は壁じゃなくて、面で殴る!」
圧縮。
縮小。
ギチギチと音を立てて拘束。
そこへ――
「Waterball・改!」
以前は魔力30で雑に撃っていた。
今は違う。
魔力3。
だが内部圧縮率を10倍に。
ピンポイント射出。
水弾がウルフの額を撃ち抜いた。
魔石ドロップ。
〈魔力効率:前回比92%改善〉
「よし!」
◇
ダンジョン生活で一番変わったのは、思考速度だった。
戦闘中に同時並行で勉強。
〈問題:二次関数の最大値〉
「x=-b/2a」
斬る。
〈正解〉
蹴る。
結界展開。
暗記。
詠唱省略。
私はもはや“ながら学習の化身”だった。
◇
そして、ある日。
〈スキル獲得:剣術Lv1〉
「え、ヒョコって生えた!」
スキルって本当に生えるんだ。
剣を振るう感覚が変わる。
無駄な力が抜ける。
刃筋が通る。
祖母の蔵にあった打刀が、やっと“武器”になった。
◇
Hardに挑戦した時は流石に死ぬかと思った。
巨大なオーガ。
棍棒一撃で地面が陥没。
HPは減らないとはいえ、痛覚はある。
痛いものは痛い。
「結界・多層展開!」
三重。
圧縮。
反発力を攻撃に転用。
オーガの腕が弾かれる。
そこへ足場結界。
空中へ跳躍。
「雷槍!」
素粒子構築。
電位差生成。
一点集中。
ドゴォッ!!
焦げた匂い。
巨体が崩れる。
〈スキル獲得:雷魔法Lv1〉
「やったぁ!!」
アニメで見た理論を再現しただけだけど、成功すると脳汁が出る。
◇
そして私は気付いた。
「これ、日本で生きるのに必要?」
冷静な疑問。
〈ダンジョン報酬を確認します〉
宝箱出現。
中身は――
【錬金術スキル】
「……必要かもしれない」
ポーションを作れば怪我治せる。
素材売れば資金増える。
既に資産50億超えだけど。
でも“選択肢”が増えるのは強い。
◇
私は錬金術を習得し、ポーション生成を試みた。
魔石粉末。
薬草エキス。
魔力攪拌。
淡い青の液体。
〈品質:上級〉
「売ったらいくら?」
〈非合法市場推定価格:数百万〉
「やめとこ」
日本は法治国家です。
◇
一番ハマったのは結界魔法だった。
某結界バトル漫画を参考に、立体構築。
「圧縮・立方封印!」
スライムをキューブ状に閉じ込める。
ぎゅう。
……ちょっとグロい。
でも強い。
足場にもなる。
盾にもなる。
刃にもなる。
汎用性S。
◇
Extraはまだ手を出していない。
イリスが止める。
〈現在の総合戦闘力では推奨できません〉
「いつなら行けるの?」
〈剣術・体術・主要魔法がLv5以上〉
遠い。
でもワクワクする。
◇
現実世界では私は受験生。
芸能活動もある。
映画も、歌も、勉強も。
その裏で――
ダンジョン攻略。
誰も知らない私の第二の人生。
時間停止空間で、私は何年分も戦っている。
老いない。
死なない。
失敗してもやり直せる。
反則級の環境。
◇
ある日、隠し通路を発見した。
〈隠しダンジョン条件達成〉
壁の奥に転移門。
紫の光。
心臓が跳ねる。
「イリス、入る?」
〈リスク高。報酬も高〉
私は笑った。
「面白そうじゃん」
怖さより好奇心が勝つ。
昔からそうだ。
◇
インスタントダンジョンは、ただの修行場じゃない。
私の可能性を拡張する場所。
完全記憶。
素粒子構築。
魔法創造。
現実では使えない力かもしれない。
でも。
強さは心を変える。
「魔法戦士、悪くないよね?」
〈近接・遠距離・支援の三系統習得を推奨します〉
「欲張りだなぁ」
〈マスターもです〉
否定できない。
こうして私のライフワークに、
・受験勉強
・芸能活動
・資産運用
・そしてダンジョン攻略
が加わった。
蔵の中で静止している私を、誰も知らない。
でも別次元で私は今日も戦う。
次はVery Hard。
その先にある“Extra”。
そして隠しダンジョンの最奥。
――希少な恩恵。
どんなスキルが待っているのか。
想像するだけで、心が躍る。
「よし、今日もレベル上げだ!」
私の異次元ライフは、まだ始まったばかりだ。




